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友達の彼女の告白を断ったら、お断り屋にスカウトされました!  作者: なつのさんち


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ハイスペックスビル

 今日は映画の撮影はオフだ。現場では俺が出ないシーンの撮影が長引いているので、今日は1日オフになったのだ。

 プレイヤー業を疎かにしてはお客様(アクトレス)に申し訳が立たないので、スペックスにてフリーマッチングを2回だけ受けた。今はオフィスで休憩中で、もう1度フリーマッチングを受けるかどうか考えているところだ。


紗丹(さたん)君とマッチングするなんて夢みたいです!」


 クーリングタイムにそう言って喜んで下さるアクトレス。何だかこっちまで嬉しくなって来る。

 しかし何とかならんのか。喫茶ルームに座っているだけでアクトレスだけでなくプレイヤーまで俺達のプレイをガン見して来る状況は。

 プレイヤーデビューで千里(ちさと)さんとリプレイをした時と同じ状況なのだが、わざわざ空いている席に移動してまで俺達のやり取りを食い入るように見つめて来る人達。

 観客(オーディエンス)と言えば聞こえはいいが、お金払って自分がプレイしに来たアクトレスと、お金を貰ってプレイしているプレイヤーがこぞって人のプレイを見るなんて。ちょっといい状況だとは言えない。



The() One(ワン)の宿命です。それだけアナタに注目しているという事ですよ」


 瑠璃(るり)はそう言うが、喫茶ルーム本来の姿ではないので何とかしたいところ。元々プレイはせずプレイヤーとお喋りするだけでもいい、というコンセプトがあるとはいえ、人のプレイをガン見するのを良しとしてしまうのは良くない。

 それに、「ざわざわ」なのか「ザ・ワンがザ・ワンが」なのかハッキリしてほしい。聞いていてとっても気持ち悪い。


「でもそれだけ人のプレイを見たいという潜在的需要があった、という事です。だから優希(ゆうき)さんのハイスペックス構想はその需要に対する受け皿になるんです。

 そしてスペックスの喫茶ルームでプレイするよりもオーディエンスとしてハイスペックスでの公開プレイを観る方がお手軽なのであれば、観たいアクトレスはハイスペックスへ。プレイしたいアクトレスはスペックスへ、という棲み分けが出来ます」


 牡丹(ぼたん)が自分のデスクから立ち上がり、ソファーに座っている俺の隣へと腰掛けた。膝に手を乗せて微笑みかけてくる。そしてその反対隣には紗雪(さゆき)が俺の肩へしな垂れかかって来る。

 映画の撮影が始まってからはゆっくり出来ていないからな。こういう時間も大切だろう。牡丹と紗雪がこうしてくっついているのを見ると、すぐに瑠璃が私が正妻よ! と俺の隣にいるべきは自分であると主張して、ドタバタラブコメが展開されて行く訳だ。


「アナタ……」


 お? 牡丹や紗雪にキツく言う訳ではなく、俺に対して嫉妬心を向けるパターンか。どういう展開かな? なだめすかして正妻を優先する姿を見せるか、それとも牡丹と紗雪とイチャイチャしているところを見せつけてもっと嫉妬心を煽るのが良いのか。


「今日はフリーマッチングは終わりにして、ハイスペックスで打ち合わせをしましょう。そろそろ音響設備や舞台装置の設置方針を固めてしまわないと」


 思っていたのと違った。瑠璃は正妻モードではなく経営者モードだったようだ。


「お義兄にーちゃん、元々今日は私達3人でハイスペックスに行く予定だったの。お義兄ちゃんの予定が空いたんだったら、一緒について来てよ」


「そっか、分かった。じゃあ行こうか」



 スペックスからハイスペックスまで徒歩圏内ではあるが、宮坂(みやさか)三姉妹と連れたって4人で歩いていると以前よりも顔を指されるようになった。

 一応俺もトッププレイヤーの1人として認知されるようになったので、あまりこういう目立った行動をしないようにした方がいいのではないかと思うんだけど。


 スペックスの方針としてはプレイヤーは積極的に恋人を作り、プライベートを充実させる事でアクトレスとのプレイに引っ張られないよう指導しているとはいえ、これはちょっとやり過ぎなんじゃないだろうか。

 俺の右腕には瑠璃が、左腕には牡丹がそれぞれ豊満な胸元をくっつけて来て、非常に周りの視線が刺さった。そして何より紗雪が俺の背中に抱き着いて来るものだから、歩きにくいどころではない。あの服越しの感触、確実にあるべきモノがない状態だ。

 ハイスペックスへの移動はもしかして、スペックス従業員はおろか、姫子(ひめ)夏希(なつき)すらも遠ざける為のものなのではないだろうか。ハイスペックスに着いた途端に3人に襲いかかられるのではないかという期待にも似た欲求が込み上がって来る。


 ハイスペックスは元々Top Statu(トプステ)sとして営業していた雑居ビルの3階部分に位置する。トプステをひめのお兄さん、基夫(もとお)さんから譲り受けて以降、瑠璃達は賃貸の契約だったのをビルオーナーへ働き掛けて、ビルそのものを買い取ってしまった。ただの雑居ビルだったこの建物がハイスペックスビルへと生まれ変わろうとしている。

 テナントが入っていたその他フロアをちょうど迫っていた契約期限を理由に交渉し、十分な保障金を支払って退去してもらうようにしたのだ。

 現在はテナントの立ち退き期限を待ち、その後ビル全体をハイスペックスにすべくビル全体の改修工事の構想を練っている状態だ。


 トプステとして営業していた3階部分へ到着。従業員用の出入り口に鍵を開けて入り、紗雪がブレーカーをオンにする。パッと室内の照明が付き、オフィス部分が明るくなった。そしてすぐに、瑠璃が出入り口に鍵を掛ける。

 来たか。この場にはソファーしかないとはいえ、シャワールームや畳のあるフロアもある。欲求を抑えに抑えた三姉妹から、俺はこってりと搾り取られてしまうのだ……!!


「さぁ、アナタ。まずはメインフロアへ行きましょう。アナタには紗丹君として、ハイスペックスのオープニングセレモニーで公開プレイをしてもらうつもりです」


「優希さんのプレイの前に、何名かSランクプレイヤーとスペックス公認アクトレスによる公開プレイをしてもらうという段取りですので」


「お義兄ちゃんは大トリのプレイ担当だから、お相手を誰に務めてもらうか考えないとね?

 千里さんでは代わり映えしないし、月崎(つきさき)さんあたりかな? アクトレスの中では2人とも超有名人だし、オープニングアクトの観覧チケットはプレミア化しちゃうんじゃないかな?」


 ……、あれ? 三姉妹が真面目に仕事の話をしている。


「あっれ~? もしかしてお義兄ちゃん、何か変な期待してたんじゃな~い?」


 ニヤニヤとした表情で紗雪が俺の耳元で囁いて来る。期待なんか……、してましたごめんなさい。


「アナタ、私達もアナタと愛を確かめ合いたいと思ってはいますが、さすがにそろそろハイスペックスの内装を決めてしまわないとオープンが間に合いそうにないんです。ある程度のイメージは出来ているので、私達の説明を聞いてアナタが気付いた事があれば教えてほしいんです」


 そっか、そうだよな。プレイヤー業に経営者。俳優業で映画の撮影をしているとはいえ、俺の本業はこちらだ。疎かにしてはいけない。

 牡丹が用意していた資料を見ながら説明を始める。


「この階全体を、オフィス部分を除いてぶち抜いてワンフロアにします。強度の問題について確認中ですが、天井も取り払って4階部分までをメインフロアにする予定です。

 舞台がフロア奥から中ほどまで迫り出すようして、3方向からプレイを見れるようにと考えています」


 牡丹に渡された図面を見ると、メインフロアの奥に舞台があり、フロア中央まで伸びていて観客席に取り囲まれるような形。小さな歌舞伎の演芸場みたいだ。


「舞台奥の壁はプロジェクターを使って背景を映し出せるようにします。3Dサラウンドでどの席に座っても立体音響を感じられるようにしたいのですが、フロアをぶち抜いた後でないと設計が出来ないと言われているので保留中です。

 風を感じられるようにサーキュレーターを配置したり、雷用のフラッシュライト、天井には夕焼けを演出出来るような照明の設置、それに……」


 ……、本格的過ぎないか? 演劇ってレベルじゃないだろ。映画館でプラスオプション代払って観る4D映画並み、いやそれ以上の設備を用意するつもりなのか!?


「その他何か必要な設備はあるでしょうか?」


 これだけの設備(ハード)を用意しておいて、演じ手(ソフト)のレベルが低過ぎますでは話にならん。今必要なのは設備の準備ももちろんだが、プレイヤーの育成なのではないだろうか。

 もちろんハイプレイヤーとして総選挙で選ばれた10人ではあるが、人気投票の面もあり、実力が伴っていると胸を張れるほどではない。

 その……、特に俺とか……。


「プレイヤーの育成とか今さらじゃない? 何弱気になってんの、お義兄ちゃん」


「そうですよ、アナタ。ハイプレイヤーは選ばれし10人。人気だけで選ばれるほど、アクトレス達の目は優しくないですよ」


 いや、決してアクトレスを侮っている訳ではないんだけど。自分から言い出した事が形になり、これから成功するかどうかが不安なのかも知れない。


「優希さんが発案されたハイプレイヤー総選挙は大成功でした。途中でトラブルもありましたが、月崎さんの協力を得られて新規アクトレスの獲得にも繋がりました。

 その新規アクトレスが先輩アクトレスのプレイを観て成長する為の場としても、ハイスペックスは重要な役割を担っているんです」


 そうだよな、そうだ。実力がなければ選ばれる訳がないんだ。後はこの設備をどう活用し、オーディエンスを唸らせるプレイをアクトレスと共に作り上げられるかどうかなんだ。

 舞台上のプレイヤーとアクトレスの2人だけでなく、エキストラプレイヤーにエキストラアクトレス、そして舞台には上がらない裏方。全てのスタッフが力を合わせて1つ1つのプレイを完成させるんだ……!!



「ちょっと気負い過ぎなんじゃない? 別にお義兄ちゃん1人だけの責任でハイスペックスのプロジェクトを進めてる訳じゃないんだからさ。何でもかんでも根を詰め過ぎるのは良くないよ。

 ちょっとさ、息抜きしよっか」


「いやそんな時間はない。牡丹、プレイに合わせて地面を震動させる事は出来るか? あと、オーケストラによる生演奏のBGMなんてどうだろう。ファンタジーもののプレイの場合、宙に浮けるようにワイヤーを使うのもいいかも知れないし、舞台の下を通って瞬時に別の場所から出て来るって演出も出来るんじゃないか!?

 それとそれと……」


「「「うわぁ、スイッチ入っちゃった……」」」



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