雨のコンビニシチュ:リクエスト
結衣崎早月様より頂いたリクエストを元にしたシチュエーションプレイ回です。
頂いたリクエストは、
関係 OLとコンビニ店員
場所 コンビニの駐車場、雨振り中で女性は傘無し
お断り方法 常連客の女性が告白←優希は事情(病気、家族的な何か)を匂わせて更に惚れさせて振る。
です。
リクエスト通りとは言い辛いですが、お楽しみ頂ければ幸いです。
アクトレス視点でお送りしております。
10/26 感嘆符後のスペース追加、三点リーダーを偶数に変更、ルビ等その他追加修正
「ありがとうございました」
そう言って丁寧に頭を下げてくれる店員さん。
分かってる、お客さんになら誰にでも丁寧に接客をしているのは分かっている。
それでも私は彼に言いたい、何でいつも無表情なの? 私だけにあなたの笑顔を見せてくれませんか? と。
春から新社会人として会社に勤め、今では立派にOLをしていると思う。毎日どこかで怒鳴り声の聞こえるオフィスに、私の安心出来る場所はない。
駅からの帰り道、疲れ切って料理なんて出来ないと思った私は、こちらへ越してから一度も入った事のなかったコンビニに入った。
時間が遅いからか店内に人は少なく、店員は2人とも商品を棚へと並べていて忙しそう。ぐるりと店内を見て回り、どれも食べる気にならないまま小さなカップケーキだけを手に取った。
私がレジへと向かうのを見てか、急いでレジへと来てくれる店員さんの顔を見た時、チクリと胸を何かが刺した。
「ありがとうございました」、そう言って丁寧にお辞儀をしてくれる彼に見送られ、外へ出た。
雨が降っていた。
今日に限って折り畳み傘を持っていない。いつもならもう一度店内へと戻るのだけれど、何故か私は彼に戻って来た所を見られたくないと思い、雨を見つめながらしばらく過ごした。
それから少し後、自動ドアが開いて彼が出て来た。ゴミ袋の回収のようだ。
何となく気まずくて、下を向いてしまった。自分が酷く間抜けな顔をしているような気がして、そのまま一歩、雨の中へと踏み出した。
「使って下さい」、彼が開いた傘を差し出してくれた。無表情で、何を思っているのか読み取れない。
憐れだと思われているのだろうか。私は恥ずかしくて、「大丈夫です」と答えた。
それでも彼は、傘を引かない。私が雨に濡れないように差してくれている。
「これ忘れ物の傘なんで、次来られた時に傘立てに刺してくれたらいいですから」、無表情のまま彼は言う。
でもその言葉が、今の私にはとても心地良い。
「あ、ありがとうございます……。明日にでも返しに来ます」、私がそう言うと、彼はまた丁寧にお辞儀をして、ゴミ袋の回収へと戻って行った。
傘は翌日返しに行った。あいにく彼は休みだったようで、店長だと名乗る男性にお礼を言った。「私から返しておきますね」と店長さんは言った。
あの傘は彼の物だったのだ。じゃあ彼は、昨日濡れて帰ったんだろうか。
それからと言うもの、用事がなくてもコンビニを外から覗くのが私の日課になった。
彼がいれば中に入り、お会計の時に一言二言話す。
こないだはありがとうございました、暑いですね、風が強いですね。
彼はと言うと、いえいえ、そうですね、気を付けて下さいねと、私の言った言葉に返事するだけ。
そして最後には「ありがとうございました」と言って、丁寧にお辞儀をしてくれる。
今日も雨が降っている。折り畳み傘は鞄の中。そしてレジには彼がいる。いつかのカップケーキを持って、レジへと進む。
「今日も傘忘れちゃいました」
「そうですか、傘持って来ますね」
「でも、店員さんの傘なんでしょう? 悪いですよ、もう少ししたら止むかも。外で待ってます」
少し考える彼。
「もう少しで時間なんで、お送りしますよ」
無表情なまま、彼は私にそう言った。
時間にして5分ほど待ったのだと思う。私には永遠に感じられたその時間。
早く彼に会いたい、もっと待っていたい。
相反する気持ちを抱えたまま、私は雨を見つめていた。
「お待たせしました、どうぞ」
彼と相合傘で歩き出す。心臓の音がうるさくて、雨の音が聞こえなくなった。
「コンビニのバイト、長いんですか?」
「そうですね、2年くらいですね」
「私は就職してこっちに来たんです。忙しいとどうしてもコンビニに頼りがちで」
他愛もない会話がとても嬉しい。今まで一日に一言二言話すだけだったのに、隣を歩き、会話を続け、雨降る街を相合傘で進んで行く。
もう止められない、止まりたくない!!
「あ、あのっ!」
私は彼と向かい合う。
「はい」
見上げる形で彼の目を見つめ、伝える。
「傘、貸してくれましたよね? あの時からずっとアナタの事が好きです!
無表情だけど、お客さんに対して丁寧で、貸した傘を忘れ物だからと言って気を使わせない、そんなアナタが大好きです。
アナタの笑顔が見てみたい、アナタの事がもっと知りたい、アナタにも私の事を知ってもらいたい!!
お付き合いしてもらえませんか!?」
言った、私。ついに言った、やっと言えた。
膝が震える、唇をきゅっと閉じる。きっと今の私の顔は可愛くない。
それでもいい、想いは伝えられたから。
「ごめんなさい」
無表情なまま、彼は私に頭を下げた。
病気の妹がいて、入院費を稼いでいる。コンビニの他にもバイトをしていて、週に1度だけ休みにして、妹の病院へ行く生活。とても私の気持ちに答える事は出来ない。
少しだけ、本当に少しだけ彼の顔が辛そうに見えた。
どうして今なの? さっきまで勢いよく降っていた雨が止んだ。通り過ぎる車が私の涙を照らす。
私は何に泣いているの?
失恋したから?
彼の妹さんが不憫だから?
彼の辛そうな顔を見てしまったから?
「分かりました、でもまた雨が降ったら送って下さい。それだけでいいです」
「ええ、その時はまた」
アパートの近くで別れた。雨が上がり、私の心は晴れ渡る。
また送ってくれるという無表情な彼の顔に、まるで一筋の月明かりのように、わずかな笑みが浮かんだから。
雲間から月が顔を出した。
私の恋は、終わらない。
いかがでしたでしょうか?
良ければ感想・活動報告までコメント頂ければ嬉しいです。
最後になりましたが、結衣崎早月様は作者として活躍されておりますので、以下に作者マイページを貼らせて頂きます。
http://mypage.syosetu.com/326383/
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9/11誤字修正 今では立派にOLをしているの思う。→今では立派にOLをしていると思う。




