カメラを止めろ!!
『僕は忙しいんだ、質問だか何だか知らないが早くしてくれたまえ』
『すみません、そんなにお時間は取らせませんから……』
プレちゃんの緊急生放送突撃取材というバナーをクリックすると、インタビュー風景が映し出された。事前に告知されていた生放送、リアルタイム視聴者のカウント数がガンガン増えて行く。
映し出されるのは2人の男女。革張りの黒いソファーにそれぞれ腰掛けている。
1人は座ったままぺこぺこと頭を下げる管理人の千里。白いブラウス、下は空色の膝丈スカート。まるで門限を破り、母親に叱られている小学生のような姿。
そしてもう1人は真っ白なスーツ、頭にはシルクハット、ボスリントン型の黒いサングラスを掛けて着飾った、The Oneこと希瑠紗丹である。ついでのように首には赤いストールが巻かれている。
『え~っと、先に視聴者の皆様に今現在の状態をお知らせさせて頂きたいと思います』
『そんな事は後で摘まんで引っ付けてぱぱぱっとやっちゃって下さいよ』
再びすみませんすみませんと頭を下げる千里。
『ハイプレイヤー総選挙が終わり、スペックスの高級別館としてハイスペックスのオープン準備が進められていると発表がありましたよね。私達アクトレスはそれはもう楽しみにしておる訳なのですが』
『そりゃあどうも』
千里が視聴者へ語り掛けている言葉をどこまでちゃんと聞いているのか。紗丹は組んだ脚を組み替えて、気だるそうに相づちを打つ。
『はい。ですので、私達アクトレスとしては先日からテレビで報道されております紗丹さんの主演映画、その製作記者会見というのは本当に寝耳に水だった訳なのです』
『はぁ……』
背中をソファーに預け、ゆっくりとした動作で腕を組む紗丹。格好だけ見ればすでに大物俳優である。
『弊サイト、プレイヤーちゃんねるの掲示板への書き込みも非常に多く、サーバーがたびたびダウンする事態でして』
『あぁ~、あのサーバーのサービスはもう終了するんですよね? 早く乗り換えた方がいいですよ』
『いや、ちょっと何の事を仰っているのか分かりませんが……。
えっと、とにかく! 映画の主演は本当におめでとうございます。The Oneである紗丹さんが新たなステージへ挑戦される事はとても喜ばしい事です。これはアクトレス全ての総意です』
紗丹は用意されているグラスに右手を伸ばし、小指を立てて口元へ運ぶ。ほんの少しの水を口に含み、ぐびりと喉を鳴らした。
『ですが、その……。
The Oneのお披露目イベントが開催されるのではないか? であるとか、ハイスペックスからの招待状はいつ来るのか? であるとか、スペックスでの新しい催しを心持ちにしているアクトレスも非常に多くてですね』
ふんっ、と紗丹は鼻を鳴らす。ソファーから上体を起こして、両膝の上に両肘を乗せて手の平を組み、顎を乗せて千里の方へ顔を向ける。
『それは経営陣に言って下さいよ、いちプレイヤーである僕に言われても困るなぁ』
『紗丹さん、あなたが経営に携わっているという噂が出回っています』
『確かに、そうと言えるかも知れません。が、僕はあくまでプレイヤーが本業だ。
そしてこれからは俳優業もこなさなければならない。あぁ、時間がいくらあっても足りないなぁ。
もういいですか? 今日も撮影がテッペン回ってケツカッチンなんですよ』
『そこで、アクトレスの質問や疑問をこちらで纏めさせて頂きました』
謎の業界用語はスルーされた。千里が用意していた書類に目を通しながら質問を投げ掛ける。
『映画の公式サイトが見つかりません』
『あぁ、まだないらしいですよ?』
『撮影場所を教えて下さい』
『ハリウッドではないのが残念ですね』
『差し入れをお送りしたいのですがどちらへお届けすればよろしいでしょうか?』
『お気持ちだけ頂戴します』
『撮影に入ったらスペックスへの出勤はされなくなるのでしょうか』
『可能な限り善処します』
『結城エミルさんとは幼馴染みとの事ですが、本当ですか?』
『本当です』
『幼い頃に結婚の約束をされましたか?』
『プライベートな質問はお断りさせて頂く』
『とあるライブ会場で一緒にお風呂に入った事があると発言されたそうですが』
『ぶっ!? お、お答え出来ません……』
質問に対して淡々と答えていた紗丹が急に吹き出した。ここが攻め時と判断したのか、千里が前のめりになって質問を続ける。
『ハイスペックスの準備状況はいかがでしょうか。全アクトレスが待ち望んでおります』
『ん゛ん゛っ!! ですので、僕からはお答え出来ません』
『映画の撮影というスケジュールが入る事により、紗丹さんのプレイ予約が受け付けられなくなる可能性、そしてハイスペックスオープンの遅延の可能性。
両方共を危惧する声が非常に多いのですが、どうかアクトレスへ紗丹さんのお声でもって、安心させてもらえないでしょうか』
ふぅ……、とため息を一つ。紗丹がわざとらしくカメラへと向き直り、語り掛け始める。
『皆さん、おはようこんにちはこんばんは。どうも、希瑠紗丹です。
このたび俳優デビューが決まりまして、現在撮影が始まっており忙しい日々を過ごしております。このインタビュー収録後も現場へ行かなければなりません。
ですが先ほども申し上げた通り、私の本業はプレイヤーです。
優れたゴルフプレイヤーやプロボクサー、サッカー選手に野球選手など、本業以外でCMやバラエティ番組に出たりしますが、それはあくまで本業で活躍されているからこその活動です。
私にとってはその活動がたまたま俳優業だっただけ。全てはスペックスを、ひいてはお断り屋業界全体の認知度アップの為の広告塔としての活動だと思って頂きたい。
私はプレイヤーを引退して活動の場をテレビやスクリーンへ移すつもりはございません。ですので、今回の映画に関しては見守って頂ければと思います。よろしくお願い致します』
そう言って、ちょこんと首だけを使い頭を下げる。
『はいカットで~す。お疲れ様で~す』
『千里さん、本当にこれでいいんですか? 滅茶苦茶業界かぶれしてる痛い奴としか思われないんじゃないでしょうか』
『いいんですよ、ちゃんとプレイヤーらしくお断りバンバン入ってたし、最後には自分の気持ちを語ってくれてそのギャップも堪らないものっ!』
サングラスを外してシルクハットも取り、不安そうな紗丹の顔がカメラに晒される。紗丹は立ち上がって窮屈そうにストールを取り払う。
『そういうもんなんでしょうか。まぁこれでアクトレスの皆様が喜んで下さるなら……』
『喜んでますともっ! ねっ、みんな!!』
千里が満面の笑みでカメラに向かって手を振っている。その様子を見て紗丹も笑顔を浮かべる。
『え、もしかして今撮ってる分も使う予定なんですか? 何だ、それだったらそれで言って下さいよ』
ホッとしたような表情を見せる紗丹。
『ばば~ん、ドッキリでした~! いつか紗丹君もバラエティとかでドッキリを受ける事になると思うけれど、先んじてプレちゃんで初ドッキリを仕掛けてみました!』
画面の枠外に待機していたスペックスオーナーである宮坂瑠璃がプラカードを持って登場。「ドッキリ大成功!」という文字が書かれている。
『うわぁ、騙されましたよホントに……。瑠璃さんまで仕掛け人なんだなんてあんまりだなぁ』
『ありのままの紗丹君をアクトレスに見てもらおうと思ってね、私から瑠璃さんに提案させてもらいました。さっきの芸能人(笑)になるんじゃないかって危惧も少なくないですから。
でも、ここまで見てもらえれば紗丹君は何も変わってないって分かってもらえるし、もし変わってしまうにしても、この映像が残ってる事で紗丹君の中で抑止力になるんじゃないかなって』
イタズラが成功した子供のように、ふふふっと笑う千里。やられたなぁという雰囲気で頭を掻く紗丹。
『ちなみに紗丹君には撮影としか言ってませんでしたが……。
実はこれ、ライブ放送なんですっ! 』
千里のその声と同時に、ドアが開かれる音が聞こえた。
『あら、優希君ここにいたのね。さっ、現場へ行きましょうか♪ お義母さんが宣伝ぶちょ……』
『おいカメラを止めろ!!』
カメラを手で隠すように紗丹の手が伸ばされ、そしてそこでライブ放送は終了した。
映画を見るので早めに投稿致しました。




