ペットを愛でる
「以上が報告になります」
スペックスビル最上階の自宅。その自室のソファーに座り、美代から総選挙中のお客様達の動向についての報告を受けていた。
「なるほど、初めての試みだから改善すべき点は山ほどあるって事だな」
宇佐美美代は俺の配下になるまで、ホスト専門の引き抜きというグレーな職業を生業としていた。
ホストやホステスなどは水商売特有のルールの元で雇われている身。引き抜き行為自体があまり歓迎されないのに加え、美代の引き抜き方法がありとあらゆる方法を使う為、ブラック寄りのグレーと表現せざるを得ない。
しかし、その経験から情報集能力や少ない情報からの判断・分析能力は高く、今となっては俺の手足としてお断り屋業界内部の調査に役立ててくれているので非常にありがたい存在だ。
現在はホストの引き抜き業務はしていない。俺から辞めるようには言っていないが、みみが自ら足を洗ったようだ。俺の元で働くという事で、スペックスとお断り屋協会からそれぞれ報酬を得ている。
今回のようにスペックスで催したハイプレイヤー総選挙開催時のアクトレスの動向の調査をしてもらったり、他店での違法なプレイを取り締まったりするのを手伝ってくれている。
スペックスではなくお断り屋協会主催として企画している一大イベント、リアル迷宮。その開催に当たって、業界他店の状況を内偵するようみみに指示した。
その調査でデリバリー専門店として営業していたDesireというお断り屋が違法営業をしている事が発覚した。警察に摘発される前に宇佐美美代の名義で買収。オーナーはみみだが、背後には俺達スペックス経営陣がいる、という実情だ。
スペックスの子会社や関連会社としてしまうと、万が一過去の違法営業が発覚した時にマズイので、最悪の場合ディザイアのみを切り捨てられるようにする為だ。
ちなみに違法営業の内容は、風営法に抵触するような内容である。
いつもであれば俺がみみのマンションへ行き、俺の知的顧問である千里さんと一緒に報告を聞いて、今後の方向性を3人で話し合うのだけれど、俺が本格的に俳優デビューしたのでみみのマンションへ通うのはリスクがある。
千里さんには俺がスペックスビルの最上階で宮坂三姉妹と一緒に暮らしているとは伝えていないので、ここに呼ぶ事は出来ない。まぁ千里さんも勘付いているとは思うけど。
「ただ、やはりなかなか予約を入れられないプレイヤーとプレイする事が出来る、ガシャというシステムに皆喜んでおりました。
もちろん推しのプレイヤーとプレイ出来ないという声もありましたが、その推しのプレイヤーへ投票出来る。プレイヤーへ貢献出来るので、デメリットを補って余りあるメリットであったと判断していますね」
自分が贔屓にしている、推しているプレイヤーへ投票する事で、総選挙での順位を押し上げる。初めてのプレイヤーと当たって新たな推しが出来るも良し、一途に1人を推し続けるも良し。
みみからの報告で、1人を推し続ける事で悲しい想いをしてしまったアクトレスもおられた事を知った。まさか選挙期間中に自分へ投票しないよう呼び掛けるプレイヤーが出て来るとは思わなかった。プレイヤーにも、そのプレイヤーを推していたアクトレスにも申し訳ない事をしたと思っている。
これについては次回開催時に、各プレイヤーへ総選挙にエントリーするかどうかの事前確認をする事とした。会を重ねるごとにより良いイベントにしたいものだ。
「報告は以上です」
ん? うん。
「分かった、ありがとう」
「報告は、以上です」
しつこいな。分かったって言ってんだろ。
そう思って手元の資料から目線を上げ、みみを見やる。澄ました顔をしているが、心なしか顔が赤いような気がする。上気している、という表現がぴったりだ。
「そうか、では報酬が必要だな」
資料をテーブルへ置き、向かい側のソファーに座っているみみに向けて手まねきをする。隣へ来いという意味だ。
みみは澄ました顔のままだが、口角がわずかに上がっている。期待しているのだろう。
しかしみみに対しては求められるがまま求めるものを与えるのは面白くない。みみは私をご主人様の奴隷にして下さいと申し出て来た女だ。
さすがに奴隷のような扱いはしないが、俺の呼び方は何度言ってもご主人様のままだ。自らの立ち位置を奴隷であると定めたままなのだ。
みみは俺と宮坂三姉妹を離反させる目的で遣わされた女スパイだった。現在ハイスペックスのオープンに向けて内装改造中のビルが、元々はTop Statusというライバル店であり、そのオーナーがみみを使って俺達を仲違いさせた訳だ。
その際のみみはSっ気を全面に出し、俺を何とか服従させようとしたが、あいにく俺にM属性はなく、逆にみみを服従させたという流れだ。
今では俺に可愛がってもらいたくて堪らない。俺の役に立つ為に調査を完璧にこなす、出来る女だ。
そんなMっ気のあるみみ。みみが求めるのはご主人様の温もりだ。隣に座らせたはいいが、恋人のように優しく抱き締めるのではつまらない。何事も面白く、より楽しい方向へ持って行かなくてはならない。
「何してる、ほら」
右隣に掛けてもじもじしているみみの目を優しく見つめ、自分の膝をポンポンと叩く。一瞬不思議そうな顔をしたが、みみは戸惑いながらも脚をソファーへ乗り上げて、俺の身体側を向いて膝に頭を乗せて横になった。膝枕だ。
「よしよし、みみはいつも頑張っていて偉いな、よーしよし」
みみの頭をモフる。動物を愛でるように。首の後ろを柔らかく摘まみ、撫でる。顎の下を掻く。耳の付け根を撫で擦る。
みみはウサギだ。俺のペットだ。俺を引き抜こうとした際、みみはバニースーツで俺を誘惑して来た。自分の身体に溺れさせ、言う事を聞かせようというつもりだったらしい。
しかし俺はみみの身体では堕とされず、怖いお兄さん達の恫喝もコネを使う事で難を逃れる事が出来た。みみはただバカみたいな格好でその道の姐さんに泣かされただけだった。
「カワイイなぁ、みみはカワイイなぁ」
モフモフと、まるで白い毛皮があるかのようにみみを撫でて擦って摘まんで愛でる。性感帯を刺激するのではなく、ペットにしてやるようにマッサージしてやる。
みみの耳は真っ赤に染まり、羞恥に耐えているようにも見える。出来る女から単なる愛玩動物へと成り下がった状況に悶えているのだろうか。その羞恥を楽しんでいるような気もするが、それはそれで良し。
コンコンコンッ。
自室のドアがノックされた。みみを愛でる手は止めず、返事をする。すぐにドアが開かれ、愛する妻が入って来た。
「アナタ、美代からの報告を一緒に聞いてもいいですか?」
みみが総選挙についての報告に伺いたいと電話して来た際、俺はスペックスのオフィスにいた。瑠璃に来客があると聞いていたので俺はみみに自室へ来るよう伝えたのだ。どうやら瑠璃の来客訪問も同じくらいのタイミングで終わったらしい。
「あぁ、もう報告は終わったんだ」
俺がそう瑠璃に答えると、リラックスしていたみみの身体が硬直する。まさか正妻がこの部屋に来るとは思っていなかったからだ。
「そうなんですか、美代はもう帰ったのですか?」
部屋の入り口は俺の背中側。ソファー越しなのでみみが俺の膝枕を受けている事に、瑠璃はまだ気付いていない。
俺は顔だけ瑠璃に向けて答える。
「いや? 今可愛がっているところ」
瑠璃は俺の表情、そして答え方である程度察したのだろう。妖しい笑みを浮かべて、ゆっくりとソファーへ近付いて来る。
「可愛がる? それは、泥棒猫をという意味ですか?」
奥様違うのです! と弁解しようとしたのかも知れない。が、俺はみみの口を塞ぎ、肩を押さえて動けないようにしたので今となっては何を言おうとしたのかは分からない。
「猫じゃないよ、ウサギだ」
もがもがと声を上げ、バタバタと脚を動かすみみ。必死そうだ。
「まぁ、何とお行儀が悪いウサギさんなのかしら。はしたないわよ」
必死に脚を動かした為に、フレアスカートが捲れて下着が露出している。見咎めた瑠璃がスカートを直し、ぺしんぺしんとみみのお尻を叩いた。
そしてわざわざ床に膝を付いて、覗き込むようにしてみみの目を見つめる。
「あら、可愛らしいウサギさん。目が真っ赤だわ」
旦那である俺の膝に乗るみみに冷たい笑顔を向ける妻、瑠璃。みみの事を本当のウサギと見立ててのプレイなのか、はたまた泥棒猫に向ける嫉妬心から精神的に圧力を掛けるのが目的なのか。
瑠璃の本心は別として、みみの身体は小さく震えている。
「瑠璃、来客はもういいのか?」
「ええ、アナタ。ちょっとしたご機嫌伺いみたいなものでしたよ」
俺を見上げる瑠璃に唇を寄せる。その様子をペットが赤い顔で見守っている。いつまでも妻を床に座らせたままというのも申し訳ないな。
「一緒にこのウサギを可愛がらないか?」
みみをお姫様抱っこで抱き上げ、キングサイズのベッドへと運ぶ。
「あら、とっても楽しそう」
ぞくっとするような艶のある返事。瑠璃は抱えられるみみの耳元で何かを囁く。
「ひぃっ!?」
ウサギが鳴き声を上げるが、大丈夫。ちゃんと優しくしてあげるから。
俺と瑠璃はペットのウサギちゃんを存分に可愛がってやった。
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