アクトレスのステータス
明けましておめでとうございます。
本年もどうぞ、よろしくお願い致します。
ハイプレイヤー総選挙が無事終わり、ハイスペックスに出勤する事を許された10人が決定した。
が、そもそもその10人が出勤するハイスペックスの準備が出来切っていない。
と言う訳で、今日はハイスペックスの構想の大詰めを行う為に関係者が集まっている。
構想さえ出来れば工事着工して2・3週間でオープン出来ると瑠璃と牡丹が言っているんだが、本当だろうか……。
瑠璃と牡丹、紗雪とそして月崎さんと俺がスペックスのオフィスに集まった。
「とりあえずこうして月崎さんにお越し頂いたので、観客ありきでの公開プレイの見せ方を詰めてしまいましょうか」
瑠璃はさらりとそう言うが、それこそ綿密な打ち合わせの元に慎重に進めるべき案件なんじゃないだろうか。
舞台として機能させるには、音の響き方から照明器具の位置から専門家に設計してもらう必要があると思う。
そう言う意味では月崎さんがおられるから「それはアカンで」と言ってくれるだろうけど。
「舞台装置などの手配はどうなっているんでしょうか?」
ほら、早速本格的な話し合いに突入した。これで色々と準備不足を指摘される流れが……。
「まず観客席としては30名分も必要ないと思ってます。食事や飲み物を提供するにしても限界がありますし、全てのプレイを公開する訳ではないですから。
公開プレイをオーダーされるアクトレスはそう多くないと思っています。ただ、舞台の上で生プレイを希望するアクトレスは多くないでしょうけれど、スペックスが別室からの中継形式で公開プレイをしませんかと依頼するのはありかなと思っているので、生プレイがない時はモニター越しに鑑賞するライブビューイング形式になるでしょう」
「なるほど……、それであれば音響や照明はそれほど拘る必要ないでしょうね」
ん? 月崎さんそれでいいんですか……?
月崎さんの返事を受けて、瑠璃が続ける。
「ええ、カメラも定点式にしておいて、ここにカメラがあると分かる状況であれば意識して下さるでしょうし、慣れるにつれてアクトレスも見せ方が上達して来ると思われます。
先ほども申し上げた通り、この方はというアクトレスには前もってお声掛けして、ハイスペックスのオープンを盛り上げて頂ければと思っております」
「ハイスペックス公認アクトレス、と言う事ですね」
ハイスペックス公認アクトレス……。瑠璃と月崎さんが頷き合っている。
公認アクトレスとしてすぐに思い浮かぶのは、プレちゃんの管理人である千里さん。そして月崎さん。あと、美代を入れてもいいかも知れない。
「公認アクトレスの人数はどれくらいを想定して進めればいいでしょうか?」
「そうね、あと公認アクトレスへの報酬はどうするべきか考えないと」
牡丹の問い掛けに紗雪が質問を被せる。
もしも月崎さんが公認アクトレスを受けて下さるとして、報酬はいかほどご用意すればいいだろうか。
「報酬はない方がいいでしょうね。高ランクアクトレスにとって、最早スペックスは社交の場になりつつあります。
もちろんプレイする事が一番の目的である事は当然ですが、プレイの前後にアクトレス同士で話す機会は多々ありますし、横の繋がりが太い方々も多いと思います。
報酬を受けているアクトレスと、そうでないアクトレスに名誉以外での待遇の差があるべきではないと思います」
報酬と言っても色々想定が出来ると思う。
例えば率直に金銭。後はサービス券や割引券や優先予約券など、スペックス内での優遇券であればいくらでも用意が出来る。
しかし月崎さんは報酬はない方がいいと主張された。スペックスは社交の場である、と。
「それはつまり、公認アクトレスに選ばれて、公開プレイをする事自体がそのアクトレスのステータスになるからそれ以上の報酬は必要ないという意味でしょうか」
その通りです、と月崎さんが答えて下さる。
「公認アクトレスに選ばれるのは恐らく、Aランクアクトレスのみでしょう。Aランクまで登り詰めたアクトレスにとって、さらなるステータスと言えば現状ではレーティングポイントのみです。
レーティングポイントについては、プレイ後にプレイヤーから評価されるポイントで上がる訳ですが、Aランクのアクトレスにもなれば、この評価ポイントが減点されるなんてあり得ないんですよ。
つまり、レーティングポイントはプレイ回数に比例して上昇して行く。ただそれだけなんです」
ただそれだけと言われてもな……。プレイ回数の分だけレーティングポイントが上がって行く。
あっ、そうか。時間、もしくは金銭的な要因でスペックスに行ける回数が限られるAランクアクトレスにとって、レーティングポイントは上げたくても上げられない。
自分よりも数多くスペックスに通う事が出来るアクトレスとの間が広がってしまう。その差を詰める事は出来ない。
が、その実力が認められれば公認アクトレスというステータスが手に入る。
レーティングポイントなんてただの数字であり、公認アクトレスとは文字通りスペックスに実力を認められたアクトレスであるという証になる。
これ以上のステータスはないだろう。
「正直、レーティングポイントがどれだけ上がったと自慢し合うアクトレス達には思うところがあったんですよ。通えば通うほど上がって行くポイントに、意味はあるのかと。
それよりも、アクトレスから見て本当にリスペクト出来るプレイをするアクトレスをこそ讃えるべきではないかと思ってたんです。
ハイプレイヤー総選挙で、上位10名はSランクプレイヤーに昇格した訳ですが、アクトレスにはそれがない。
ですので、公認アクトレスというのはタイミング的にはちょうどいいのではないでしょうか」
「そうですね、月崎さんが仰る通りだと思います。スペックスとしても通うだけで上がるポイントが優劣を付ける判断基準になるのは不本意です。時間とお金を掛けるだけで上がって行くポイントにはあまり意味を見出せません。
いっその事、公開プレイを見せたアクトレスを、観客として見ていたアクトレスが評価するというシステムを新たに作るのもいいかも知れません。
いずれはアクトレスランクにもSランクを作るのもいいかも知れませんね」
瑠璃が新しいシステムを提唱し始めた。
おいおい、今はそんなシステムよりもまずハイスペックスをだな……。
「そのアクトレス間の評価システムはアクトレスアプリのアップデートで対処出来ると思います。
開発会社へ打診しておきますね」
牡丹が乗っかった。
「公認アクトレスの第一号は月崎さんと千里さんは決定として、他にもあと何人かお願いしておきたいね」
紗雪も乗っかった。
「月崎さんと千里さんからの推薦という形でお願い出来ませんか?
アナタ、千里さんへの連絡はお願いしますね」
「いや、連絡するのはいいけどさ、それよりもまずハイスペックスのハード面というか、どういう内装にするかって話を……」
「お義兄ちゃん、そんな事は後でどうとでもなるんだよ。
それよりもソフト面、運営方法と盛り上げ方を話し合った方がいいと思うよ」
え、そうなの? 内装ってそんな簡単に決められるもんなの?
月崎さんを見ると、紗雪の意見に反対する素振りは見られない。むしろ、俺の話は聞いておらず瑠璃と牡丹と熱心に話し合っている始末。
「オープンから毎日1回以上は公開生プレイをするとなると、やはり10~15名くらいはアクトレスの確保が必要だと思います。
私はあまりアクトレスの横の繋がりが多い方ではないので、ここは千里さんの推薦に頼る他ないのではないでしょうか」
「ですって優希さん。千里さんに今から来て頂けるか連絡してもらえませんか?」
牡丹もノリノリで話を進めている……。
早く早くと4人に急かされて、その場で電話を掛けさせられる俺。
分かったからちょっと待って。
「もしもし、優希です。今大丈夫ですか?」
『はい、大丈夫です! プレイ中だけどストップしてもらいました!!』
いやダメだろ千里さん! 相手のプレイヤーが可哀想です!!
『だって紗丹君からの電話に出ない訳にはいかないもの!!』
『ちょっ、紗丹お前!?』
この声は青葉さんか。後で説明と埋め合わせをしないと……。
その後、千里さんはすぐに受付嬢に案内されてオフィスにやって来た。
お陰で話が進み、ソフト面だけでなくハイスペックスのハード面、内装の打ち合わせの話も出来た。
ハイスペックスのオープン準備がある程度進めば、次はリアル迷宮の準備。それと平行して映画、そして歌手デビューか……。
少しずつ前に進んでいるような、進んでないような。
この多忙な日々はいつか落ち着く日が来るんだろうか……。




