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友達の彼女の告白を断ったら、お断り屋にスカウトされました!  作者: なつのさんち


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211/212

生放送中

本日の投稿は三話。

このお話は三話中の二話目です。

「中継入ります!」


『えー、それでは中継先の橋内さーん』


「はい、橋内です。私は今、話題の渦中にありますスペックスビルの会議室スペースにおります。

 早速ご紹介致しましょう、結城エミルさんと希瑠紗丹さんです」


『お久しぶりですねー、紗丹さん。エミルさんはこうしてお話するのは初めてですかね』


「初めまして、よろしくお願い致します」


「お久しぶりです、宮屋さん」


『実はお二人が生配信されている画面をスタジオのモニターでずっと流れしてたんですわ。お元気そうで何よりです』


 見られているとは思わなかったな。まぁこっちも見てたんだしお互い様かな。


「えー、今回の騒動について詳しくお話をお聞きしたいところなのですが、お断り屋というサービスや希瑠紗丹という人物についてご存じの方々にとってはもう周知の事実である内容になる為、私の方で簡単に説明させて頂きます」


 結城エミルと希瑠紗丹は幼馴染で、高校の頃に付き合っていた時期があった。

 学校の中でトラブルに巻き込まれ、泣く泣く別れてしまった事。

 そして俺が家族を亡くしてしまった事をきっかけに、疎遠になってしまった事。

 俺は生活の場を変えてリスタートする為に上京し、夏希はスカウトされて女優の道へ。

 俺もお断り屋やスカウトされ、そして『見てみや!』の生中継で初共演。

 その後希瑠紗丹も俳優としてデビューする事になり、映画でも共演する事になる。

 予定通り、橋内さんが今までYouTubeで公開して来た俺達の情報を整理し、簡潔に話してくれた。


『生配信の時に瑠璃社長もチラっと映ってましたけど、社長が洗脳されてるんちゃうかという報道についてご本人から一言頂けます?』


「えーっと、ちょっとお待ち下さいね!」


 橋内さんが慌ててカメラの向こう側とやり取りして見せているが、これは筋書き通りの展開だ。瑠璃が俺達の座っている隣に立ち、カメラ目線で宮屋さんと会話する。


「洗脳なんてとんでもないです。私が紗丹をスカウトした立場ですし、本人は最初嫌がっておりましたから。

 どちらかと言えば私達が紗丹をその気にさせて、今の状況まで持って来たという形ですし」


 上がり症の瑠璃が頑張って宮屋さんの質問に答えている。カメラの向こうにはカンペを持ったメイド姿の紗雪がおり、その隣にいるひめも手でゆっくり喋るよう合図をしている。


『軟禁されてるんちゃうかという話もありましたが、そこにうちの中継スタッフがいる時点でその可能性はゼロですわな。そんだけの人数がおったら何かしらSOSが出せるはずやしね』


「軟禁うんぬんの報道について、私の方からそのような形跡はないと断言します」


 俺がスタジオに出向くのではなく、橋内さん達番組制作陣をスペックスビル内へお招きした最大の理由はこれだ。

 橋内さんという報道番組のキャスターから見た、俺達の現在を伝えてもらえればより真実として受け入れてもらいやすいと思ったからだ。

 特に俺達の事を詳しく知らない、垂れ流されている報道という名のノイズを頭から浴びている人達に向けて発信してもらうべく、今日の出演依頼を受けたのだから。いつも見ているキャスターが言ってるんだから信じてくれるだろう。


『しかしあれですねー、人気女優が恋人で美人社長のパトロンがおって、ご自身も俳優としての才能が認められている。ほんで歌手としてデビューもしてる。

 これは多少騒がれるのは仕方ないんとちゃいますか!』


「ははは」


 ここは適当に愛想笑いで流しておこう。予定されている時間はもう残り少ない。


「ちょっと待って下さい宮屋さん。確かに紗丹さんやエミルさんは人から見られる職業です。しかしですね、謂われのない誹謗中傷を浴びせるのはどうかという話なんですよ!!」


 しかし、この宮屋さんの発言に噛み付いてしまった人物がいた。それは夏希でもなく瑠璃でもなく、また牡丹でも紗雪でもひめでもみみでも千里さんでもなく。

 俺と宮屋さんの間を取り持つべき立場である、キャスターの橋内さんだった。


「何も悪い事をしていないのに、このビルから外に出られずじっと耐えておられるんです! こんな酷い事がありますか!?」


『ちょっと橋内さん、あなたがヒートアップしてどうするんですか』


「しかしですね、今の状況はあまりにもお気の毒で……。同じく報道に関わる人間として、こんな事は許されるべきではないと改めて思った訳です!!」


 宮屋さんの声掛けに耳を傾けず、さらに続ける橋内さん。ちょっとマズイな。悪意をもって見るならば、スペックスサイドに買収されたキャスターという印象に仕立て上げられる可能性もある。どうにかして話を変えないと。いきなり俺が声を上げて話し初めても問題ないような内容って何かあるだろうか……。


『そうは言ってもね、紗丹さんの身の回りにはエミルさん以外にも美人な社長や優秀なお仲間とかがおられる訳でしょ? やっぱりやっかみとか嫉妬とかはありますからね。

 ホンマは周りの女性全員紗丹さんの恋人なんとちゃいますか? ねぇ紗丹さん』


「え? えぇ……」


 ヤバ、宮屋さんが何て言っているのか聞いていなかった。とりあえず同意してしまったが、周りの反応を見る限り、あまり良くない返事をしてしまったような雰囲気が伝わって来る。

 カメラの向こう側でディレクターさんがインカムで何か喋っているのが見える。牡丹達が頭の上で大きくバツを作って、さらに首を横に振っている。


『ノリがええお人やな! ほなアレですか、エミルさんだけでなく美人社長や美人秘書や美人メイドや他の美人女優や、えーっと他なんかあるやろか。あ、謎の美人スパイとか!

 紗丹さんにはぎょうさん恋人がおると、そういう事でよろしいですか?』


 はぁ!? 俺の事全部知ってるのかこの人、ってくらい事情に詳しくね!?

 これって独自に取材してたって事なんだろうか。俺達の中に情報提供者がいる訳ないし。女スパイだったとはいえ、今のみみがそんな事をするはずがない。

 どう答えるのがいいんだろうか、あんま考えて間を取り過ぎても変な印象を与えかねない。

 よし、ノリがいい人って言われてるんだからもっとノってしまえ!


「そうですね。全員私の大切な人です」


『紗丹さんすみません、一旦CM入りますねー』


 今CM!?


「ちょっと待って下さい!」


「あー、紗丹さん。もうCMに入ってます。あと一回生中継が繋がりますので」


 ディレクターさんの感情の籠っていない声。うわ、誤解されてる。いや、誤解じゃないんだけど。

 テレビを見ている視聴者は俺がボケた事を理解してくれるだろうか。いや、初めて俺を見た人には伝わらないだろう。

 ボケたはボケたんだけど、そもそも本当の事だからな。全面的に否定するべきところだったんだろうけど、どうしてそれが出来なかった。


「紗丹君、落ち着いて。フリが来たからボケただけ、そうでしょう?

 もう一度中継が来るから、しっかり否定しておきましょうね」


 牡丹はそう言うが、可能であればノリという事で否定せずに終わりたい。いや、否定はすべきなのか。けどなぁ……。


「否定する必要はない。事実は事実。私と優希は愛し合っている。何があってもこの気持ちは変わらない」


 ひめが俺に抱き着いて来る。ディレクターさんの表情がすごい事になっているのが見える。


「私も旦那様への永遠の愛を誓います」


 美少女メイド紗雪も俺の元へ駆け寄る。まるで物語の最終回のような展開。ハッピーエンドへ向けて一直線だ!


「嘘は付けない、俺はみんなを愛している!」


「CM明けまで15秒前でーす」


 あ、はい。分かりました。ひめと紗雪がいそいそとカメラからフレームアウトする。


『もしもし紗丹さーん、いきなりCM行ってすみませんでしたね』


「いえいえ、大丈夫ですよ」


『しっかし最近の若者はすごいですねぇ、YouTubeの生配信中に恋人への愛を叫ぶんですから。それも一人やないですよ、複数人に対する愛ですよ!

 いやぁ、時代は変わるもんですねぇ、夏川さん』


『えぇ、やはり愛の前には何者も敵わないんですねぇ』


 あ、生配信……。

 いや、今さら取り繕ってもしょうがない。言ってしまったからには堂々と。何も悪い事してないんだから。


「はい、俺はみんなを愛しています。みんな大切な恋人ですと、胸を張って言えます」


 カメラ目線でキメ顔で堂々と、はっきり宣言しよう。

 隣に座っている夏希の腰を抱き寄せ、感極まった表情で胸に飛び込んで来る瑠璃を受け止め、呆れたような表情を浮かべる牡丹に笑い掛け、俺と夏希の間に入り込もうとするひめの頭頂部に頬擦りし、澄まし顔の紗雪の目尻に浮かぶ涙を見やり、そっと俺の後ろへ立つみみの気配を感じ、何故かカメラにフレームインする千里さんと花蓮さんには何も言えず……。


「俺達は、みんなで幸せになります」


・・・・・

・・・・

・・・

・・


 結論から言うと、社会全体からバッシングを受けた。



次話に続く。

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