もうすぐ200話記念SS ひめと瑠璃と紗雪
199回目の投稿です。
スペックスビル最上階。俺達が暮らす家の、その自室。キングサイズのベッドで目が覚める。
隣には全裸の瑠璃。これまた全裸の俺に抱き着いて寝ている。幸せな事ではあるが、俺はトイレに行きたい。
ゆっくりと瑠璃の抱擁を解いて、起こさないよう気を使いながらベッドを抜け出す。着る毛布を羽織り、自室から出る。
時間的にまだ夜明け前。誰もまだ起きていないだろうけど、静かに廊下を歩く。トイレの扉を開けて用を足す。
ほぉ、スッキリ。レバーを引いて水を流し手を洗っていると、トイレの扉がノックされた。
「もうすぐ出るから待って」
誰だろう、起こしてしまったのだろうか。いやそんな事はないはず。などと思いながら手を拭いて、鍵を開ける。
と、待ってましたと言わんばかりに勢い良く扉が開かれ、中にピンクのパジャマ姿の姫子が入って来た。
「いやいやいやちょっと待って俺出るから!」
いくら肌を合わせる関係だといっても、女性のお手洗いに同席する趣味はない。しかしひめは俺の手を握って離そうとしない。
「いやいやいやそのまま座ろうとすんなよ!」
「待ってて」
「いや待ってるから! 外で待ってるから!!」
何とか手を放してもらい、トイレを出てすぐの壁にもたれかかる。日の出前で暗いからって、ひめは怖がるようなタイプではないはずなんだけど。
「優希、いる?」
「いるー」
わざわざ確認しなくてもいいだろうに。と思いながらあくびをしていると、トイレからひめが出て来た。
無言で着る毛布の中に入ってくるひめ。二人羽織のような形で、ひめが歩き出す。そっちはひめの部屋か。
あの、着る毛布の中はその、裸なので、ね? いろいろと、ね? あんま触らないでくれるかな。歩きにくくなるから。
ひめの後ろにくっつく形で部屋に到着。ひめが後ろの俺を気にせずベッドに上がるもんだから、引っ張られる形で俺が態勢を崩し、ひめの上に覆い被さってしまった。
とは言え着る毛布にくるまれており、ひめはうつ伏せで倒れている。俺が掛け布団のような状態。ひめは着る毛布のボタンを外し、動きやすくなったところで仰向けに態勢を変えて俺に抱き着く。
「ひめ? もうすぐ朝になりそうなんだけど」
カーテンの隙間が明るくなってきた。今から何やかんやしているとみんなが起き出す時間になる。
瑠璃は隣に俺がいないからと探すだろうし、ひめを起こしに美少女メイドの紗雪が来るだろうし、そういう騒ぎに耳聡い牡丹もいるし、ねぇ?
「もうちょっと寝よ? 一緒に二度寝すれば怖くない」
あ、寝るのね。うん、寝よう寝よう。あ、背中から抱き締めてほしいのね。分かった。
あとどれくらい寝れるかな。この部屋に壁掛け時計がないから分からない。多分30分も寝れないと思うけど。ってか寝れるかな。完全に目が覚めてしまったからそう簡単に寝れないと思うけど。
あー、ひめの匂い。安心する匂い。ぐりぐりと鼻をひめのつむじに擦り付ける。こそばゆそうに身をよじるひめ。良いではないか良いではないか。
包み込んだ俺の手をひめの小さな手が握る。ぽわぽわと温かい。じんわりと温もりが全身に広がって行くような…………。
ん? 寝てたか。二度寝なんて出来るだろうかと思ったら、割とぐっすり眠っていたようだ。
誰だったかな、ぐっすりの語源は“good sleep”なんじゃないかって言ってた人は。
はぁ、背中が温かい。大きくて柔らかくて温かい。素肌と素肌が重なって、まるで1つに溶けるように……。
ん? 背中? ひめは俺が包むように抱き締めたまま。何で背中が温かい?
そもそもひめのは柔らかくて温かいけど、大きくはないわ。寝ぼけてたから気付かなかった。
俺のうなじに鼻を押し付けるようにくっついているのは、誰だ?
「目が覚めました?」
大きくて柔らかくて温かい感触とは裏腹に、酷く冷たく平坦で突き刺さるような声色。ひめを抱き締めて温かいはずのお腹がずぅーんと冷え込んでいく感覚。
目は覚めたけど、目を開けられない。
「気付いたら1人。とっても寂しい想いをしました」
違う、違うんだ。俺はただトイレに行っただけなんだ。トイレに行った先で拉致されたんだ。
「私と一緒に飲むモーニングコーヒーを淹れてくれているのかと思いキッチンに行ったけれど、アナタの姿はありませんでした。
まさか他の女のベッドにいるなんて……」
確かにベッドにいた、そして寝ていた。けど何もしてない。俺はひめと一緒に寝ていただけ。
「うーん……、はげしっ……」
ひめ!? 何で今のタイミングでその寝言!!?
「夕べはお楽しみでしたね……?」
ひぃっ!? いや瑠璃ともお楽しみだった訳だしいいのでは……?
「する事したら捨てられるのでしょうか? 私はアナタの妻なのに」
あぁ、正妻があまりのショックにダークサイドに堕ちようとしている。すまない、俺があのタイミングでトイレに行ったばっかりに……。
どうしたものかと目を開けると、ベッドサイドに立つメイドさんの姿が。
ニヤニヤニヤニヤ。美少女メイドは内心を隠す事なくニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべて俺の顔を覗き込んでいる。
お前、そんなキャラだったっけ?
「奥様、もう少し早く私が旦那様を見つけていれば良かったのです。申し訳ございません」
とても申し訳ないと思っているようには見えない表情で、ニヤニヤニヤニヤしたままの紗雪。
「いいのよ、紗雪が案内してくれなかったら分からなかったもの」
えぇ……、紗雪が瑠璃に告げ口したのかよ。何だよマジかよ。お前の立ち位置はどこなんだよ。
俺が困っているのを見て楽しむメイド? 俺の家具じゃなかったのかよ。
「奥様、旦那様がお目覚めです」
「おい家具!?」
「アナタ、おはようございます。目覚めの一言がそれですか?」
家具がニヤニヤニヤニヤ笑っている。あ、もしかしてさゆではなくひめのベッドに忍び込んだから嫉妬してるってのもあるな? これ以上ややこしくしたくない。紗雪は放っておいて、今は瑠璃の対応に徹しよう。
「おはよう、瑠璃。ちょっと手を緩めてくれないかな。瑠璃の顔が見れない」
「あら、私の顔よりもひめちゃんの顔を見たいんじゃないのですか?」
ギリギリギリギリ。瑠璃の手が締め付け、俺の身体が悲鳴を上げる。痛い!
「違うんだ、これには訳があるんだ!」
「ゆーき、ダメっ……」
だから何で今のタイミングでそんな寝言を!? ってかひめが俺の手を放してくれないと寝返りすら出来ない。ちょっと強めに解くか。
「あっっ」
だーかーらー!!
「奥様の目の前で何て事をされるのですか、旦那様」
ニヤニヤニヤニヤ。このメイドのブリムの下には角が隠れてるんじゃないだろうか。
「あたってる……」
ひめ!? 何が当たってるって!!? ってかひめももう起きてるのでは?
「姫子、旦那様と奥様の前ですよ。早く起きて支度をなさい」
「はい、先輩」
するするっと俺の手から抜け出すひめ。あれ? ひめも美少女メイドモード? 目の前でパジャマを脱ぎ、クローゼットに仕舞われていたメイド服へ着替えていく。
その場の流れにすぐに乗っかり、テキパキと行動していくひめは、やはり女優という職業柄か。いや単にノリがいいだけのような気もするけど。
何にしてもひめがいなくなったので、寝返りして瑠璃に向き直る。どんな冷たい表情を浮かべているのかと、恐る恐る瑠璃の顔を見ると……。
「すー、すー、すー」
えっ、何で寝たふり? 何で寝たふり? ちょっとこの展開分からない。紗雪を見ると姫子の着替えを手伝っている。俺1人で瑠璃のノリについて行かないとならんらしい。
「すー、すー、すー」
はいはい、分かりやすい寝息をありがとう。俺からのアクションを待ってるってアピールね、了解。
声を掛けるか、それともモーニングコーヒーを淹れる為にベッドを抜けるか。いや、コーヒーは目の前にいる2人に任せればいい。
「紗雪、姫子。コーヒーを2つ頼む」
「「はい、旦那様」」
ちょうど着替え終わった姫子とニヤニヤ顔を止めた紗雪が一礼して部屋を出て行く。パタンっ、と扉が閉まったのを確認し、改めて瑠璃に向き直る。
つやつやさらさらな髪の毛を優しく撫でる。やや唇を尖らしてさりげなくアピールする瑠璃。なるほどなるほど。
「瑠璃」
耳元で名前を呼ぶ。くすぐったそうに肩をすぼめるが、またわざとらしくすーすーと寝息を立てる。
顎に手を触れ、やや角度調整。そしてそのままキスをする。チュッと音が鳴り、離れようとすると瑠璃から距離を詰めて再度キス。そして瑠璃がゆっくりと瞼を開き……。
「おはようございます、アナタ♪」
2人して全裸。ひめのベッドで目覚めのキス。何この茶番。
いつもありがとうございます。
次回は200話記念として牡丹と夏希を出すつもりです。
さてお断り屋は何話目まで続くのでしょうね、作者にもさっぱり分かりません。
無理をして定期的な更新をするよりも、書きたくなったら書くというスタイルでのんびり続けて行ければと思っております。
皆様の応援が作者の糧でございます。
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