映画撮影の合間
「へぇ~、舞台見に来てくれてたんだ。打ち上げにはいなかったよね?」
映画撮影の合間、スタジオの端っこで村田ミナさんと姫子との3人で話をしていると、以前ひめがメイド役を務めた舞台の話題になった。
「ええ、ひめが重要な役をもらったからって、一生懸命台本を読んでましたよ。
舞台の名前は確か……、『そんな裏設定知らないよ!?』でしたっけ」
ミナさんが大きく頷く。
「そうそう、『そんな裏設定知らないよ!?』で合ってる。
私が悪役令嬢役で、姫子は主人公リュドヴィックのメイド役のアンジェルね」
おお、『そんな裏設定知らないよ!?』で合ってたわ。こういう時タイトルを間違えてしまうと失礼になってしまうからな、覚えていて良かった。
「ひめがメイド役なんて、どう演じるのか全く想像が付かなかったけどさ、実際に見てみるともうメイドというか、アンジェルそのものとしか見えなくなってたな。
いやぁ、今思い出してもいい舞台だったよ、『そんな裏設定知らないよ!?』は」
舞台で共演したひめとミナさんが、今後は映画で共演するんだもんな。
ミナさんも舞台ではワガママで、けど主人公の事が大好きなご令嬢って感じで、見ているこっちもこのご令嬢の為に何かしてあげたいって気持ちになっていたし。
むしろリュドヴィック、もっとしっかり見てやれよ! ってな風にやきもきさせられたな。
「見に来てくれてたんなら一緒に打ち上げに出れば良かったのに」
「いやいや、その時は俳優業をやるなんて全く決まってなかったし、俺みたいなのが参加したら白けちゃうんじゃないかって思ってさ」
ひめとの関係を大っぴらに出来ない以上、俺がどの面下げて『そんな裏設定知らないよ!?』の打ち上げに参加するんだって話だ。
「ちゃんと次の日に2人きりで打ち上げしたから大丈夫」
「あぁ、なるほどねぇ~」
何で言わんでもいい事を言ってしまうのか。まぁミナさんには俺とひめと、そして結城エミルこと夏希の関係はバレてしまっているからいいんだけど。
でもバレているのは今のところ、俺とひめと夏希の3人だけだ。これに加えて宮坂三姉妹との関係までバレるのだけは避けたいところ。
ひめには言うなよと口止めしているけど、ひめの事だしちゃんと守ってくれるかどうか分からない。
「2人で待ち合わせして、映画館のカップルシートで映画を見た」
ほわほわと幸せそうな表情で、その時の事を思い出すかのように上を見ながら話すひめ。可愛いなぁ、この表情は『そんな裏設定知らないよ!?』のアンジェルではなく、そして映画の記代子でもない。1人の女の子の顔だ。
「けど途中で邪魔が入った」
幸せそうな表情から一遍、眉間に皺を寄せて不機嫌な顔付きに変わるひめ。拳をギュっと握りしめている。そんなに感情乗せなくてもいいんじゃないかな……。
「あら、何があったの?」
「スクリーンにお邪魔虫の顔が映し出された」
低く重い声色。ひめさんや、今は舞台の本番じゃないんだから普通に喋ろ?
「え~、なにナニ何の話~?」
「出たなお邪魔虫!」
全く空気を読まずに乱入して来るお邪魔虫こと夏希。あの時、夏希は映画の予告編で『騙されないで!』という俺とひめとの空気をぶち壊すようなセリフで登場したんだったな。
ひめが手刀を作って夏希に切り掛かっている。
「何よ、うちが何したって言うんやさ!」
突然のひめの奇行を受けて、地が出てしまう夏希。場がわちゃわちゃし出した。
そろそろ撮影の続きに呼ばれないだろうか。何かこの場にいるのが面倒臭くなって来たんだけど。
「私と優希が映画館デートしてる時に結城エミルがスクリーンに出て来てものっすごく迷惑だった。もう二度としないでほしい」
それは夏希にとっては聞けない話だと思うぞ。ってか逆に自分が夏希の事を邪魔出来るような女優さんになりたいって言ってたはずだけど。
「え~!? うちもゆーちゃんと映画館デートしたい! なぁ、いつ行く?」
「ダメ、映画館デートは『そんな裏設定知らないよ!?』の舞台公演の打ち上げに行ったの。なっちゃんは舞台してないからダメ」
舞台の公演が終わった上での打ち上げじゃないと映画館デートしたらダメな設定なんだ。それこそ『そんな裏設定知らないよ!?』状態だな。
「舞台やなくてもええやんか、ほなこの映画の撮影が終わったらゆーちゃんと2人きりで打ち上げの映画館デートするわ!」
「いいよ」
あら、思ったよりもすんなりとひめの許可が出た。いや本来許可がいるとかいらないとか以前の問題なんだけどな。
「やった! 何の映画がいいか下調べしておかないと♪」
「でも『この後、もう少し2人きりでいたいんだけど、……いいか?』っていう展開だけはダメ」
得意気な顔で話すひめに、夏希が飛び掛かってその両肩を掴んで揺する。
「ちょっと何それ!? ちゃんと聞かせてもらわなアカンな!!」
いや、言っちゃったらこういう展開になるよね。分かり切ってるよね。それこそそこだけは『裏設定』にしておけば良かったんじゃないだろうか。
ミナさんは2人を止めるつもりはないらしく、やり取りを見ながらクスクス笑っている。じゃれているだけだからな、第三者としては面白い見世物でしかないよな。
当事者である俺はその面白い見世物がこれ以上他の人に見られないように止めるしかないんだけど。
だからって止めろよって言って止める2人ではない訳で。
「ところでミナさんはさ、いつから大波監督と付き合ってんの?」
「えっ、それ今聞く……?」
「「ぜひ聞きたい」」
生贄を捧げる事で話題を変える事に成功。
とは言ってもミナさん自身隠している訳じゃないので、楽しそうに付き合い始めたキッカケとかを話し始める。
あらあら、3人ともとっても良いお顔をしておりますコト。
「そしたらすっごく喜んじゃってね、それ以来毎晩……」
「はいお待たせしましたー、撮影再開しまーす」
大波監督が俺達キャストを呼びに来た。そこにはニヤニヤした顔で大波監督を眺める夏希とひめの姿が。
「何ですか? どうしかしましたか?」
いやいや、大波監督にそんな裏設定があるなんて知りませんでしたよ。人って見かけによらないもんなんですねぇ~。
はい、と言う訳で拙作「そんな裏設定知らないよ!?脇役だったはずの僕と悪役令嬢と」が11月19日より順次取扱書店様の店頭に並ぶ予定でございます。
とらのあな様取り扱い分に関しては書き下ろしSSが購入特典として付いてきます。
元々は小説家になろうにて連載・完結した作品ですが、それを元に加筆修正してアルファポリスへ投稿した結果、書籍化となりました。
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また、小説家になろうのお決まりとしては、作品の一部分を消しての掲載は出来ませんので、結果的に作品全体を取り下げさせて頂く形となりました。
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