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友達の彼女の告白を断ったら、お断り屋にスカウトされました!  作者: なつのさんち


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209/212

取材依頼と出演依頼

 結局、生配信していたのがあだとなり、俺が複数の女性と親密にしている事が大々的に報道される事となった。報道陣に対するプレイヤーやエキストラアクトレスからのお断りについて、特に報道されなかった。これが報道しない権利か。

 そしてマスコミは俺のそばにいるエミル以外の女性の内、瑠璃を含む三人の身元についてはすぐに調べがついたようだ。元々顔を隠してスペックスを運営している訳ではないので、そう難しくはなかっただろう。瑠璃は『見てみや!』出演時に宮坂グループのご令嬢、と宮屋さんに紹介されている。


 スペックス社長、宮坂瑠璃。

 スペックス役員、宮坂牡丹。

 スペックス役員、宮坂紗雪。


 あの宮坂グループのご令嬢である。報道機関とはいえ、マスコミは広告収入で収益を得ている。そしてその何パーセントかは、宮坂グループに所属している会社から広告宣伝費として出されている。

 下手な報道をすれば何人の首が飛ぶのか分かったもんじゃない。この事実をマスコミ各社が再確認した時点でこの騒動は収まるかと思ったが、そうでもなかった。馬鹿なのか怖いもの知らずなのか。


『スペックス役員である宮坂牡丹氏は社長である瑠璃氏の従姉妹にあたり、実の姉による無理心中事件の唯一の生き残りで……』


 とっくに済んだはずの話題を掘り起こし、なおかつ当時未成年だった牡丹の個人情報を全国ネットで晒した番組があった。この番組の提供に宮坂グループの会社は一社も関わっていなかったが、そんな番組が無傷である訳がない。

 宮坂三姉妹の父、賢一さんが裏から働きかけ、翌日には番組内で過去の事件の当時未成年であった被害者の名前を報道してしまった事に対する謝罪の放送。そしてさらにその数日後にはその番組は終了。テレビ局内制作スタッフはクビ・左遷などの社会的制裁を受ける事となった。

 さらにその番組を放送したテレビ局から宮坂グループの会社が一斉に手を引く事態となり、憶測が憶測を呼んで株価が大暴落、連日のストップ安を記録。

 また、放送倫理・番組向上機構、通称BPOが問題の番組について審議に入るなど、様々な問題へと発展している。


 さすがにもうこの騒動に触れるマスコミ関係者はいないだろう、と思われた。


『希瑠紗丹氏のそばには複数の女性の影が……』

『スペックス社長は洗脳状態なのではないかという証言が……』

『元アクトレスだと名乗る女性への取材から希瑠氏の異常な行動が明らかに……』

『女性達はスペックスビルに軟禁されている可能性が……』


 どうやら俺を教祖認定し、いかがわしい新興宗教団体のような扱いを始めたのだ。俺という加害者からマスコミが宮坂三姉妹を救うという構図を作りたいらしく、この形ならば宮坂家の怒りに触れないだろうという魂胆のようだ。何なら宮坂家の味方をして点数を稼ぎに行っているようにも見えるから笑えるよな。

 どうやら俺が宮坂三姉妹をたぶらかして取り入っていると思っているようで、俺と賢一さんとの関係性まで掴めていないのが原因だと思う。

 ただ、だからといって賢一さんがさらに手を回すかというとそんな事はない。牡丹の件は完全にマスコミ側が違法な報道をした為の行動。さらにテレビ局から一斉に手を引いたのは賢一さんの指示によるものではなく、忖度が働いた結果らしい。

 テレビ局の偉いさんが大勢で家の玄関で土下座したらしいけど、誰かが指示したものではないので対応のしようがない説明して帰ってもらった、と宮坂家メイド長の芹屋(せりや)さんから聞いた。

 ちなみに芹屋さんはマスコミが張っている表玄関から堂々とスペックスビルの中へ入って来た。報道陣は何となく宮坂家の関係者だと気付いたようで、シーンと静まり返ったと話してくれた。そして俺達へ、と陣中見舞いとしてスイーツなどの差し入れを置いて帰って行かれた。


 賢一さんは俺が頼めば何とかしてくれるのかもしれないが、こんな事で迷惑を掛けたくない。いや、娘さん三人をがっつり巻き込んだ形にはなっているんだけど、そもそも俺をスカウトしてこんなにしたのはその三人なのでノーカウントという事で。


 心なしかちょっと人数は少なくなったような気もするが、それでもずっと表玄関前に居座っている報道陣。

 みんな外に出れていないストレスからか、気持ちがトゲトゲして暗く攻撃的になりつつある。


「しつこい。ここから水を撒くべき」

「この高さから落とした水が当たったら頭もげるで」

「構わない、やるべき」

「あれって報道って言うのかしら?」

「パパラッチの類でしょ?」

「全うな商売の出来ない人達なんですよ」

「芸能事務所って力ないのね」

「あそこはうちの敷地内だから通報すれば一発よ」

「すみません、父にも父なりの考えがあるのだと思います……」

「本当かしら」

「すみません、すみません……」


 そろそろ打開策を見つけるか、それともこのままあの人達が飽きるのを待っているか。世間の目は報道陣に批判的で、スペックスに関心のないネット民達でもうんざりしているようだ。

 一方、迷惑系YouTuberと呼ばれる人達が表玄関から生配信をしてトラブルになっていたりする。俺達は無関係だとTwitterを通じて声明を出した。俺達が迷惑行為をするよう持ち掛けたなどと言われたらそれこそ迷惑な話になる。

 そんな事があるかと思えば、お笑い芸人さんからコラボしようという連絡を頂いたりもする。この騒動が終わってから考えさせて下さいとお断りをしているが、その時向こうがどう言ってくるだろうか。多分なかった事になるような気がするけど。


 ぼちぼち方向性だけでも決めたいなと話している時に、情報番組への出演依頼が舞い込んだ。この一件には関わって来なかった、『見てみや!』のスタッフからだ。

 取材依頼自体はTwitterのDMなどを通じて無数に来ていたのだが、今回の依頼は高畑芸能事務所宛てに来たお仕事という形で、取材依頼ではなく番組への出演依頼。

 何が違うかって? ギャラが発生する。報道陣の何か図々しいかって、金も払わず人の顔や情報をテレビで垂れ流して金儲けしているところだ。

 一方、『見てみや!』からは俺とエミルという二人のタレントに対して、正式に出演依頼をして来たのだ。

 取材はタダで出来るもの、と思い込んでいるマスコミとは少し違う立場である事を表した『見てみや!』のスタッフへ応えるべきだ。他のマスコミのように依頼を突っぱねてしまうのはダメだと判断し、スペックス関係者としてではなく希瑠紗丹・結城エミル関係者として話し合う事になった。


「なるほど、このビルに橋内さんが来られると。中継形式でスタジオの宮屋さんとやり取りする形か」


「彼女ならアクトレスとして希瑠紗丹やスペックスに配慮した態度で取材してくれるような気がします」


 牡丹はそう言うが、彼女もまたマスコミ関係者。俺は家族の事故の件でかなり強引な取材をされた経験があるし、今回も好き勝手に報道されている。

 牡丹だって辛い過去を世間に公表された被害者だ。すんなりと信用して良いものかどうか、俺は決めかねている。


「じゃあ今回もYouTubeで生配信しながら取材を受けたらええんちゃう?」


「いや、それで前回失敗したやろ」


「前のは突発的に配信したけど、今回は生配信する! って分かってるんやからある程度準備とか心構えとかあるやんか。

 うちは一緒に取材受けるから同じ場にいるとして、ひーちゃんはまだ一緒にいるってバレてへんからマンションに帰っといてもらうとか」


「仲間外れは良くない、私はテコでも動かない」


 ひめが俺の腰目掛けてタックルをかまして来た。受け止めて、背中をポンポンを撫でる。そして右隣に紗雪が座り、夏希が左隣に。対面のソファーに座っている瑠璃と牡丹も俺を見つめて頷いて来た。

 あれか? このメンバー全員で取材に挑むつもりでいるって事か?


「ご主人様、何もご指示を下さらないので勝手に馳せ参じました」


「私もブレーンとして、黙って見ているのは限界です」


 みみと千里さんがリビングへ入って来た。えっと、不法侵入……?


「勝手ながら、私がご案内したけどダメだったかしら?」


「花江さん!? マスコミは大丈夫だったんですか?」


 二人をここまで連れて来たのは、宮坂三姉妹の母、花江さんだったようだ。しかし、何故今のタイミングで?


「主人から様子を見て来てくれと言われてね。ここに来る途中でお二人に会ったのでお連れしたの」


 手には差し入れらしき紙袋が。いつもありがとうございます。

 しかし、どうやって表玄関の取材陣を突破したんだろうか、まさか無理矢理?


「あら、優希君は知らないの? このビルには秘密の出入り口が何か所もあるのよ?」


 秘密の出入り口? 初耳なんだが。表玄関から最上階(自宅)直通のエレベーターがあるところから、ほぼ全ての出入り口にカメラが向けられていると思っていたんだけど。

 宮坂三姉妹の方を見るとあからさまに目を逸らされた。わざと教えなかったな?


「まぁええやん、籠城ごっこ楽しかったし」


「お前も知っとったんかい!」


「ええやんええやん」


「ひめ、お前もか……」


 知らなかったのは、俺だけだったらしい。


「もしかしてUberEatsの格好する必要なかったんですかね……?」


 あ、ここにもいたわ。



 みみがみんなに断って、俺を部屋の外へ連れ出す。今現在みみに対して特別な指示は出しておらず、基本的に俺達の活動に対して視聴者やネットユーザーがどのような反応を示しているかのモニタリング的な役割をお願いしている。


「ご主人様、道子様より伝言を賜りました」


 道子さんから? 元々道子さんとは密に連絡を取り合っている仲ではないが、用事があるなら電話してくれればいいのに。


「道子様との関係性が分かるようなもの、具体的に挙げると電話番号等ですが、それらを全て消去しておくように、との事でした。

 また、道子様の方でも同様にご主人様や私の連絡先を全て消去、破棄されております。関係者含めてアプリ上からアクトレス登録を解除されたとご報告を受けました」


 そういう事か。俺と反社会的勢力との繋がりがある事がバレれば、事態は比べ物にならないくらい大きくなってしまう。いくら道子さん個人が良い人で、夫婦共にその道から足を洗いたがっている人達だとしても、反社会的勢力である事に変わりはない。

 よくよく考えれば、今までよく俺のウィークポイントを嗅ぎ付けられなかったものだ。運が良かったのか、それとも誰かが裏で守ってくれていたのか。

 

「……分かった」


 本当はこんな事をしたくはないが、スペックス側で管理している顧客情報も抹消した方が良さそうだ。

 瑠璃を呼び、先ほどの内容を伝えると、スペックス社長としても道子さん達の情報は破棄しておいた方が良いと判断した。

 瑠璃から具体的な指示を出してもらい、早速みみに動いてもらう事にした。


「それで、アナタ。『見てみや!』の出演依頼、お受けしますか?」


 あぁ、そうだった。


「……受けようか」





また来週。

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