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友達の彼女の告白を断ったら、お断り屋にスカウトされました!  作者: なつのさんち


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208/212

スペックスビル表玄関前より中継


『結城エミルさんはこのビル内にいる模様です』

『希瑠紗丹氏の自宅と思われます』

『この建物はスペックスの運営会社の不動産であり、賃貸物件ではない事が判明致しました』

『会社の寮がビル内にあるという事でしょうか?』

『今日まで出入りしている人が見られませんのでそれはないかと』


 スペックスビルの前からの中継が朝のワイドショーを賑わせている。どの局も同じような光景。そんなに大ニュースだろうか。


「魔性の女ですって。嫌だわー、あたしの優希をたぶらかさないでもらえる?」


 ソファーに座っている俺を真ん中に、右側の紗雪が左側の夏希に突っかかっている。


「あたしの優希やて? これはうちのんや、うちがたぶらかしてうちナシでは生きて行けん身体にしたったんや、そっちかて構わんといてくれるか?」


 きゃいきゃいとじゃれ合っている二人。夏希は特にダメージを受けているようには見えない。主にダメージを受けているのは花蓮さんだ。


「私があの時あんな事を言わなければ……」


『YouTubeの動画撮影時、エミルさんのマネージャーが現場で圧力を掛けたという情報が……』


 人の口に戸は立てられぬ、という事が実証された。正確に伝わっていない事から、現場にいたスタッフが情報をリークしたのではなく、知り合いにポロっと漏らしてしまった話がどんどん広がって行った結果なんだと思う。

 しかし、あれだ。完全に思い上がっていたのかもしれない。俺の記事が出ると聞いた時、俺がメインで何か書かれるんだと思い込んでいた。

 実際に週刊誌が出てみれば、メインは結城エミルだった。そりゃそうだ、世間の知名度から言えば圧倒的にエミルの方が知られているんだから。

 エミルの好感度はダダ下がり。高畑芸能事務所としては大ダメージである。

 でも当の本人である結城エミルこと潮田夏希は、何とも思っていない。

 だって、嘘だし。

 だって、女優という職業に固執していないし。

 だって、ずっと俺のそばにいられるし。


「情報元は高校の先輩でしょうか。Twitterへ投稿したアカウントへDMで取材協力の連絡が来たとかでしょうね。

 もしくは自分は振られたのに、優希さんと夏希ちゃんが今も仲良くしているのを聞いて逆恨みで週刊誌に情報を売ったとか」


 牡丹の言う通りなのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。それは分からない。情報元って言っているだけで、記者の飛ばし記事がたまたま真実に少しだけ近いものになった可能性だってあるのだから。


「はぁ、うちも引退かー。二十歳で引退して、後は子育てに専念しよかな」


 夏希が上目遣いで俺を見ながら、ゆっくりとお腹を撫でて見せる。


「あ、なっちゃんも? じゃあ同い年の兄弟になるねー」


「さーちゃんもか、ええやんええやん」


 紗雪もお腹を撫で始める。それを見た瑠璃と牡丹も、頬を緩めながらお腹を撫でる。えーっと……。


「こんな時、どんな顔をすればいいか分からないの……」


「笑ってる場合じゃない事だけは確かですよ!」


 花蓮さんがツッコむのって結構珍しいかもしれない。


「今後の芸能活動が……、イメージが……、エミルも紗丹も同時に危機に……、私のせいで……」


 ツッコんだと思ったら次は頭を抱え出す花蓮さん。動画のチェックをした内の一人だから、この騒動の原因といえば原因である。


「ま、冗談は置いといて。うちはいつまでここにおってもええんやろうか」


「冗談……? 何や、嘘なんか。そうか、ちょっと残念やな……」


「残念がる必要はない。今から作ればいいだけ」


 今まで気を遣ってか、存在感を極限まで薄めていたひめが俺の手を取ってどこかへ連れて行こうとする。

 その手を引き寄せて、膝の上に抱っこする。


「ま、その件は追々という事で。今はこの状況をどうするか考えないとな」


『あの人達は関係者でしょうか、遠巻きに報道陣を見つめているように感じます!』


 その時、テレビに異様な光景が映し出された。黒いマスクとサングラスをした全身黒ずくめの女性達が、スペックスビル周辺に集まり出したのだ。

 彼女達は何も言わず、何も訴えず、ただただマスコミを見つめるだけ。


「もしかして、この方々って……」


 恐らくアクトレスだろう。俺達がメディアで面白可笑しく取り上げられているのが我慢ならず、しかし何か言えば逆に俺達の足を引っ張る事になるんじゃないか。そう思い、無言の圧力を掛けるという選択をしたのかもしれない。

 しかし、これは俺達にとって良くない状況だ。気持ちは有難いが、アクトレスの行為がアクトレスの評判を下げる結果になりかねない。


「止めるように言ってくる」


「いやいやいや、優希が行ってどうすんのよ! Twitterで呼び掛ければいいでしょ」


 そうか、Twitterを使えばいいのか。いや、でも直接言いたい。アクトレスの気持ちを無碍にはしたくない。


「私が行きます、こうなったのも私が原因ですし」


「いやだったらYouTubeで生配信すればいいじゃない!」


 あ、そうか。アクトレスに向けて俺達は元気でやってますと公表する事で、マスコミに対して圧力を掛けようとしてくれている人達を止める事が出来る。


「じゃあ話すのは俺で、花蓮さんが撮ってくれますか? こんな時なのでスマホで十分でしょう」


 俺のスマホにはYouTubeの公式チャンネルのアカウントが紐付けされている。YouTubeアプリから数回フリックするだけで生配信が始められる。

 幸いソファーの後ろは真っ白な壁で、何も余計な情報が流れるようなものは映り込まない。


「夏希ちゃん、紗雪も。離れて離れて。皆さん、お静かに」


 牡丹が皆に念押しした後、指でカウントを始める。3・2・1・キュー。


「皆さんこんにちは、希瑠紗丹です。お陰様で元気です。営業再開の目途がまだ立っておらず、申し訳ないです。

 今日は私からお願いがあります。スペックスビルに集まっている報道陣についてです。ちょうどこの部屋の窓からスペックスビルの表玄関が見えるんですが、見てみましょうか」


 手を出して、花蓮さんからスマホを受け取る。窓を開けて、おっと。


「これからカメラを地上へ向けますので、高所恐怖症の方はご注意下さい。行きますよ?」


 一応お断りをしておいてから、カメラを表玄関に向ける。


「スマホのカメラではちょっと見えにくいでしょうが、あちらが報道陣です。誰も気付いていないようですね。あ、こちらを見上げました。この放送を見ているんでしょうかね?

 手を振ってみましょう、お~い!」


 一斉にカメラがこちらへ向けられる。キャスターっぽい人が何か喋っているようにも見えるけど、ここからではよく分からない。


「さて、こんなもんでいいかな。またカメラを室内へ戻しますね」


 手で室内が映らないよう隠しながら花蓮さんへスマホを返し、カメラ目線で配信を続ける。


「ビルの玄関はこのような感じですが、俺は特に不自由していません。生配信も出来るし、動画の撮影もスマホがあれば問題ないんですよね。

 ですので、俺を報道陣から解放しようとか、助けてあげようなんて思う必要はありません。彼らへ何か言ったり、働きかけたりする必要もないです。

 アクトレスの皆様にはご心配をお掛けして申し訳なく思っています。いずれまた皆様とお会い出来るのを楽しみに……」


 話を締めようとしていると、点けっぱなしにしていたテレビから、俺の生配信を見ているアクトレス達の姿が流されている。キャスター達がひっきりなしにアクトレスへ質問を投げ掛け、及び腰になったアクトレスへさらに詰め寄ろうとするキャスターまで見られる。

 さすがにこの状況は看過出来ない!


「ちょっと下行って来る!」


 皆の返事も聞かず、会議室を出てエレベーターに飛び乗る。後を追って来た花蓮が滑り込み、エレベーターの扉が閉まった。

 まだ配信終わってないよな?


「スペックスビルの玄関におられるアクトレスの皆さん、すぐに移動して下さい! お願いします、すぐに移動して下さい! 貴女方を巻き込みたくない!!」


 何度か繰り返しアナウンスし、1階へ到着。おっと、一応マスクをしておかないと。マスクを着けた後、電源を切ってある自動ドアを手動で少し開け、表へと出る。すでにマスコミは俺が外に出ようとしている姿をカメラに捉え、わーわーと何やら喚いている。


「お集まりのアクトレスの皆様、すぐにこの場を離れて下さい! 貴女達をこの騒動に巻き込みたくありません!!

 お願いします、すぐにこの場を離れて下さい! 俺達は大丈夫です!!」


「希瑠紗丹氏がマスコミの前に姿を現しました!」

「結城エミルさんもこのビルにおられるんですよねー?」

「彼はカメラの前で何を語るのでしょうか!?」

「高校生の時に付き合っていたという女性へ向けて何か一言下さい!」

「この黒ずくめの女性達へ私達へ圧力を掛けるよう呼び掛けたんじゃないですか~?」


 くそっ、言いたい放題言いやがって。反吐が出る。人のプライバシーを金にするクソ共が。あぁ、嫌な思い出が頭をよぎる。家族を事故で失った後、こうやってカメラやマイクを向けられたんだったな……。


「ちょっと! そのスマホ、生配信してますよね? 私達を映さないで下さい!!」


 花蓮さんがずっと俺にカメラを向けていた結果、その背後にいるマスコミの連中まで希瑠紗丹公式チャンネルに映し出されていた。


「プライバシーの侵害ですよ!」

「早く配信切れよ!!」

「こっちは仕事でやってんだぞ!」

「勝手に撮るんじゃねぇよ!」

「訴えるぞ!!」


「人のプライバシーを面白おかしく切り売りして捏造して垂れ流してる奴らが自分のプライバシーは侵害すんなだと!?

 あんたらいい加減にしろよ! 真実じゃない内容の記事を根拠にわーわーと大袈裟に騒いで、こっちは迷惑なんだよ!!」


「じゃああの記事は嘘だというんですか!?」

「実際に寝取られたと言っている女性がいるんですよ!?」

「取材に対して泣いて答えていたそうですが!?」


「その女性の名前は?」


「個人情報ガーーー!」


「だから俺やエミルのプライバシーはどうなんだよ!? 都合の悪い時だけプライバシーだ何だと逃げるんじゃねぇよ!!」


 ダメだ、イライラする。カメラに撮られているし、こちらからも生配信しているのであまり感情に任せてわーわー騒ぐと俺も同じ穴の狢になってしまう。

 冷静に、冷静に。


「あっ、中から複数の女性が姿を現しました! あれはスペックスの社長、宮坂瑠璃さんと思われます!!」

「隣にいるのも運営スタッフでしょうか……」

「結城エミルさんの姿は見えません」


 振り返ると、瑠璃・牡丹・紗雪がこちらへ向かって歩いて来るのが見えた。紗雪の手には、何故か拡声器が握られている。

 マスコミに対してわーわーと叫びまくるつもりだろうか。牡丹が止めていない事を見ると、そんな手荒な真似はしないように思うけど。いや、もしかしたらあの牡丹でさえもはらわたが煮えくり返っているのかもしれない。

 どうするべきか、俺が止めに入るべきか、そう考えていると、三人揃って表へと出て来てしまった。


「緊急会見が始まる模様です!」

「スペックス社長、瑠璃氏は何を語るのか!?」

「女性が拡声器を構えました、一体何が……」


『コード8814、コード8814! 待機中のプレイヤー及び店付き(エキストラ)受付嬢(アクトレス)は速やかにスペックス玄関前に集合!!』


 紗雪の発令した緊急コードを受けて、曲がり角や街路樹の後ろや車の中などからワラワラと姿を現すマスク姿のプレイヤー達、受付嬢達。いつから待機してたの!?

 

『報道陣へお断りプレイを実施して下さい。繰り返す、報道陣へお断りプレイをお見舞いして下さい!』


 お見舞いって言っちゃってんじゃん。

 女性キャスターや女性スタッフにはプレイヤーが、男性キャスターや男性スタッフにはエキストラアクトレスが、それぞれが用意した設定を元にプレイを投げ掛けている。


「こんなところまで付いて来られたら困るんですけど。女性ストーカーとかマジであるんスね、引きます」

「奥さんと子供さんを大事にしてあげて下さいって言いましたよね!?」

「記事は現場で取材したんじゃない、机上ででっち上げたんだ!」

「密です! 密でーす!!」


「アナタ、早くこちらへ!」


 報道陣がやられているのを眺めていると、瑠璃にビルの中へと引き入れられてしまった。瑠璃と牡丹に両脇を抱えられ、エレベーターへ連れ込まれる。


「花蓮さんは!?」


「ここです、大丈夫です……」


 どうやら俺よりも先に救出されていたようで、エレベーターの中でへたり込んでいた。


「優希さん、無茶し過ぎです! 何で私達にちゃんと説明してから行動してくれないんですか!?

 そんなにお姉ちゃんの事信用出来ないの!!?」


「そうですよアナタ! 妻である私に一言……」


「みんな黙って!」


 紗雪が怒鳴り、カメラが上を向いた状態で床に落ちていたスマホに手を伸ばす。画面を確認すると、まだ生配信が続いていたようだ。


「えーっと、俺達は無事です。また改めてご報告させてもらいますねー」


 バイバーイと手を振って、配信を終了する。チーン、エレベーターの扉が開いた先に、夏希とひめが待っていてくれていた。


「どこまで映ってた……?」


「「また改めてご報告させてもらいますねー」」


 全部じゃん、終わったわー。


次話へ続く。

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