表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
友達の彼女の告白を断ったら、お断り屋にスカウトされました!  作者: なつのさんち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/212

雨のコンビニシチュ:リクエスト

結衣崎早月様より頂いたリクエストを元にしたシチュエーションプレイ回です。

頂いたリクエストは、

関係 OLとコンビニ店員

場所 コンビニの駐車場、雨振り中で女性は傘無し

お断り方法 常連客の女性が告白←優希は事情(病気、家族的な何か)を匂わせて更に惚れさせて振る。

です。


リクエスト通りとは言い辛いですが、お楽しみ頂ければ幸いです。

アクトレス視点でお送りしております。


10/26 感嘆符後のスペース追加、三点リーダーを偶数に変更、ルビ等その他追加修正

「ありがとうございました」


 そう言って丁寧に頭を下げてくれる店員さん。

 分かってる、お客さんになら誰にでも丁寧に接客をしているのは分かっている。

 それでも私は彼に言いたい、何でいつも無表情なの? 私だけにあなたの笑顔を見せてくれませんか? と。


 春から新社会人として会社に勤め、今では立派にOLをしていると思う。毎日どこかで怒鳴り声の聞こえるオフィスに、私の安心出来る場所はない。

 駅からの帰り道、疲れ切って料理なんて出来ないと思った私は、こちらへ越してから一度も入った事のなかったコンビニに入った。

 時間が遅いからか店内に人は少なく、店員は2人とも商品を棚へと並べていて忙しそう。ぐるりと店内を見て回り、どれも食べる気にならないまま小さなカップケーキだけを手に取った。


 私がレジへと向かうのを見てか、急いでレジへと来てくれる店員さんの顔を見た時、チクリと胸を何かが刺した。

「ありがとうございました」、そう言って丁寧にお辞儀をしてくれる彼に見送られ、外へ出た。

 雨が降っていた。

 今日に限って折り畳み傘を持っていない。いつもならもう一度店内へと戻るのだけれど、何故か私は彼に戻って来た所を見られたくないと思い、雨を見つめながらしばらく過ごした。


 それから少し後、自動ドアが開いて彼が出て来た。ゴミ袋の回収のようだ。

 何となく気まずくて、下を向いてしまった。自分が酷く間抜けな顔をしているような気がして、そのまま一歩、雨の中へと踏み出した。


「使って下さい」、彼が開いた傘を差し出してくれた。無表情で、何を思っているのか読み取れない。

 憐れだと思われているのだろうか。私は恥ずかしくて、「大丈夫です」と答えた。

 それでも彼は、傘を引かない。私が雨に濡れないように差してくれている。


「これ忘れ物の傘なんで、次来られた時に傘立てに刺してくれたらいいですから」、無表情のまま彼は言う。

 でもその言葉が、今の私にはとても心地良い。

「あ、ありがとうございます……。明日にでも返しに来ます」、私がそう言うと、彼はまた丁寧にお辞儀をして、ゴミ袋の回収へと戻って行った。


 傘は翌日返しに行った。あいにく彼は休みだったようで、店長だと名乗る男性にお礼を言った。「私から返しておきますね」と店長さんは言った。

 あの傘は彼の物だったのだ。じゃあ彼は、昨日濡れて帰ったんだろうか。


 それからと言うもの、用事がなくてもコンビニを外から覗くのが私の日課になった。

 彼がいれば中に入り、お会計の時に一言二言話す。

 こないだはありがとうございました、暑いですね、風が強いですね。

 彼はと言うと、いえいえ、そうですね、気を付けて下さいねと、私の言った言葉に返事するだけ。

 そして最後には「ありがとうございました」と言って、丁寧にお辞儀をしてくれる。



 今日も雨が降っている。折り畳み傘は鞄の中。そしてレジには彼がいる。いつかのカップケーキを持って、レジへと進む。


「今日も傘忘れちゃいました」


「そうですか、傘持って来ますね」


「でも、店員さんの傘なんでしょう? 悪いですよ、もう少ししたら止むかも。外で待ってます」


 少し考える彼。


「もう少しで時間なんで、お送りしますよ」


 無表情なまま、彼は私にそう言った。


 時間にして5分ほど待ったのだと思う。私には永遠に感じられたその時間。

 早く彼に会いたい、もっと待っていたい。

 相反する気持ちを抱えたまま、私は雨を見つめていた。


「お待たせしました、どうぞ」


 彼と相合傘で歩き出す。心臓の音がうるさくて、雨の音が聞こえなくなった。


「コンビニのバイト、長いんですか?」


「そうですね、2年くらいですね」


「私は就職してこっちに来たんです。忙しいとどうしてもコンビニに頼りがちで」


 他愛もない会話がとても嬉しい。今まで一日に一言二言話すだけだったのに、隣を歩き、会話を続け、雨降る街を相合傘で進んで行く。


 もう止められない、止まりたくない!!



「あ、あのっ!」


 私は彼と向かい合う。


「はい」


 見上げる形で彼の目を見つめ、伝える。


「傘、貸してくれましたよね? あの時からずっとアナタの事が好きです!

 無表情だけど、お客さんに対して丁寧で、貸した傘を忘れ物だからと言って気を使わせない、そんなアナタが大好きです。

 アナタの笑顔が見てみたい、アナタの事がもっと知りたい、アナタにも私の事を知ってもらいたい!!

 お付き合いしてもらえませんか!?」


 言った、私。ついに言った、やっと言えた。

 膝が震える、唇をきゅっと閉じる。きっと今の私の顔は可愛くない。

 それでもいい、想いは伝えられたから。


「ごめんなさい」


 無表情なまま、彼は私に頭を下げた。



 病気の妹がいて、入院費を稼いでいる。コンビニの他にもバイトをしていて、週に1度だけ休みにして、妹の病院へ行く生活。とても私の気持ちに答える事は出来ない。

 少しだけ、本当に少しだけ彼の顔が辛そうに見えた。


 どうして今なの? さっきまで勢いよく降っていた雨が止んだ。通り過ぎる車が私の涙を照らす。

 私は何に泣いているの?

 失恋したから?

 彼の妹さんが不憫だから?

 彼の辛そうな顔を見てしまったから?


「分かりました、でもまた雨が降ったら送って下さい。それだけでいいです」


「ええ、その時はまた」


 アパートの近くで別れた。雨が上がり、私の心は晴れ渡る。

 また送ってくれるという無表情な彼の顔に、まるで一筋の月明かりのように、わずかな笑みが浮かんだから。



 雲間から月が顔を出した。



 私の恋は、終わらない。



いかがでしたでしょうか?

良ければ感想・活動報告までコメント頂ければ嬉しいです。

最後になりましたが、結衣崎早月様は作者として活躍されておりますので、以下に作者マイページを貼らせて頂きます。

http://mypage.syosetu.com/326383/



コメント・評価・ブックマークをよろしくお願いします!


9/11誤字修正 今では立派にOLをしているの思う。→今では立派にOLをしていると思う。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ