事件後の詳細:クーリングタイム
続けて投稿します、本日2回目の投稿です。
評価入れてもらったら投稿せんワケにいかん!!!ヒャッホー
10/30 感嘆符後のスペース追加、三点リーダーを偶数に変更、ルビ等その他追加修正
終わった。俺と夏希のリプレイが終わった。
ずっと心の底でじめじめとしていた俺の傷に今やっと、じんわりとかさぶたが出来て行くような感覚。
まだ治り始めたばかり、でも大きな前進なんだと思う。
みんなそれぞれこちらを向いて、椅子に座っている。牡丹が逃げ子さんに何やら伝え、逃げ子さんは教室を出て行った。
「ゆーちゃんは知らんと思うけど、この事件の後におばちゃんに聞かれたんや。うちの髪の毛切られた時に、優希はいたんか? って。
詳しく話してん。付き合う事になって、周りにやいやい言われて、結果こうなってしまった。全部聞いてもらったら、うちはまぁまぁ楽になった。
やっぱりおばちゃんは専門家やなって思った」
カウンセリング的な事をしたのだろう。
俺と妹を産んだ後も大学に通い続け、精神科医になり心理学の研究を続けていた母親だ。俺や夏希の心の変化にもすぐに気付いた事だろう。
「それで、おばちゃんがゆーちゃんの心にストッパーを作るって言わはって。鏡見るのも嫌がって、自分の顔をめっちゃ嫌いになってしもたんを、何とかせなアカンって。
で、ゆーちゃんをなだめすかして治療してくれた。心のストッパーは、ホンマやったら取り除く為の治療をするらしいんやけど、自分の顔が特別良くも悪くもないって思えるように、気にする事をストップさせる何かを心に埋め込んだらしい。詳しい事は分からん……」
ブロック解除と言うやつだろうか。以前おかんがそのような本を読んでいた気がする。
でもそれとは逆に、心の中に障害となる何かを設置したという事らしい。俺の想像でしかないが。
うちのおかんなら出来たのかも知れない。でも。にわかには信じられない話だ。
「それが原因で優希さんは自分の事、特に顔を本来よりも下にするような言い方をしていたんでしょうか」
うん、牡丹の言う通りだと思う。今もまだその感覚は残っている。俺は他人と比べて特別男前だとはとても思えない。
「これでも?」
紗雪が手鏡を見せてくる。え、誰このイケメン!? これが……、俺……?
いやいや、そんな急に変わる訳ないでしょうに。
「ちょっとずつ戻って行くでしょう。夏希さんが言っていたカメラへの苦手意識も、私達には見て取れませんでしたし。何より生放送に出演してましたしね」
これまた牡丹の言う通りだ。見ず知らずの人に写真を撮られるのはすごく嫌だが、分かった上で撮られる事にさほど抵抗感はない。
いつの間にかトラウマが徐々に解消されて行っていたのかも知れない。
「で、何でお義兄ちゃんと夏希ちゃんが別れる事になったわけ?」
何やら棘のある言い方。引っかかる事でもあるって言うのか?
紗雪を見ると、頬っぺたがちょっとだけ膨らんでいる。何でお前が怒るのか。
「私の顔を見るたびに優希が謝って来て、辛かったんです。優希が悪いわけじゃない、悪いのは私の髪を切った女の子。それに詰め寄って来た先輩やクラスメイト達。
でも……、優希は俺のせいや、俺のせいでごめんなって毎日泣きながら言ってたんです。
辛かった、そんな優希を見たくなかった。私が想いを伝えなかったらこんな事にならなかったんじゃないかって……。
だから、付き合ってた事をそもそもなかった事にすれば、あの教室での出来事も優希の中からなくなるんじゃないかって思って、おばさんにお願いしました。
その時の記憶を消せないか?って」
夏希も苦しんでいたんだ。それなのに俺はすっぱりとその時の記憶が欠落した状態で今まで過ごして来た。
自分だけなかった事にして、夏希の想いも教えてくれた事も忘れて。
今さらながら自己嫌悪に陥ってしてしまう。
けれど記憶を消すなんて事は、そうそう出来る事ではないんじゃないだろうか。
起こった事に対するケアは出来るが、いくら精神科医であろうと起こった事そのものの記憶を消すなんて事が、本当に可能なんだろうか。
「あ~、やっぱりあんたか。牡丹お嬢様から聞いた時からそんな気はしてたけどね……」
……、何で冬美ちゃんがここにいる?
「大場先生、ご足労頂きましてありがとうございます。優希さんはもしかして……?」
「ええ、これは私の甥っ子ですよ、お嬢様。まさか優希が宮坂家のご令嬢達を手玉に取ってるとは……。
姉貴が聞いたら泣いて喜ぶわ」
叔母である大場冬美は母親と同じく精神科医として働いており、勤め先は結構有名な大学病院だ。つまり……。
「優希さん、大場先生は私のカウンセリングをお願いしている先生なの。元々診てもらっていた先生が退職されて、後任として紹介されてからもうずっとお世話になっているんです」
世間は狭いと言ったところか。どこでどう繋がっているか分かったもんではない。
俺はこの叔母を頼ってこちらへと引っ越して来た。
最近はプレイヤーとしての仕事とプライベートでハーレムしてと何かと忙しく、連絡出来ないでいた。
冬美ちゃんからすれば、この2週間での俺の変わりようは想像も付かなかったに違いない。
一番最近会ったのは、バイトの疲れで一日中寝ていて電話を取れず、部屋まで押しかけられた時だっただろうか。
「で、こっちが夏希ね。久しぶり、エミルさんとお呼びした方がいいかな?」
「いえ、今まで通り夏希と呼んで、冬美さん」
夏希が結城エミルと知っていたんだろうか。
何故俺に黙っていた? いや、それはいい。
夏希と冬美ちゃんも会うのは何年ぶりだろうか。
俺達が高校に入ってからは、冬美ちゃんが遊びに来る回数が減ったからな。
瑠璃は何やら残念そうな顔をしているが……、ああ、結婚指輪が見えたからだろうか。
女医で叔母という超レアキャラが手に入りそうだったのにって? 勘弁してくれ、俺はこの人にオムツを替えてもらった事もあるんだぞ。
いくらおばさんと呼ぶなと言われていようが、女として見れるわけがない。
「で、私は優希の事を診ればいいの? それとも夏希?」
「2人一緒で頼むわ、その方がお互いの事確認出来て、安心出来るやろし」
夏希も俺も、お互いの事を考え過ぎて自分の事を後回しにしてしまっていたのかも知れない。今だからこそそう思う。
2人同時に診てもらえば夏希の現状も分かるし、俺はその方がありがたい。
「おっけ~、瑠璃お嬢様もそれでいいですか?」
「ええ、それでお願いします。病院フロアの診察室を使って下さい。
アナタ、無理だけはしないでね? もちろん夏希ちゃんも」
夏希が頷く。
冬美ちゃんを連れて来た逃げ子さんが、今度は病院フロアへと案内してくれる事になった。
石田さんが少し不安そうな顔をしているが、そちらは瑠璃達に任せておこう。
「私達はオフィスに行ってます。ゆっくり診てもらって下さいね?」
はいはい、顔がちょっとお姉ちゃんになっている牡丹に手を振り、逃げ子さんの後に続く。
「そのまま2人で抜け出してもいいんだよ?」
紗雪が耳元で囁く。お前はエスパーか。
次話より優希と夏希の甘い時間をお送り致します。お楽しみに!
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9/22 誤字訂正。一部冬実になっていたのを冬美ちゃんに統一しました。




