台本その2の男性側事情パターンを牡丹とプレイ
結衣崎早月様からご提供頂いた台本を元に、優希達が実際にプレイをしてみるという回です。
台本その1と台本その2の1パターン目を同時投稿しております。
こちらは台本その2の1パターン目のプレイ回です。
「ささっ、どんどんプレイを回して行きましょう。お次は牡丹さんですね?
台本その2は男性側に事情があり、両思いなのに叶わない恋です。設定要望はお決まりですか?」
月崎さんがノリノリで進行し始めた。瑠璃とのプレイの時はソファーに座ったままだったのに、今は立ち上がり俺と牡丹の試合を仕切る審判のような立ち位置。
気合いが入っているのはありがたいけど、勢いに飲まれそうだ。でも良い機会なのは間違いない。
普段はしないような挑戦や意外な展開などを試してみてもいいかも知れない。
「そうですね……、まずプレイヤーの呼び名は優希君。アクトレスの呼び名は瑠璃さん」
「ちょっと待ちなさいよ……、それはどうなの? 自分の名前にするか、それか紗雪にしなさいよ」
「お姉ぇ、こっちに押し付けようとしないでくれる?」
おー、そういう手があったか。
牡丹の思惑はというと、アクトレスの役名を瑠璃にする事により、プレイヤーが牡丹の事が好きだからという理由でお断りさせる事が出来る、というものだ。
瑠璃としての自分はお断りされるが、プレイに出て来ない牡丹としての自分の恋は叶う。物語上ではあるけれども。
自分の妄想の中の恋敵を演じる事で、自分を物語のヒロインとしてプレイヤーに選ばせる事が可能……。
これは新しい台本の使い方じゃないだろうか。いや、台本自体スペックスにとっては新しいんだけど。
「この台本にそういう使い方が出来るなんて……。この手法は高ランクアクトレスの中で流行りそうですね。
ん~~~っ、これがアリかナシかで言ったら、反則だけどアリです。これをスペックス内で運用出来るかどうかは牡丹さんに掛かっていますね……。
牡丹さんっ! 続けてオーダーを埋めてしまいましょう!!」
月崎さんがテンションマックスで先を急かせる。その勢いに押され、瑠璃が発した牡丹への批難は流されてしまった。
「ロケーションは水族館の駐車場。海が見える場所に車を停めていて、優希君が運転席に座っています。もちろんアクトレスは助手席で。
結ばれない理由は、実の姉が好きだから!!」
「実の姉!? 禁断の恋!!?
いや、これはさすがにダメです! 高ランクアクトレスであればいざ知らず、新人アクトレスを想定している今のテストプレイとしてはアウトです。近親以外の設定に変えて下さい!!」
テンションマックスでもちゃんと冷静な判断を下す月崎さん。そしてそのツッコミが入るのを想定していたかのように牡丹が答える。
「じゃあ従姉妹のお姉さんで!!」
「く~~~! 行っちゃいましょう。よ~~~い、スタートっ!!」
スタートの声と共に、牡丹が眼鏡を外してテーブルに置いた。確かに瑠璃は眼鏡を掛けていない。名前だけでなく形も瑠璃を模してプレイに望むつもりのようだ。
俺と牡丹はソファーを車の運転席と助手席に見立てて隣同士で座り、笑顔で会話を始める。
「ふぅ~、やっと落ち着いたわね」
いつもより声のトーンを下げ、牡丹が瑠璃を演じ始める。優しい顔つきに、意識してクールな表情を浮かべて微笑んでいる。
血が繋がっているのもあるだろうけれど、さすが毎日瑠璃を見ているだけある。瑠璃の雰囲気を見事に再現している。
「ちょっと遊び過ぎたかもな。でも瑠璃さんといるとあっと言う間に時間が過ぎるよ。
いつもはクールビューティーって雰囲気なのに、遊び出すと無邪気でさ」
「やだもうアナタったら……」
「お姉ぇ、プレイだから」
少し瑠璃の機嫌を取っておかないとな。今から目の前で自分(を演じる牡丹)が振られるんだから。上げて落とす事になる危険性もあるんだけど。
「そう? 優希君と一緒にいると楽しいから、ね。
いつもはなかなか2人きりになれないけど、今日は思い切り楽しもうって思ったのよ……」
少し影のあるような表情で俯き、両手を膝に乗せた台本の上でギュッと握る牡丹。
牡丹だけど瑠璃、牡丹だけど瑠璃、いや瑠璃さん。ややこしいな……。
「……、ねぇ優希君。今度はどこに遊びに行こうか?」
牡丹が顔を上げ、助手席から俺の顔を覗き込むようにして聞いて来る。それは友達以上、恋人未満の距離。俺が運転席から少し首を伸ばせば、唇が重なる距離。
「そうだな~、この前は映画だったし、今日は水族館。となると……、動物園とか?
あっ、ボウリングもいいな。その後カラオケ行ってさ。で、ゲーセンでUFOキャッチャーしたりして」
複合型のアミューズメント施設を思い浮かべながら話す。学生ならば珍しくないであろうデートプランだ。
台本に『やはり二人は同じ気持ちなんだと勇気をもらう。かねてから考えていた、家族との顔合わせを提案してみた』というアクトレスの心情を表す文章がある以上、プレイヤー側がアクトレスに勘違いさせるような言動をしなければならない。
「いいわね、とても楽しそうだわ。
……、話が変わるんだけれど、来年に実家を建て直す事になったの。私の部屋についての話とかも進んでいるのよ。
それで具体的な設計図が出来る前に、優希君の事を両親に紹介したいと思ってるの」
頬を染めた牡丹の、その目から視線を逸らす。マズい、そんな表情を浮かべてそのままキョロキョロと辺りを見回してから、再び牡丹に向き直り、口を開く。
「……、瑠璃さん。その……、今まで言えなかったんだけどさ。
実は俺、瑠璃さんの事を牡丹ちゃ……、従姉妹の代わりとして見てた、かも知れない」
牡丹の表情がこわばる。言われた意味が分からないといった反応。少し遅れて、自分が他の女の代わりとして見られていたのだろうという可能性に思い当たり、牡丹は眉間に皺を寄せる。
それでもそうは思いたくない。努めて笑みを浮かべ、牡丹が確認する為に問い掛ける。
「え~っと、それは一体どういうことかしら?」
ここははっきりと言い切るべき場面か。ずばり本音で答える。
「俺、瑠璃さんの事が好きだ。こうやって2人で出掛けるの楽しいし、一緒にいてほっとするんだ。
でもね、それ以上に自分の従姉妹の事が好きなんだって、最近気付いてね。とっても素敵な従姉妹なんだ。俺が生まれた時からの付き合いでさ。
その従姉妹に想いを打ち明けるのが怖くて、瑠璃さんを従姉妹の代わりとして見てたんじゃないかって……」
う~~~ん……、牡丹のオーダーに可能な限り寄せてプレイしているけど、何となくしっくり来ないな。もっといいお断りが出来ないもんだろうか。
いやいや、そもそも台本その2をベースにしているのに、大きく趣旨が変わってしまっているのが原因だ。アクトレスからプレイオーダーが出た時点で展開が難しそうだと判断すれば、プレイが始まる前に修正してもらう必要があるのかも知れない。
そんな事を考えながら次のセリフを頭の中で探していると、ストップ! と月崎さんが手を挙げてプレイに中断を掛けた。上気した顔で俺を見つめ、早口で捲し立てる。
「いいですか紗丹さんっ! 今プレイしている趣旨をよくよぉく考えて下さい。
瑠璃さんを演じているのは牡丹さんですよね!? ここでいうところのプレイヤーが好きな従姉妹なんですよ、分かりますか? 牡丹さんが真に望んでいるプレイは演じている瑠璃さんにお断りをする事で、従姉妹と優希さんが結ばれる事です!
例えそれがプレイの中であっても、結ばれようとしているんですっ!! もっと役としての優希さんがどれだけ従姉妹の事が好きなのかを言わないと!! 役としての瑠璃さんに従姉妹への愛を語らないと!!
役柄の向こう側の、アクトレスの求めている事にがっと食いついてばばばっと切り込んで行かないとダメですっ!!!」
月崎さんが言いたい事は分かった。分かった上でちょっとだけ考える時間が欲しい。
これは練習、月崎レッスンだ。さっきのセリフからもう一度始めれば良いとして、何を言おう。
牡丹が演じている瑠璃の前で、いかに役としての優希が従姉妹である牡丹ちゃんの事が好きか、想っているかを語ればいいのか……。
もし求められている事と違っても、また月崎さんが止めてくれるだろう。ここは振り切って語り尽くす!!
ん゛ん゛っ、と咳払いを1つしてから。
「俺、瑠璃さんの事が好きだ。こうやって2人で出掛けるの楽しいし、一緒にいてほっとするんだ。
でもね、それ以上に自分の従姉妹の事が好きなんだって、最近気付いてね。
とっても素敵な従姉妹なんだ。思いやりがあって、気配りが上手で、手料理も美味い。いつもほんわかと微笑んでいて、それでいて仕事は完璧でさ。でもちょっと抜けているところがあって、守ってあげたいとも思うんだ……。
いつからか分からないんだけど、牡丹ちゃんと手を繋ぎたいなって、抱き締めたいなって、匂いを感じて、温もりを感じて……。
俺の事、従兄弟としてじゃなく、年下の男としてじゃなく、男として見て欲しいなって。瑠璃さんと一緒に過ごす内に、牡丹ちゃんに対する想いがどんどん溢れ出して止まらないんだ!!」
「…………、そんなの酷いわっ! 私を見ながら、他の女の影を追っていたなんて酷すぎる!!
それなら、気付いたのなら、もっと早く言ってくれてもっ……!!」
声を震わし、両手で自分の顔を隠す牡丹。若干口元がニヤけている気がするんが……。
あー、次のセリフ何て言えばいいんだよ、分かんねーよ。
「好きになってしまったんだ、瑠璃さんの事も……。
瑠璃さんの事を好きになったからこそ、それ以上に牡丹ちゃんの事が好きだって気付いてしまったんだ!!」
台本の通りプレイヤーとアクトレスが両思いであるという設定を生かすなら、こんなセリフがないと成立しない。もうこれただの優柔不断な最低野郎じゃないか。
え、俺? 俺はハーレムの主だから……。
「ごめんなさい、つい優希君を責めるような事を言ってしまったけれど、あなたは何も悪くないわよね。
ごめんなさい、従姉妹のお姉さんを好きになる事って、あるよね……」
う~ん……、あるんだろうか。従姉妹というか、俺にとって母親の妹である冬美ちゃんがこのシチュエーションに一番近いと思うけど、女性として見た事ないしな。
牡丹はちょっと自分の妄想全開過ぎやしないかい!!?
月崎さんは食い入るように見守っているが、瑠璃と紗雪は半ば呆れたような目で見ておりツッコむ事すらしないでいる。
「でも俺に牡丹ちゃんの事が好きなんだって気付かせてくれたのは、瑠璃さんなんだ」
だから何だよ、そんなん振られた相手に言われてもただただドン引きするだけだろうが。
「最後に、ちゃんと言わせて欲しい。
優希君が大好きです。本当に、……好き、だよ」
「瑠璃さん……、ごめんなさい。でも、牡丹ちゃんに真剣に打ち明けてみようと思う」
チラっと台本を確認すると、『中途半端な言葉ではなく、想いを素直に伝えて、正面から断られたあなたは納得していた。どうしようもない事情というのはあるのだ。他人から見て、諦めるほどではないようなことであっても』と書いてある。
いやこれ無理あり過ぎぃ!!
「今まで幸せな時間をありがとう……。
絶対、牡丹さんと幸せになってねっ」
そのニヤニヤ顔を止めろってば!!
「はいここでクーリングタイムに入るんですが、紗丹さん! あなたは少女マンガやレディースコミックといった女性向けの物語を読んだ事はありますか?」
「いや、ほとんどないですね」
妹が少女マンガを買っていたと思うけど、こっちに越して来る前に全て処分してしまった。優奈に勧められた映画化作品を何冊か読んだだけだったと思う。
「あれらにはお断り屋に来られるアクトレス達の心情をよく描かれていると私は思います。勉強しましょう! どうすれば女性の妄想を形にしてあげられるか、研究すべきです。
紗丹さんだけでなく、この際プレイヤーカウンターのあるフロアに図書室を用意して、待ち時間などに読めるようにする事をオススメします」
「それはとってもいいアイディアですねっ! 早速手配しましょう!!」
牡丹が乗り気だ。瑠璃と紗雪を見ると、同じく頷いている。
ひめはさっきからずっと台本を読み込んでおり、自分の番になったらどんなプレイをするかとイメージトレーニングをしている様子。
「それと牡丹さん。今回は身内でのテストプレイという事で割と何でもありでいいと思うのですが、もしお相手が紗丹さんではなく新人プレイヤーだったとしたら、対応し切れると思いますか?」
そうですね……、と少し考えてから、牡丹が月崎さんの質問に答える。
「新人プレイヤーでは対処出来なかったと思います。優希さんでも一度月崎さんからのストップが掛かっていましたし。
先ほどの少女マンガなどを読んで研究するのと、別に何か対応が必要そうですね」
「いやいや、いくら研究したとしても今回の無茶振りプレイが何度も来るとさすがにプレイヤーも困ると思うぞ?」
「紗丹さん、いいですか? アクトレスの求める事に応えるのがプレイヤーのお仕事なんです。今回は身内でのテストプレイでした。
ですが牡丹さんがオーダーされたようにいずれは他のアクトレスからこのようなオーダーが来る事でしょう。
その時、それは無茶振りだから対応出来ませんとプレイ自体をお断りするおつもりですか?
全てのアクトレスのオーダーに応えるのがプロのプレイヤーなんじゃないですか?」
うっ……、胸にぐさっと刺さる月崎さんの言葉。
そうか、相手が牡丹だから、目の前でオーダーを聞いたからこそそれはやり過ぎだろうと思っただけだ。これがスペックスのプレイルームで、そしてお相手がお金を払って来て下さるアクトレスであれば、俺は全力で応えただろう。応えようと役に入り込んだだろう。
慣れ、慢心、甘え。そして忙しさにかまけて本業を疎かにしている現状。さらなる月崎さんの言葉が傷口を広げて行く。
「さて、その上で次は私とのプレイなんですが……、どうします? 無茶振りだと言って断りますか?」
月崎さんの丸眼鏡がキラリと光る。
俺はプロのプレイヤーだ。例え相手が舞台脚本家であっても、売られた喧嘩は買わないといけない……。
次週はまた引き続き、台本プレイ回を予定しております。
よろしくお願い致します。
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