高校生の恋愛観:瑠璃視点
本日2回目の投稿です。
少し時間を巻き戻し、瑠璃視点でお送り致します。
10/30 感嘆符後のスペース追加、三点リーダーを偶数に変更、ルビ等その他追加修正
「優希、行って来て。お願い、この人達とじっくり話させて」
エミルちゃん、いえ優希君の幼馴染である夏希ちゃんは、そう言って彼を送り出した。
「分かりました、ちょっと行って来ます」
少し気になるのだろうけど、戸惑いつつも牡丹のお願いを聞き入れて受付カウンターへ向かってくれた。彼は優しいから、お願いや少し強めに言ってみたりすると大抵の事は聞いてくれる。
最近では私達の話を聞いてくれるだけでなく、自分の考えややりたい事をしっかりと伝えてくれる事も増えて来た。
少しずつ今の状況に慣れて来てくれたのだと実感し、嬉しく思う。
私達三姉妹の主、優希君。私の主人、その幼馴染の夏希ちゃん。
結城エミルとして芸能活動を始めたキッカケは先ほど教えてもらったけど、ここからは過去に優希君と夏希ちゃんに何があったのかを教えてくれるのかしら。
「さて、優希さんも行ってしまった事ですし、詳しく教えてもらっていいですか?」
牡丹が切り出す。
私達3人は今までの彼の言動、特に自分の外見に対する自己評価があまりに低い事と、自分へと好意を向ける対象の気持ちに鈍感過ぎる事が気になっていた。
彼がいない時に話し合って理由を考えたりもした。
牡丹の例の事件からたびたびお世話になっている精神科医の先生に相談もした。
彼女曰く、「もしかすると、そのケースはちょっと複雑かも知れない」と聞いている。近々彼を診てもらえる機会を作りたいと思う。
「高校に入ってからすぐ、優希はあの見た目ですから女の子達からすごくモテたんです。
中学の頃からモテてはいたんです、ラブレターをもらったり告白されたり。恋愛とか分からないからって全部断ってたらしいんですけど、高校に入る前の春休みにすごく背が伸びたんです。それで中学の時とは比にならないくらいモテるようになりました。
全然知らない先輩に一緒に写真撮ってくれって言われたり、さりげなく体を触られたり、下駄箱で出待ちみたいな事をされたり。
でも身体の成長に心の成長の方がついて行けてなかったみたいで。ただただ嫌だったと後で聞きました」
光景はすぐに思い浮かべる事が出来る。共学の高校であれば割と良く聞く光景。
私達は3人共女子高だったから経験はないけれど。
あ、私は出待ちされる方だったわ。
「優希には幼馴染の私がいたから、女の子には慣れていると思ってたんです。だから私はそれほど問題視してなかった。優希も誰にも相談しなかったと思います。
親にも言えなかっただろうし、男友達に相談してもやっかみを受けるだけだというのは分かったんでしょうね。その状態でしばらく経った後、私に相談してくれました」
幼馴染の女の子に相談をする。彼にとっては結構勇気のいる行動だったんじゃないかと思う。
自分がモテている、ちょっかいをかけられている事を幼馴染とはいえ、女の子に相談するのだから。
それだけ2人の間には信頼関係があったという事なのだろう。
過去の事とは言え、ズキリと胸が痛む。いいえ大丈夫よ、私は彼の正妻なんだから。
「優希の部屋で話を聞いているうちに、どうも優希は私の事を女として見てくれていないなという事に気付きました。私ももう高校生、優希ほどじゃないにしても、先輩や他校の生徒に告白を受ける事もありました。でも全て断っていたんです、好きな人がいるからと。
優希が女の子からの告白を断る本当の理由は、私の事を想ってくれているからだと、本当の理由はそうなんだと思っていました。でも今の幼馴染としての関係が壊れるのを恐れて、気持ちを伝えて来ないだけだと思ってた。
でも違いました。ただの仲の良い幼馴染としか思ってなかった。
性別を超えた存在なんて聞こえはいいですが、私にとっては衝撃で。当たり前のようにこのままずっと2人でいるんだと思ってたんやから……」
当時の気持ちを思い出したのか、夏希ちゃんの目から涙が零れる。
生まれた時からの幼馴染。常に一緒にいた存在に、女として意識されていなかったというのは辛かっただろう。
恐らく夏希ちゃんは中学生、もしかしたらそれ以前から彼を男として意識していた。当然2人は結ばれると思っていたはず。
「……、気付いたら優希にキス、してました。ソファーに押し倒して、今思い出しただけでも恥ずかしいけど……。でも私の気持ちを知ってほしかった、気付いてほしかった。
目を開けたら、優希は固まってました。私がそんな事するなんて、想像もしてなかったんでしょうね。
で、改めてちゃんと言葉に出して伝えました。多分ちゃんと言わないと分からないだろうと思って。そしたら、ちょっと考えさせてくれって。顔真っ赤にして言ってきました。
その時は引き下がって、そのまま帰りました」
「幼馴染にそこまでされて、考えさせてくれって、やっぱりお義兄ちゃんは昔から鈍感なところがあったんだ」
紗雪がため息を付く。私も同じ気持ちだけど、今は夏希ちゃんの話を聞こう。
石田先輩は黙ったままだけど、今はもうちょっと黙っておいてほしい。
「高校には毎朝一緒に通ってましたから、恥ずかしくて不安でしたけど、次の日もいつも通り迎えに行ったんです。
そしたらいつも通りのような顔をして、手を握って来ました。真っ赤な顔をして。「よく考えたら、俺もお前の事好きやわ」って。
それが答えでいいと思いました。それで私の想いは叶った。嬉しかった。
でも……、それだけでは済まなかったんです」
微笑ましい光景だと思う。こうして幼馴染同士の2人が付き合うようになった。
でも2人の関係が一歩前進したからと言って、優希君に対する周りの反応は変わらない。それもみんなが憧れる男子生徒が、たった1人のものになってしまったのだ。
2人を祝福して引き下がるのは大人の反応。でも舞台は高校であり、それほど大人な対応をしてくれるわけではない。
何か2人を引き裂くような悲劇があったのだろう。
それにしてもこのコ、とってもいいわ。幼馴染で女優というキャラだけでなく、優希君の成長を促した立役者。
例え悲劇があったのだとしても、こうして感動的な再会を果たしてまた結ばれようとしている。
今の状況もあって優希君が尻込みしそうだけど、ここは夏希ちゃんという正当派ヒロインの為に何としてもハーレムへ引き込まなくっちゃ!
正妻としてハーレムのスケジュールを優遇してあげるわ。
あら、ちょっと思考が天国へと行ってしまっていたみたいだわ。ちゃんと夏希ちゃんのお話を聞かなくては。
「すぐに噂は広がりました。優希に彼女が出来たらしいと。
さすがに高校までずっと手を握っていたわけではなかったけど、途中で誰かに見られていたんでしょうね。とんでもない事件が起こったかのような騒ぎでした。
休み時間にわざわざ優希に噂を確認しに来る女の先輩や、今まで振った子達。泣き出す人もいたらしいです。
振った理由が恋愛なんて分からないからというものでしたから、まだ希望を持っていたんだと思います。いつか振り向いてくれるかもって。
なのに彼女が出来たらしい、と。恋愛が分からないと言いながら、彼女が出来たんです。みんな納得出来ないって、怒っているようでした。
私はクラスが違ったのと、はっきり私が彼女だというところまで噂になっていなかったようで、直接聞かれる事はありませんでした」
「お断りの方法がまずかったから、結果的にこじれる原因になったという事でしょうね」
牡丹としてはもっと上手に振るべきだったと思っているんだろうけど、それが出来るなら男女の諍いなんてそうそう起こる事はないだろう。
お断り屋のプレイヤーのように、上手に振ってくれる男性なんてそうそういないのだ。
だから私達のお店は繁盛している。伝えられない想いを抱えて苦しむ女性達は、伝えてはいけないと分かっているから苦しむのだ。
でもこれは高校でのお話。
完全に心が成長し切っていない男女の恋愛は、引き際が分からず突っ走ってしまうものだ。そして何かしらの悲劇を生む。
「優希に対する女の子の行動がエスカレートして行きました。
使っているシャーペンを盗られたり、全く知らない他校の生徒に遠くから写メを撮られたり、ひそひそしながら指をさされたり。
すぐに優希は登下校を別にしようと言ってきました。そんなの気にしなければいいと言ったんですけど、家が隣同士だからいつでも会えるって……。
笑顔で言ってましたけど、結構辛そうに見えました」
「それは大変だったわね……」
石田先輩が続ける。
「でも今のあなたと優希君が付き合ったら、その比では済まないわ」
「先輩、今は過去の話の方が重要です。もうちょっと黙っててもらえますか?」
すみません、私達3人にとっては非常に重要な話なんです。そんな顔しても怖くとも何ともないですよ。
「優希はクラスで女子にあからさまにいじられるようになって行きました。女たらしとか、大学生の彼女がいるんでしょって言われたり、机の中に女性物の下着を入れられていたなんて事もあるみたいです。
隠し撮りみたいな写真が出回ったり、優希はどんどん精神的に追い詰められて行きました。本人達にとってはいじりや一方的な好意の押し付けだったんでしょうけど、それはある意味いじめの一種だと思います。
そして……、事件が起きたのは、私達が付き合い始めて一週間後の事でした」
次回、優希と夏希とその他の身内アクトレスによるリプレイをお送り致します。
コラボ作品、心の中へ紡ぐ糸もよろしくお願い致します!
コメント・評価・ブックマーク、何卒なにとぞよろしくお願い申し上げます!!
9/23誤字修正
・過去に結城君と夏希ちゃんに何があったのかを教えてくれるのかしら。 → 過去に優希君と夏希ちゃんに何があったのかを教えてくれるのかしら。
この間違いは致命的……




