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友達の彼女の告白を断ったら、お断り屋にスカウトされました!  作者: なつのさんち


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52/212

放課後の教室:リプレイ

優希・夏希のリプレイ回です。


10/30 感嘆符後のスペース追加、三点リーダーを偶数に変更、ルビ等その他追加修正

「優希君、潮田しおたさんと付き合ってるらしいね。何で隠してたの?」


 白い半そでのブラウスに胸元には朱色のリボン、紺色のスカートを履いた牡丹ぼたんが高圧的に聞いて来た。

 夏希なつきは机に両肘をついた状態で頭を抱え、椅子に座っている。


 まるであの時の再現。この人達は何を考えている? 座っている夏希を囲むように、腕を組んだ瑠璃るり紗雪さゆき牡丹ぼたん・そして石田いしださんが立っている。


「私達には恋愛なんて分からないと言って振ったくせに、幼馴染とは付き合うんだ。ちょっと信じられないんだけど」


 紗雪がそう言って夏希の頭を叩く。止めろ、それ以上はダメだ!

 でも何故か声が出せない、立ち止まったまま前に進めない。


「ねぇ、私の方が可愛いと思わない? 見て、ちゃんと。このコと私、どっちが可愛い?」


 瑠璃が夏希の髪の毛を掴み、無理やりに顔を上げさせる。夏希の目は充血し、焦点が定まっていないように見える。


「止めて……、くれよ。こんな事して何になる? 俺の傷を開いてどうしたいんだ? 今の俺はもうお前達と一緒に暮らすほどの仲じゃないか。

 夏希は関係ない、そうだろ!?」


 叫ぶ、吐きそうだ。頭がガンガンと痛い。膝が震える。足はまだ前に出せないでいる。


「違うでしょ、私はどっちが可愛いか聞いているのよ? アナタは何て答えたの?」


 俺は何て答えたんだろうか、あの先輩に。


 確か三年の先輩だった。何故このクラスにいたのか、夏希が呼んでいると聞いてこの教室に呼び出された時は分からなかったが、俺と夏希の仲を確認する為にみんなで待っていたんだとすぐに気付いたんだった。


「……、夏希の方が可愛いですよ、先輩」


 こう答えたんだ。


「信っじられない! このコまだまだ子供みたいな顔してるわよ? 私の方があなたを男としてもっと喜ばせてあげられると思うんだけど。

 どう、一晩付き合ってみない?」


 この先輩は何を言っているんだ、俺はそう思った。一晩付き合って何をしようと言うのか。

 そもそも俺は夏希と付き合っている。一晩であっても、他の女と付き合うなんて出来ない。

 夏希が勇気を出して教えてくれたんだ、夏希の気持ち。そして気付いてなかった俺の気持ちも。


「僕は夏希と付き合う事にしたんです。恋愛なんて分からないと思ってましたけど、夏希とならきっと今まで以上に楽しい毎日になると思ったんだ。それなのに周りの女子は何で、どうして、私じゃダメだったのかばっかり。

 ……、僕は夏希じゃないとダメなんですよ」


 ヒドイ、どうして、私の何がダメなのと口々に言う5人。

 夏希は髪の毛を離され、俺の目を見ずに下を向いている。長い髪の毛に隠されて、どんな表情なのかは見えない。


「このコのどこがいいのよ! 顔は私の方が綺麗で可愛いわ!!」


「私の方が胸が大きいし、大人っぽくていいと思うわ!」


「あたしもスタイルいいし、好きな男の子には結構尽くすタイプよ!」


 違う、俺が夏希の事を好きな理由はそんなところじゃないんだ。誰かと比べてどこがいいからとか、そんな簡単な理由じゃないんだ!


「夏希は幼馴染で、小さい頃から一緒でした。色んな思い出もあります。過ごして来た時間が違うんですよ」


「あたしは優希君と同じクラスだし、ずっと一緒にいれるわ。これからいっぱい色んな思い出も作って行けばいい。

 何であたしじゃなくて幼馴染なのよ! ただ生まれた頃からの知り合いってだけじゃない!!」


 違う、ずっと昔から一緒にいるから好きなわけじゃない。

 俺は夏希だから好きなんだ。これからも一緒にいたいと思うんだ……。


「夏希とは色んな事をして遊んだ。ずっと学校も一緒で、高校も俺がここに行くって言ったらじゃあ私もって言って同じ高校を選んでくれた。

 毎朝家まで迎えに来てくれて、両親がいない日にはご飯も作りに来てくれる。風邪で休んだら心配して看病しに来てくれる。俺が小さい頃に髪の毛が綺麗だって言ったのを今も覚えていて、毎日手入れして伸ばしてくれている……。

 そんな事にやっと気付いたんだ。夏希はずっと俺の事を想ってくれていた。それなのに俺は何とも思っていなかった。

 こいつがいて当たり前だと思ってたんだ。でもそれではいつまで経っても幼馴染のままで、だから夏希は教えてくれた。一歩前に進めばまた違う毎日が来る。大好きな女の子と一緒なら、もっと楽しい毎日を過ごせるって思えた。

 夏希だからそう思えたんだ。先輩やクラスメイトではダメなんです」


 そうだ、俺はこう答えた。だから、だからあんな事になってしまったんだ。俺がもっと違う言い方をしていたら、夏希は傷付かなくて済んだのかも知れない……!


「そう、このコから君に告白したんだね。許せないな、ボクの優希君を盗るなんて許せない。優希君の為に髪の毛伸ばしてるんだ。

 じゃあこの髪の毛がなくなったら、このコもボクと一緒になるよね。こんな髪の毛いらないよ」


 ツカツカツカと歩き、今まで何も喋らなかった逃げ子さんが夏希の髪の毛を掴む。

 ポケットからハサミを取り出し、、、止めてくれ! これじゃあ本当にただの繰り返しじゃないか!!

 何の為のリプレイだ、何の為にこの状況をやり直してるんだ!? 同じ結末で終わっていいはずがない、どうすればいい?

 考えろ、考えるんだ桐生(希瑠)優希(紗丹)!!!



「待って下さい! でも僕も恋愛というのを意識したのは一週間前で……、もしかしたら夏希だけじゃなく他のコを好きになる事も、もしかしたらあるかも知れません。もしかしたら、ですけど。

 だから、みんなとお付き合います。それで1人1人と付き合ってみて、どうしてもダメだったらお互い合わなかったという事で、別れましょう。

 夏希とは昔からの幼馴染で、過ごした時間も長い。でも他のみんなの事を僕は何も知らない。知らないままお断りするのは失礼でした、今気付きました。ごめんなさい……。

 だから、みんなと付き合いします! みんなと付き合ってみて、もう一度考えさせて下さい!!

 ……、それで、どうでしょうか……?」



 誰も何も言わない。やはりこの考え方、この遠回しなお断りではダメだっただろうか。

 幼馴染みと付き合っている事がバレて、振った女の子達に一斉に詰め寄られる。幼馴染みが自分のせいで髪の毛を切られそうになっている。

 この状況を打開する為、頭おかしい奴だと思わせて向こうから離れてくれる事を狙ってのみんなと同時に付き合うという宣言。


 さすがにこれは無理がある、確かに俺もそう思う。

 だけど、こうでも言ってあの場を今みたいに止める事が出来たら、夏希の髪の毛を切られる事もなかったかも知れない。

 夏希と付き合うのを止める事にしなくても良かったのかも知れない。

 誰も傷付けず、俺が頭のおかしい自意識過剰な男になれていたら……。



「アナタ……」


「お義兄にーちゃん……」


「ゆう、きさん……」


「紗丹君……」


「……」


「……、ゆーちゃんっ!!」


 夏希が立ち上がって椅子を倒し、それに構わず走って俺に抱き着いてくる。


「こんな方法が、多分あったんよ……! 優希もうちも傷付かんと、先輩も優希のクラスメイトも傷付かん方法が……」


 思わず抱き締める、大好きな幼馴染を。

 一週間だけ彼女だった夏希を抱き締めて、俺も涙が止まらない。


 こんな方法で、こんな俺の言い分で、あの人達が納得してくれたのかは分からない。

 けど、夏希としか付き合わないとあの場で言い切ってしまった為に、夏希は手入れをして伸ばしていた大切な髪の毛を切られてしまった。

 髪の毛を切った事によってクラスメイトは停学になり、その後学校を辞めた。他の人達も少なからず高校生活に影響が出ただろう。


 その事に対する罪の意識から、俺自身の心にも傷を付ける事になった。

 俺の事を好きだと言ってくれる全員が不幸になった。

 自分の顔が嫌になり、鏡を見る事も出来なくなるほどの嫌悪感にさいなまれるようになったんだ。

 そうだ、今まで思い出せなかったんだ(忘れていたんだ)……。


「今の優希の言葉でうちは救われた。何とかこの場を乗り切ろうとする優希の言葉で……、あの嫌な事件をやっと乗り越えられた気がする……」


 そうか、それやったら、良かったわ……。



お読み頂きましてありがとうございます。

次回はクーリングタイム、諸々の事情説明回です。

23時に投稿したいところなのですが、書き溜めが心許ないない為、それまでに1話分ストック出来れば投稿したいなと思っております。

投稿がなければお察し下さいませ。


コメント・評価・ブックマーク、何卒よろしくお願い致します!


9/23微修正 冒頭部分の登場人物紹介の中、牡丹だけルビを振っていなかったものにルビを振りました。読んでいて不自然かな、と思いまして。


誤字修正致しました。

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