2人だけの時間パート2
ハイプレイヤー総選挙も無事終わり、瑠璃達の手によってスペックス別館であるハイスペックスの準備も着実に進んでいる。
月崎さんからの協力を得られた事はとても大きい。
見せる、魅せる。
これをテーマに観客席に取り囲まれたステージが用意され、総選挙で上位10名に選ばれたハイプレイヤー達とスペックスからの招待状を受け取ったハイアクトレスが競演する事になる。
ただ、逆に言うとハイプレイヤーは10名しかいないので、一日に受けられる予約数がそれほど多くない。
また、スペックス本館のようにあらゆるセットや小道具を事前に用意しておく事は出来ないので、それについても今後どのように運営して行くのかよくよく考える必要がある。
勢いでトプステを買収する! と言ってしまったが、本当に勢いだけで他人の会社を乗っ取るとかダメだな。
手遅れやけどな。
さて、今日は予約を入れて下さったアクトレスの方々とのプレイが終わった後、お洒落なカフェでノートパソコンを開いて作業をしている。
後回しになっていた俺のデビュー曲(笑)の作詞を進めている。どうしても自宅だと気が散るし、気が抜ける。そして抜かれる。
外に身を置いた方が捗るはずだ。
カフェの隅っこでノートパソコンを開き、イヤホンを刺して殺魔さんが作って下さった曲を延々リピート再生する。
目を閉じて曲の印象から何かフレーズが降りて来ないかと天を仰ぐが、どうやら俺は音楽の神様に愛されていないらしい。
ため息をつきながら目を開けると、テーブルを挟んで向かい側の席に夏希が座っていた。
伊達メガネにニットの帽子。マフラーで口元を隠している。人気女優の世を忍ぶ仮の姿だ。
「ん? いつからいたんだ?」
「う~ん、20分くらい前かな」
20分!? 長過ぎないかそれ。
紗雪あたりに連絡をして俺の居場所を聞いたのだろう。
と言う事は、今日は夏希の日なのだろう。
「すまん、どうしてもいい歌詞が思い浮かばなくってな」
「大丈夫、今日はもうお仕事ないから」
夏希も結城エミルとして多忙な日々を送っている。そんな人気女優である夏希に無為な20分を過ごさせてしまった事に対する罪悪感が込み上がって来る。
「久々に優希を独り占め出来るからね、ちょっと嬉しいよ」
「独り占め、か……」
元々俺と夏希は生まれた頃からの幼馴染であり、1度は恋人同士にもなった間柄だ。
紆余曲折あって、今ではハーレムの主と恋人のうちの1人、という間柄になってしまっているが、過去の辛い出来事と俺の家族を奪った事故さえなければ1対1のお付き合いが続いていた事だろう。
それだけに、今の一言は俺の胸にずしんと重く響いた訳だ。
「せっかくだからどこか移動するか。見晴らしの良い高級ホテル最上階のバーとか、湾内クルージングとか」
有難い事にプレイヤー業と経営者としての報酬で、使い切れないほどの預金が口座に入っている。
家族を失った事で得たお金には全く手を付ける必要がない。この事に対しては本当に宮坂三姉妹に感謝している。
自分で稼いだお金だ、夏希との特別なデートに使うのに何の躊躇いもない。
「そんな特別な事する必要ないよ。うちとゆーちゃんがおったら、それだけで特別なんやから」
そう言って、ふわりと笑う夏希。標準語を使う今の夏希と、昔から隣にいるのが当然だった幼馴染としての夏希。
両者のギャップにドキリとさせられる。
「ひーちゃんとは学生がするようなデートしたんやろ?
ええなぁ、ひーちゃんは。めっちゃ自慢されてうちも嫉妬してまうわぁ……」
うっ、このタイミングでそんな事を言い出すのか……。
夏希は再会した際にはすでに人気女優になっていたので、そうそう気軽に外へ出掛けられなくなってしまっている。
学生のようなデート、と言っても映画を見るか全国チェーンのレストランに行くか程度の事。
結城エミルがそんなところにいれば、すぐにSNSを介して拡散されてしまい、その場は大混乱になってしまうだろう。
「いや、あん時はひめもまだ無名やったしな?
もう今やったら無理やろ、ひめもテレビや舞台やと人気が出だしてるしな」
ひめもあの時のデートで俺に語ってくれた、結城エミルに負けない実力と人気のある女優になりたいという目標を掲げ、精力的に活動の幅を広げている。
「そやし人目に付かん個室で出来る事、しよーや」
しよーや、って何をするつもりなんですかねぇ……。
そもそもそんな個室のあるピンクのお城に行く途中でパパラッチされるかも知れんリスクがある件について。
「あ~、何かやらしい勘違いしてるやろ~。ちゃうで、うちが言うてんのはカラオケの事やで」
あー、そっちな。知ってた。
ってかわざと勘違いするような言い方したのは夏希である為、俺に罪はない。
個室で出来る事、で思い浮かべる事なんて、健全な男であればアレしかないんだから。
で、結局辿り着いたのは本当にカラオケでした。
「だってここカラオケも出来るし、ゆーちゃんの作詞環境にはピッタリやろ?」
そらそうやけど。
部屋に入るなり抱き着いて来た夏希。抱き締め返して夏希成分を補充する。最近お互い忙しかった為にこういう時間が取れないでいた。
ここに向かう途中に牡丹から、たまには2人でゆっくりして来るようにとのメッセージが来たので、お言葉に甘えてゆっくりする事にする。
さて、とりあえずソファーに腰掛けてドリンクメニューを確認する。
夏希はタブレット型のカラオケ用リモコンを見つめながらうんうんと唸っている。
「夏希、どしたん?」
「んー、12.5歩のミュージックビデオの流し方が分からんねん」
は? ホンマにカラオケするつもりなん??
そう思ってうんうんと唸っている夏希の後ろから、そっと抱き着く。夏希は機械オンチなのでタブレットであろうが備え付けのカラオケ機械であろうが操作は苦手だ。
可愛いなぁと思いつつ頬と頬をくっ付けると、発熱しているんじゃないかというレベルで顔が熱かった。
「夏希?」
ふるふる、と首を横に振る。
あ、もしかして風邪ひいている……?
「なぁ、2人になれるのがホンマにたまにやからって、しんどいの隠す必要ないんやぞ?」
心配しながら夏希の額に手を当てると、その手をギュッと抓られた。
「違うわ! ひ、久しぶりやからアンタと2人きりの状況に、緊張してるだけや……」
はぁっ!? 夏希が? 俺と2人きりやからって? 緊張するって??
「ハッハッハッハッハッ!!!」
腹を抱えて笑っていると、夏希が俺の胸をぽかぽかと殴って来た。
まるで漫画のような展開に、さらにツボに入ってしまう。
「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ……」
「ちょっ!? 何してんにゃさ! 大丈夫かいな……、アーティストは喉が命やろうに!!」
「や、ヤメロ、これ以上を追い詰めんといてくれ……、そのドヤ顔止めろ! ハッハッハッ!」
じゃれては笑い、笑っては咳き込んでという繰り返しを終えた後、少し休憩してから本来の目的であったカラオケを入れる事に。ここをこうしてこうすればっと。
音楽が流れ出した。年明けライブで殺魔さんが歌っていた12.5歩のアップテンポナンバーだ。
「「うおぉぉぉ~~~~~!!」」
2人でソファーの上で飛び跳ねる。首を振ってリズムに乗り、殺魔さんのシャウトに合わせて叫ぶ。
ストレス発散ってこういう事を言うんだろうな。久しくこういう事をしていなかったので、とても気持ちが良い。
何でだろう、やっぱり2人とも互いに気を遣う相手ではないからだろうか。
「歌ってさ、やっぱその場のノリみたいなんが大事よね。音にノリながら歌える歌が最高や」
夏希が言うように、理路整然とした歌詞よりも曲調に合わせて流れるように歌える歌詞が、俺と夏希の好みだ。
多少意味が伝わりにくくても、考えずに感じろと訴えかける、ヴォーカルが出す声すらも楽器の音色なのだというような、そんな歌が好きだ。
そんな歌をカラオケで歌うのが好きなのだ。
「……。あ、ごめん。ちょっと思い付いたし仕事してもええか?」
「謝る事ないて。それに仕事ちゃうやろ?
ホンマに好きな事してる! って顔してるで、今のゆーちゃん」
マジか、ほんならめちゃくちゃええ歌出来上がるやん!!
と、ど素人の俺の作詞がそう簡単に行く訳がなく、夏希と2人でうんうんと唸りながら、時間を掛けてやっと歌詞が完成したのであった。
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