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友達の彼女の告白を断ったら、お断り屋にスカウトされました!  作者: なつのさんち


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国民的アイドルなんだけどシチュ

 収録が終わり、スタッフに案内されて楽屋へ戻る。衣装のジャケットを脱いでハンガーに掛け、片手でネクタイを外そうとしていると、ノックもなしに楽屋の扉が開かれた。


「おっつー、入るよー」


 いくら事務所が同じだからといって、そこまで親しい間柄ではない。ふらっと国民的アイドルが訪ねて来るのは心臓に悪い。


「お疲れ様です、金剛(こんごう)さん」


春乃(はるの)って呼んでって言ったよね?」


 金剛春乃。俺よりも2歳年上の現役アイドル。歌って踊って演技して、レギュラー放送の冠バラエティー番組まで持っている。

 仕事が終わったのか、今からなのか。白いワンピースにピンクのカーディガン、黒いタイツという私服姿。落ち着いた格好だが、こう見えても数万人規模で単独ライブを行うアイドルユニットのメンバーである。


「先輩で年上で国民的スターの金剛さんの事、呼び捨てに出来る訳ないでしょう?」


「私の事知らなかった癖に」


 そう、俺はこの人の事を知らなかった。テレビ見てなかったし、アイドルにも興味がなかったし。でももう目の前の女性がどんな人物であるか知ってしまった訳で。


「頂いたライブ映像見たんですよ? 金剛さんがどんだけすごい人か見せ付けておいて、今さら気安く接しろなんて無理ですよ」


 超満員のスタジアムの中央、360度どこを見ても観客がいるステージで歌って踊る。それも口パクではなく生歌。激しい振り付けで飛び跳ねながら。普通の精神力では耐えられないほどのプレッシャーの中、彼女達はライブを毎回大成功で終わらせている。


 ってかそんな金剛さんが何の用だ。立たせたままでは悪いので椅子をすすめる。

 おっと、俺は着替えの最中だったわ。国民的アイドルの前で俺が生着替えなんて誰も得しないので、ネクタイを締め直して俺も椅子に座る。


「着替えないの?」


「ええ、何かご用でしょう? 着替えながら話を聞く訳にもいきませんので」


「着替えなさいよ」


 まさかの命令形。男の着替えを見て喜ぶ人っているのだろうか。いるか。真っ赤なボクサーパンツをプレゼントして妄想する人がいたわ。


「それより、急用ですか?」


 ノックもせずに入って来たんだ、急ぎの用だろう。もちろん本当にそう思っている訳ではない。嫌味だ。ぶぶ漬け食べますか的なあれだ。


「何よ、用がないと来ちゃダメなの?」


 だが天真爛漫なこの人には通用しない。コテンと小首を傾げて俺を見上げる。たったこれだけの仕草で男を魅了してしまう。まさに魔性。俺がお断り屋のプレイヤーでなければ勘違いしてしまうところだ。


「いくら事務所が同じだからって、男性タレントの楽屋に1人で来たらダメです。用事があるならマネージャーを通じるか、連れて来ないと。

 コンプラ研修的なあれ、受けてるんでしょう?」


 コンプライアンスとはまたちょっと違うが、芸能界での身の振り方についての研修はちょくちょく行われるらしい。忙しかろうが事務所が時間を作り、1対1でも受けさせられると聞いている。


「えー、紗丹(さたん)君もそんな事言うの? それって逆に紗丹君が何か企んでるって風にも聞こえるんだけどー?」


 やらしー、と指を差してニヤつく金剛さん。いやいや、企むも何もそちらから来たんでしょうが。と、口に出しては言わない。相手のペースに乗せられてしまう。


「男だったら突然金剛さんが楽屋に来たら浮足立ちますよ。

 それを『変な期待しちゃダメだよ?』なんて言われたら、逆上してしまう人もいるでしょうね。だから男が変に期待するような行動には気を付けるべきですよ」


 そう言い切り、わざとらしくスマホのディスプレイを点灯させて時間を見る。用がないなら出て行ってくれ、言外でそう伝える。

 俺が衣装を脱ごうとしていたのを知っているし、ここまで見れば帰りたいんだなと分かりそうなものだが。


「期待してもいいよって時は、どうしたらいいの?」


 椅子から身を乗り出し、金剛さんが俺の太ももに右手を乗せる。俺の目を見つめながら、すすすっと指を動かす。俺は金剛さんから視線を逸らさず、左手でその指を掴む。


「そういう事は、仕事場ではなくプライベートな場でお願いします。乗りたくても乗れない状況でのお誘いが一番辛いんですよ」


 掴んだ手をそっと金剛さんの膝へ戻す。手を離す際にすすすっとさり気なく撫でる。触れ合った手の温もりを感じ、名残惜しそうな雰囲気を演出。

 あくまで楽屋だから乗らないんですよ、乗りたいけど乗れないんですよ! という心情を伝えて……。


「そっかー、じゃあ連絡先教えてよ。はいアプリ起動して。

 この後の予定は?

 次のオフはいつ?

 独り暮らし?」


 怖い怖い怖い! 逆じゃね!? 普通逆じゃね!?

 若手俳優がアイドルにガンガン行くのは想像出来るけどアイドルが若手俳優にガンガン行くのか、いやありそうだけど実際に目の当りにしたら怖いわ。

 けど怖がったり引いたりしたら恨まれそうだし、同じ事務所だからこそ気まずくなりたくないし、何よりアイドルに嫌われたらそのファンから何言われるか分からない。


「ごめんなさい、マネージャーから絶対に女性芸能人の連絡先を聞くなって言われてるんです。

 いやぁ、僕は金剛さんと個人的に仲良くなりたいんだけどなぁ。マネージャーがねー」


 こういう時はマネージャーを悪者にするに限る。所属事務所内の色恋沙汰なら何とでもなるだろうが、何もないに越した事はないだろう。

 タレントは商品。その商品価値に障る可能性がある場合、身を挺してでも守ってくれるだろう。多分。


「ねぇ、自分で言ったよね? 

 『変な期待しちゃダメだよ?』なんて言われたら、逆上してしまう人もいるでしょうねって、言ったよね?

 何で私に変な期待させちゃったの? 手と手が触れ合って、それだけなんて、子供じゃないんだよ?」


 目がマジだ。口調や声色こそ普段通りだが、無表情で見つめるその瞳に光がない。

 もっと何というか、ギラギラした瞳とか、妖艶な目つきとか、そっち方向ならまだ対処のしようがあるんだろうけど、こういうマジなヤツは恐怖が先に来るから対応に困る。


「それは失礼しました。期待させようとしたつもりはなかったんですが……」


 と言いつつ立ち上がろうとすると、すっと伸ばされた人差し指が俺の額を捉えた。金剛さんはそのままずずずいっと顔を近付けて来る。

 立ち上がれない。指先1つで動きを止められた。さて、どうするか……。


「つもりはなくても、私はその気になっちゃったんだけど。私に恥をかかせるつもり?

 これでも私、国民的アイドルなんだけど」


「いや国民的アイドルならこんな事しちゃダメでしょ!」


 しまった、思わず普通にツッコんでしまった。おでこに指を置かれているとはいえ、身動きが取れない訳ではない。

 頭を横へ振って立ち上がると、がしっと胸元へ飛び込んで来る金剛さん。とうとう実力行使されてしまった。


「別に付き合ってほしい訳じゃないの。お互い本気にならなければよくない?

 都合のいい時間に会って、都合のいい関係を楽しむ。その時間だけは芸能人だって意識しなくてもいい。

 誰にも見せられない顔、紗丹君だけに見てほしいの……、いいでしょ?」


 俺は金剛さんの肩に手を置き、そっと引き離す。不満げに見上げるその顔を見つめ、口を開く。


「他の4人にも同じ事言われたんですけど、このイタズラ流行ってんスか?」



「はー、笑った笑った! バカじゃないの?」


 プレイを終えてのクーリングタイム。バカとは何ですかバカとは。

 金剛さんはまだデビューしていない、アイドルユニットが結成されるよりも前。スペックスでエキストラアクトレスとしてバイトをしていたらしい。

 デビュー後は忙しくてバイトどころではなくなったそうだが、国民的アイドルとしての地位を確立した今、オフの日にこうして遊びに来て下さるのだ。


「傷付けず、そもそも迫った事自体をなかった事に出来るお断り、なかなかいいと思うんですけどね」


 ハイスペックスをオープンさせるにあたり、オープニングイベントをしようという事で企画を進行中。どうせなら店の常連さんに先行公開プレイをしてもらおうという話が持ち上がり、白羽の矢が立ったのが金剛さんである。

 公開プレイが出来る力量のあるアクトレスで、誰もが知っていて、スペックスにゆかりのある人となると、その人数は限られる。

 結城(ゆうき)エミルという話も出たが、アクトレス経験はなく、そしてポカルのCMに映画にと、あまり意外性がないのではないかと却下になった。


「他の4人にも迫られてるって、どんだけモテんのよ」


 思い出し笑いが止まらない金剛さん。さっきからずっと笑ってらっしゃる。

 俺と金剛さんのペアが当日のトリになるというプログラムなので、その前に普通のプレイもしておきたいという事で本日来店して頂いた。

 もちろん打ち合わせに近いプレイなので料金は発生しない。


「だってイタズラで言い寄られてるって言ったら金剛さん側としても引きやすいでしょ? 断っていないフリして上手い事断ろうっていう手です」


 そもそもこんなシチュエーションを選ぶ方が悪い。役柄は本人で、事務所の先輩が後輩に言い寄るって設定(プレイ)要望(オーダー)はリアル過ぎるでしょう。


「なるほどなるほど、勉強になりました。

 さて、じゃあ次のプレイは何にしよっか」


「いやいやいや、もう5回目ですよ!? さすがにもうお互いのプレイスタイルは分かったでしょう!」


「えー、せっかくタダで出来るんだからもっとやりたいじゃん!」


「本音がダダ漏れ!」


「嫌なら上手にお断りしなさいよ」


「それが実質6回目のプレイになるんでしょう!?」



 などと言ってはみたが、このあとさらに3回付き合わされた。



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