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友達の彼女の告白を断ったら、お断り屋にスカウトされました!  作者: なつのさんち


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名探偵は遅れてやって来る



「飲食店としての登録が必要なのか」


「ええ、ですので食品衛生責任者の資格を持っているプレイヤーに声を掛けています。調理師の資格も持っているプレイヤーもおりますので、そちらについては現在星付きのお店で修行してもらっています。

 ちなみにスペックスも飲食店としての登録を受けてますよ?」


 ペラペラと書類を捲ると、防火管理者の項目に牡丹(ぼたん)の名前が書かれていた。

 その他は具体的な提供メニューとその価格、原価や飲食部門だけの収益を予測する書類が用意されていた。

 経営の勉強がてらある程度見れるようにはなったが、実際にこの通り採算が取れるのかどうかまでは判断出来ない。


「これは賢一(けんいち)さんにも見てもらったのか?」


「はい。父は味次第だろうなと言っておりました。ですが、あくまでメインはプレイの鑑賞ですので」


「でも、お客様(アクトレス)を唸らせるだけの自信はある、と」


 大きく頷く牡丹。でもなぁ……。


「なぁ、Aランクアクトレスはあくまでプレイをする為に来店される。もちろん待ち時間の間に食事をされる事もあるだろう。

 でもな、牡丹が言った通り一番多い客層はプレイを鑑賞されるオーディエンスじゃないか? 自分ではプレイ出来ないけど、SランクプレイヤーのとAランクアクトレスのプレイを見たいから来られるんだろ? この価格設定で大丈夫か?」


 つまり、それほど資金に余裕のない女性が多く来られるのではないか、という疑問に至る。資金が潤沢にあるのであれば、人のプレイを鑑賞する以上に自分でプレイしたくなるというものだ。


「……、なるほど。それは盲点でした」


 これだから資産家令嬢は。盲点でも何でもなく当たり前の発想だと思うが……。

 さらに思った事を口にしようとすると、楽屋の扉がガチャリと開いた。


「おい紗丹(さたん)時恵(ときえ)心音(ここね)のシーンの撮影見に行こうぜ、って来客中か」


「おい(あゆむ)、ノックしろっつってんだろ」


「おうっ!」


 ニカッと笑ってみせる歩。小さい頃から子役として活躍していた為か、少し常識が欠ける同い年の俳優。

 武藤(むとう)(あゆむ)というこの男は、裏表がなく付き合いやすいタイプの芸能人だ。が、ズケズケと人の心に土足で上がり込むタイプなので注意が必要である。


「お前の姉貴か? めっちゃ美人さんだな!」


 姉貴である事も美人である事も否定出来ないので、何とも言い返しにくい。そして言われた本人はキリリとした表情だが、口角だけが上がっている。


「俺の本業、知ってるだろ? そこの2番目に偉い人」


「初めまして、宮坂(みやさか)牡丹(ぼたん)です。うちの紗丹をよろしくお願いしますね」


 ペコリと頭を下げる牡丹。

 うん、俺は嘘は言っていない。ってかホントの事を言える訳ないしな。だからそんなに不満げな目で俺を見つめないで下さい。


「よろしくなんて、こちらこそですよ。プレイヤーってどんな人達なのか全然知らなかったんでホストみたいなチャラいノリで来られたらどうしようかと思ってたんですけど、普通に良い奴で逆にビックリしてるんですよ」


 良い奴ねぇ。でもこいつの狙いはただの友情じゃない事くらい知ってる。こいつに同い年だと何回言ってもエミルに対してはさん付けを止めない。そもそも芸能界では自分の方がエミルよりも先輩なのにも関わらず、だ。


「それより早く! エミルさんのシーン始まっちまう!!」


 隠しているつもりがあるのか、そもそも隠すつもりもないのか。エミル、夏希(なつき)に対する好意がダダ漏れだ。幼馴染みの事を悪く思われるよりも、良く思われる方がいいに決まっているが、こいつの熱を帯びた表情を見ているとモヤモヤとしてならない。


「あらあら、嫉妬ですか?」


 うるさい。



 牡丹と別れ、結城(ゆうき)エミルこと夏希(なつき)がリハをしているスタジオへ入った。今はエミル扮する時恵と村田(むらた)ミナ扮する心音が、大波(おおなみ)監督に演技について指導を受けているところだ。


「どう言ったらいいかなぁ……。あ、紗丹君ちょうどいいや。ちょっとこっち来て」


 大波監督に手招きされたので3人がいる教室のセットへと歩いて行く。どうやら歩もついて来るようだ。


「このさ、昼休みの教室で心音と時恵が話すシーンなんだけどさ」


 教室のシーンか。確か心音が一方的に話し掛けて、時恵はただ寂しそうに頷くだけのシーンだったと思うけど。


「もしこのシーンの心音を演じるとしてさ、紗丹君なら何に気を付けて演技する?」


 俺がもし心音役であれば、か。そうだな……。


「はいはい! 僕なら平気そうな顔の中に、隠し切れない寂しさみたいなのを意識して表情を作ります!!」


 お前に聞いてないよ、と歩に言いた気な大波監督。しかしそうは口にしない。演者のモチベーションをむやみに下げない為だろうか。


「そうね、そうだろうね。ミナちゃんも多分そう思って演技したと思うんだけど、それを踏まえて紗丹君はどう思う?」


 エミルが教室の自分の席に座っており、教室の廊下を隔てる壁に備え付けてある窓を挟んでミナが立っている。2人ともブレザーの制服を着ており、見た目としては高校生と言われても何の違和感もない。

 ちなみに俺と歩もブレザー姿だ。非常に居心地が悪い。


 大波監督が改めて俺に話を振った事により、エミルとミナさん、そして歩の3人が俺を見つめて来る。

 ええ……、間違いなく演技経験が一番少ないのは俺だ。勘弁してほしい。だが、このシーンについてはお断り要素があるのでプレイヤーを本業とする俺としてはイメージがしやすい。


「そうですね……。仲の良い時恵からの拒絶ももちろんありますが、何より心音がショックだったのは、普段と変わらず接してくれた夢子(ゆめこ)とのギャップだと思います。

 超能力に目覚め、人の心の声が聞こえてしまう。でもそんなの関係ない、むしろ自分の告白をその能力でサポートしてくれと連れて行った夢子に対して、時恵は心音に話し掛けられただけで距離を取った。自分の心の声を聞かれないように」


 心音役のミナさんが小さく頷いて話を聞いてくれる。エミルは小さく笑みを浮かべて見守っている。そして歩はエミルのその顔に魅入られている……。

 おっと、歩の事は後回しだ。


「どちらかと言うと、時恵のような対応をする人が多いだろうと心音は判断します。つまり、今後は人と距離を置いて接しなければならくなってしまったと気付く訳です。

 そしてその上で、自分の心の内を悟られないよう時恵へと気丈に接します。自分の能力のデメリットで今後の人生が変わってしまうと気付いた直後、それならば時恵も同じように悩んでいるのではないか、と。

 それらを自分の中に飲み込んだ後に言うんですね、相談に乗るよ、と。電話越しだったら心の声は聞こえないから、と」


「ちょっと待って、ゆー……、紗丹君。それってミナちゃんも分かってると思うけど?」


 エミルが俺の事を優希(ゆうき)と普段通り呼びそうになって、紗丹と言い換える。が、結構無意識で優希と呼んでいる為、現場の人達は皆俺の本名が優希である事を知っている。


「書いてある、けど書いてある事だけを意識してもダメなんだったら、それ以上の事を求められてるって事だろ?

 時恵に無言で拒絶されて、ショックで悲しくて堪らない。けれどそれを悟られないようにしつつ、なおかつ時恵を気遣う心音。けど、それだけかな?」


 ミナさんは俺が言い終わるとすぐに手にしていた台本を開き、改めて台本を読み込む。自分が心音。自分自身が心音であり、自分がこの場面でどう思うか、何に気付くか。


 少しして台本から顔を上げ、目を見開くミナさん。


「心音に会う前から時恵は心音の超能力の事を知っているっていう驚きも入ってるって事、かな?」


 あぁ、それもあるかも知れないな。俺は別に答えを思い描いている訳ではないし、ミナさんに正解を言ってほしい訳でもない。

 あくまで心音を演じるのはミナさんであり、ミナさんが心音なのだ。心音がその場面でどう思うか、それが答えだと思う。だから大波監督はこうしろ、ああしろと具体的な指示を出さなかったのだろう。


「ほぉ、言われてみれば……」


 いや監督、あんたが感心してどうするんですか。監督がそこまで深く考えられてないとダメでしょうに。


「映画の前半部分の心音は友達思いで優しくて、ちょっとほんわかした女の子ってイメージだけど、途中から本当は芯の通った強い子だって分かるからね。

 前半部分であろうが後半部分であろうが、心音は心音。同じ人間なんだから、芯が強い部分ってのは絶対に変わらないはずなんだ。だから、心音が心の奥底に持っているモノを意識しつつ、今のシーンをどう演技するべきか考えてみると……」


「監督! もうちょっとだけ時間をもらってもいいですか!?」


「はい、じゃあちょっと休憩しま~す」


「ありがとうございます! さっちゃんちょっと付き合って!!」


 ミナさんにバシッと手を取られ、ぐいぐいと引っ張られる。さっちゃんて誰だよ……。

 舞台の書割の裏、スタジオの隅の方でやっと解放された。


「ミナさん、いきなりどうしたんですか?」


「やだなぁさっちゃん、私の事はみーちゃんって呼んで?」


 いや、そんなに親しくないですよね? と思っても口にはしない。エミルと仲良さげだし、無闇にヒビを入れるような事はしたくないしな。


「じゃあ私がセリフ言うから、さっちゃんが時恵役してねっ」


「いやいや、本人いるんだから本人にさせればいいじゃないですか」


 そう言いながらエミルの方を振り返ろうとすると、ミナさんに肩を掴まれてしまった。


「いいじゃんいいじゃん、頼むよ」


 いや別にいいんだけど、ちょっと強引過ぎるだろ。何か裏があるな?

 そう思い至ると、遠くの方からスタッフの「橋出(はしいで)さん入られました~」の声が聞こえて来た。

 もう1度振り返ろうとするが、やはりミナさんは俺の肩から手を離さずにじっと俺の目を見て来る。


「エミルちゃんじゃなくて、さっちゃんとがいいの。ダメ?」


「ダメ」


 俺とミナさんの間をひめが割って入って来た。ひめの手はエミルの手がギュッと握られており、少し困惑したような表情でひめを問いただす。


「ひーちゃん、どうしたの? 急な事でビックリしたんだけど……」


「なっちゃん、ゆーちゃん、全てはミナの陰謀なの」


 なな、何だってーーー!?




来週に続きます。


本編内で撮影中の映画の原作という設定の作品、ネバーエンディングバッドエントを乗り越えろ! は鋭意執筆中です。

ゴールデンウィークをめどに連載開始出来ればと思っております。


矛盾があったので修正しております。

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