映画とイベントの進捗状況
俺のサブマネージャー、高畑花蓮。
彼女は希瑠紗丹の芸能界での仕事のマネージメントを担当している。ちなみに父親は大手芸能プロダクションの社長、高畑純一。
やり手社長の娘であり、恐らくいずれ経営者としてその手腕を振るう事になるのであろう。ただし、今は大学生という身分の為にサブマネージャーという立場にいる。
ところで、俺のメインマネージャーは誰ですかね?
「はい、と言う訳で今日は紗丹さんに私の父と会って頂きます!」
「いや、その言い方って結婚を前提に付き合ってる彼氏を紹介しに行くみたいな言い方ですよね?
普通に仕事関連の打ち合わせって事でいいんじゃないですか?」
花蓮さんから連絡が入り、高畑芸能事務所へ来てほしいと言われた。多分映画の製作について、何かしらの進展があったのだろう。
スペックスビル前に待たせてあったタクシーに乗せられて事務所へ向かう。
「まぁまぁ、そう固くならずに。お義父さんと会うのも慣れたもんなんじゃないですか?」
宮坂三姉妹の父である賢一さんとはしょっちゅう会うどころか、宮坂家のだだっぴろいお風呂場で一緒に風呂に浸かった仲だ。もちろん危険な関係ではない。
「高畑社長をお義父さんと呼ぶ事はないですけどね」
「そうですね、ビジネスの場では社長と呼ぶべきだという事については同感です」
もう何からツッコめばいいのか分からん。スルーしておこう。
「と言う事で、リアル迷宮のイベントを映画よりも先に開催する形になります。恐らくリアルダンジョンが終わった翌週くらいから全国公開になりますな」
「開催場所と周辺のホテルは押さえてある。もう具体的に企画の詳細部分を詰めていかないと間に合わなくなるぞ」
お義父さんに会う訳ではないと花蓮さんに言った直後、お義父さんに会う事になるとは思わなかった。
どうやら賢一さんと高畑社長は顔見知り、それも割と仲の良い友人関係だったようだ。
先に言っておいてよ、お義父さん。
「つきましては、映画のプロモーションがてらに橋出姫子もリアルダンジョンに出演させて頂きたいのです。
結城エミルが勇者を異世界から召喚した国の王女であるのなら、姉妹という事で第二王女という役柄なんていかがですかな?」
高畑社長にはリアルダンジョンイベントのイベントマネージメントを依頼している。その代わりと言っては何だが、俺は主演映画への出演を承諾した形だ。
高畑社長の提案を聞いて、俺はちょっとビックリしてしまった。
そもそもひめをリアルダンジョンイベントに起用したいと申し出たのは瑠璃だ。
以前事務所に伺った際に俺が映画の主演を受ける交換条件として、エミルと姫子を使わせてくれと言ったんだが……。
もしかして、このオッサンとうとうボケたな?
「なるほど、それについては持ち帰って検討させて頂きます」
これはチャンスだ。こういう話し合いでは提案を持ち掛けられた方がアドバンテージを得る。
さらなる要求を吹っ掛けるべく、この提案を持ち帰って宮坂三姉妹と話し合おうじゃないか。
「おい優希、持ち帰る必要あるのか? ひめちゃんなら何の問題もないじゃないか。
詰められるところは詰めておかないと本当に時間がなくなるぞ」
賢一さん、それ以上喋らないで! ほらまたニヤニヤし出したじゃんか高畑社長が!!
あれ? もしかしてわざとボケたんじゃないだろうな、このオッサン……。
「ひめちゃんのスケジュールはもう押さえてあるんだ。後はイベント責任者の意向だけなんだぞ?
まさか優希、ひめちゃんだけ除け者にしようっていうんじゃないだろうな?」
「分かりました分かりました!! ぜひ橋出姫子さんを第二王女として出演して頂きたいです!!!」
はぁ、もうヤダこのお義父さん……。
「と言う事で、ひめもリアルダンジョンイベントに出演してもらう事が正式に決定した」
パチパチパチパチパチ♪
自宅に戻り、夏希以外のみんなが揃ったタイミングで今日高畑芸能事務所で話し合った事について報告をした。
ひめは事前に打診を受けていたのか、にんまりと微笑む程度のリアクションだった。
高畑社長と賢一さんがあーでもないこーでもないとイベント・映画について話し合いが続いたが、俺は火の粉が降りかからないよう大人しくしていた。
ただ、2人の会話の内容は非常にレベルが高く、得られる物は大きかった。
それにしても、そのハイレベルの会話の合間合間に昔取り合った女性の話を入れ込むのは止めてほしかった。
花江には言うなよ、ってのはフリなんでしょうかねぇ。
「リアルダンジョンの準備と映画の撮影時期が丸々被るんじゃないかしら」
瑠璃の言う通り、準備と撮影が思いっ切り被る。だからこそ進められる点については詰めて行って、決めてしまえと賢一さんが仰っていたのだ。
でも、映画については俺単独の仕事であるのに対し、リアルダンジョンはあくまで発案者が俺だというだけであり、企画の進行については俺が必要以上に頑張る事はない。
「こればかりは仕方ないですね。優希さんがイベントの企画進行に十分な時間が取れないのであれば、私達がカバーをしないといけません」
「そうね、お義兄ちゃんじゃないと絶対にダメっていう重要案件以外は、あたし達がぱぱぱっと決めていっちゃいましょー」
瑠璃も、牡丹も、紗雪もいる。みんなで力を合わせて前に進んで行けばいいのだ。リアルダンジョン、そしてその後に映画の公開。
企画進行と撮影とで時期が被るが、映画の撮影は俺だけ。イベントの企画進行に関しては宮坂三姉妹が。
それぞれ忙しくはあるが、報連相をきっちりと守れば問題ないはずだ。
「でも、その前にハイスペックスの準備があるんじゃないの?」
「「「「……………………」」」」
ひめぇ、今それを言わないでくれ……。みんな現実から目を逸らしているのに……。
「映画の撮影が始まると、優希がハイスペックスに出られないんじゃないの?
映画の撮影中にハイスペックスの正式オープンなんて絶対にダメ。撮影が始まるまでにハイスペックスをオープンさせるの!
さぁ、何から決めればいい? 私も出来る事があるのなら手伝うから早く!!」
えらい剣幕のひめに急かされ、ハイスペックスのオープンに先立つ諸々の打ち合わせを行った。
紹介状を送るお客様の選定。利用料金。ハイスペックス内で出す料理と飲み物についてのメニュー選考。
決めなければならない事はいっぱいある。いっぱいあるからこそ、どれから決めればいいのか迷ってしまう。
そういう時は、ひめのようにさぁやるぞ! と焚き付けてくれる人物が必要である。
何から決めようが最終的に全てが決まればいいのだ。やらなければならないという空気を作る、という重要な役割を担ってくれたひめ。
そのひめは今、リビングのソファーにもたれて寝入っている。ひめも自分の仕事が忙しくなって来たところだ。まだ忙しさになれていない分、余計に疲れているのだろう。
「ありがとうな、ひめ」
おでこにキスを落としてから、ひめのベッドへと運ぶ。お姫様抱っこをするとガシッ! と俺の首に両手を回して来た。
「起きてんのか~い」
「ふふっ、ぐ~ぐ~」
女優とは思えないほどの幼稚な演技。口元はふにゃふにゃとにやけ、瞼もぴくぴくしている。
「うん、やっぱり寝てるな。起こすのも悪いしそっとベッドに寝かして、って!?」
ベッドに寝かした瞬間、俺の身体がぐるんと横回転。気付けばひめが俺の上に跨っている。
「ダメだよ優希君、女の部屋に男の子1人で来るなんて。襲ってくれって言ってるようなものなんだよ?」
「何だそのノリは」
ひめは言うだけ言って、顔を真っ赤にしている。しばらく見つめていると、俺の首筋に顔をくっつけ、またもぐーぐーとわざとらしい寝息を立て始めた。
はいはい分かりました、こっからは男の見せ所ってヤツですね。
なろう運営より警告を受けたので、1話目から改稿に次ぐ改稿を行っております。
大筋は変更しておりませんが、アウトな表現と思われる部分は修正しておりますのでご了承下さいませ。
ちなみに、1話目から読み直していたら矛盾を発見したのでこのお話も修正しております。
ボケていたのはオッサンではなく作者でした……。




