大きくて柔らかくて温かい感触
祝! 初ブックマークに浮かれて少ないストックを放出。
10/26 感嘆符後のスペース追加、三点リーダーを偶数に変更
「な、名前ですか? 桐生優希です」
「何歳ですか?」
「18歳です」
「好きな食べ物は何ですか?」
「ケーキです」
「特技はありますか?」
「人とすぐに仲良くなれます」
「自分の長所だと思う所は何ですか?」
「物怖じしない所でしょうか」
予想していたリアクションではなかった為に、一瞬頭が真っ白になってしまった。
その隙を付くように、牡丹さんから次々に質問を投げられ、反射的に次々に答えてしまう。
名前と年齢以降の質問は単なる時間稼ぎだったのではと、後日に気付く事になるんだけど。
「ふむ、確かにプレイヤーデータベースに名前も顔も出ていないわね」
「そうですか、ではあれは本当にプライベートなやり取りだったと言う事ですね」
手元のタブレットを見ながら話す瑠璃さんと、頷く牡丹さん。
何だよプレイヤーデータベースって。
だからフリーターだって何回言わせたら気が済むんだこの2人は。
「さて、優希君。本題に入りたいのだけれど、いいかしら? ずいぶんと不本意そうな顔をしているようだけど」
おっと、顔に出ていましたか、それは失礼。
「いえ、すみません。身の上話をした際の反応が、あまりにも他の人達と違ったもので拍子抜けしてしまいました」
「そう、確かにあなたは辛い経験をしたのだと思うわ。でもね、気を悪くしないで聞いてもらいたいのだけど、実は牡丹も辛い経験をしているのよ」
そう言って、瑠璃さんが牡丹さんの方を見る。
「ええ、私も両親と家族を亡くしています。事故ではなく無理心中なんですけどね。
たまたま私は生き残りまして、瑠璃さんのお宅へ引き取ってもらいました」
……、これはまたヘビーな話題をさらりと言ってくれるじゃないか。
牡丹さんの表情はごく普通、ただの世間話をしているかのような印象だ。
さっきまで俺は、どんな表情で自分の話をしていたのだろうか。
「人よりもどうこう、そんな話をしたいわけではないの。あなたはまだ事故から日が浅いし、牡丹の件はもう10年近く前の話、人それぞれ受け止め方も違う。
でもね、いつかは心の整理が出来ると思うのよ。牡丹もカウンセリングを受けて、今では心の傷も癒えていると思う。
それでも辛い過去の経験はなくならない。だからって、それを枷にして、今を楽しむ事に投げやりになってはダメだと思うのよ」
枷、か。
俺はそんな風に思っているのだろうか。
突然いなくなった両親、一度も目を覚ます事なく亡くなった妹の優奈。
残された俺はどう生きたらいいのだろうか、そんな考えが常に頭の中にあった事に、今改めて気付かされる。
そうだな、残されたわけじゃない。
俺は俺の人生を生きる、それでいいのかな?
そんな事をぼんやりと考えていると、気付けば隣に瑠璃さんが座っていた。
「どうせ生きるなら、楽しく行きたいと思わない? だって、生きているんですもの」
そう言って瑠璃さんは俺の右手を取り、その自らの胸元へと誘う。
「ほら、温かい? これが人の温もりよ」
あ、本当だ、大きくて柔らかくて温かいや……。
いやいや、せっかくの感動的な雰囲気が台無しなんですけど。
明日も22時台に投稿したいと思ってます。
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9/6 R15指定相当へと描写を変更致しました。