ハーレムの朝
作詞作業が全く進まないまま嫁達のリクエストに応じてファッションショーを行い、その後スペックス最上階の自宅で疲れ切って眠ってしまった。朝起きるとリビングのソファーで横になっていた。
嫁達もそれぞれ泥のように眠っており、昨夜着させられた制服などが床に散らばっていた。
あれスペックスの備品なんだけど、大丈夫なんだろうか。
ちょっとハッスルし過ぎたな……。あれ? 紗雪がいない。
「おはようございます、旦那様」
キッチンの方から声を掛けられた。メイド服に身を包んだ紗雪。朝食の用意をしてくれていたようだ。
今日は元々午前中のみオフにしてある。ちょっと1人になってゆっくり詞を書いてみようかな。
「おはよう、紗雪。今日1人でアパートに戻って作詞の続きやるわ。ぼちぼち形にしないと殺魔さんに怒られそうだし」
「そうですか、でしたら朝食の後にお送り致しましょう。
ご心配なく、お邪魔は致しません」
紗雪も大学があるから、俺を送ってくれた後に学校へ向かうのだろう。
となると、送ってくれるのは紗雪ではなくさゆ、かな。
「入浴の準備が出来ておりますのでどうぞ。お望みでしたらお手伝い致しますが」
「いや、朝食の準備の邪魔はしたくない。1人で入るよ」
そんな残念そうな顔しなくてもいいだろ。
1人でゆっくりと湯船に浸かる。足を伸ばしても肩まで浸かれる広い浴槽。昨日の疲れを揉みほぐしていると、浴室の扉がノックされた。
「ゆう、私も入っていい?」
牡丹お姉ちゃんだった。どうぞと声を掛けると、髪の毛をアップにした牡丹お姉ちゃんが入って来た。
身体だけ洗うのね。返事する前から入る気満々じゃないか。
「何だ、もう洗っちゃったの? 残念」
世話好きなお姉ちゃんだこと。髪の毛が濡れないよう気を付けながら、シャワーで身体を流している。
「僕が洗ってあげようか?」
「ううん、ゆうに洗ってもらったら長くなりそうだから遠慮しとく」
あ、そうですか。それは残念。
「今日ゆうのアパートで作詞の続きやるんだって?」
「うん、1人でゆっくり考えてみる。ここだとどうしても集中出来ないし、それにたまにはアパートに帰っておかないとね」
地元からこっちに越して来た時に借りたアパート。スペックスビルに越して来た後も、解約せずに残してある。
さゆと2人の時間を楽しんだり、夏希と初めての時間を過ごしたりと、思い入れのある部屋だ。プレイヤー業で使い切れないほどの収入があるので、維持するのは何の負担でもない。
引っ越して来た当初、あの部屋に女性を呼ぶなんて考えてもみなかったのにな。
あ、叔母である冬美ちゃんは別として。
「ゆうがアパートに向かう前に言っておきたかったんだけどね」
牡丹お姉ちゃんがスポンジでボディーソープを泡立てながら話し出す。何か大事な話だろうか。お風呂場で済ませていい話なんだろうか……。
「昨日瑠璃ちゃんはああ言ってたけどね、制服が詰め襟かブレザーかなんて本当はどうでもいい話なの。
映画の宣伝って色んなテレビや雑誌でインタビューとかするじゃない? 当然この映画でもゆうがメディアに引っ張りだこになるだろうから、その折衝をしてたんだけど、なかなか上手く行かなくて」
なるほど、瑠璃の前では出来ないお話ね。
「折衝?」
「そう、私達としてはゆうがメディアに取り上げられて、露出が上がるのは嬉しい。
お断り屋の宣伝にもなるし、紗丹としての宣伝にもなる。
でも、出演する番組や雑誌の数が結構膨大な数になりそうだって分かってね。あの結城エミルの初主演映画だし、当然そうなるってのは分かるんだけど、あくまでゆうには本業はプレイヤーでいてほしいのよね。
自分で言ってて結構無茶な話してるなってのは分かってるんだけどね」
身体を洗いながら、牡丹お姉ちゃんはごめんねと謝って来た。
メディアに引っ張りだこにならないよう、瑠璃が事前に映画の製作委員会で露出を抑えるよう動いてくれていたって訳か。
俺のイメージとしては、全く関係のないような番組であっても出演をねじ込んで、自分達の映画をアピールしまくるって感じだな。引っ張られるのではなく、押し入って荒らして帰って行く感じ。
まぁ宣伝目的での出演の場合、出た番組からのギャラは発生しないって聞いた事があるからな。とにかく宣伝をしないと始まらないのだろう。
そもそも俺が映画に出る目的は、俳優として活動したいからではなく、あくまで高畑社長にリアル迷宮をマネージメントしてもらう為の交換条件。
映画に出演する事でプレイヤー業に支障が出てしまうのは本末転倒って事になってしまう。
「それに、ゆうも今でさえ結構いっぱいいっぱいだしね。瑠璃ちゃんがあんまり構ってもらえないって嘆いてたよ。
まぁ冷たくあしらわれてもそれはそれで喜ぶんだけどね」
確かに。そして瑠璃もすでに本末転倒しているというか、自己矛盾しているというか。
スペックス、ひいてはお断り屋が業界全体で盛り上がって行くと、必然的に俺のプライベートは削られて行き、俺と瑠璃が過ごす時間が減る。
それでも瑠璃にとってはどちらも大事だから、その折り合いを付けなければならないと思っているんだろう。どこで線引きをするか、難しい問題ではある。
牡丹お姉ちゃんは身体を洗い終え、湯船に入って来た。
「僕は逆の方が嬉しいんだけど」
牡丹お姉ちゃんは俺を後ろから抱き締めるように湯船に浸かる。お湯に浮くように牡丹お姉ちゃんの胸がたゆたっているのが背中越しに分かる。
「逆だとまた変なこと、するでしょ?」
もちろん。でもわざわざ牡丹お姉ちゃんの後ろに移動しなくても、変なことは出来ます。
身体をひねり、仰向けからうつ伏せの体勢に変える。何と言うことでしょう!? 目の前には牡丹お姉ちゃん特製、お湯に浮かぶ枕が!!
お湯の中で牡丹お姉ちゃんのお腹に抱き着き、胸を枕にして足を伸ばす。これぞまさに極楽。牡丹お姉ちゃんは嫌がらず、俺の頭を優しく撫でてくれる。
はぁぁぁ、もうずっとこのままこうしていたい……。
コンコンコンッ。
「旦那様、牡丹様、朝食のご用意が出来ました」
おっと、牡丹の胸の中でうつらうつらしてしまっていたようだ。牡丹の顔を見ると、とっても優しい表情を浮かべ、額にキスを落としてくれた。
「分かった、今上がる」
紗雪に返事をし、2人同時に湯船から出る。掛け湯をし、バスタオルでお互いに拭き合う。牡丹が背中を拭いてくれたので、代わって今度は俺が牡丹の背中を拭く。
「牡丹、ありがとうな。思いっ切りリラックス出来たよ」
「ふふっ、そうですか? それは何より」
紗雪が用意してくれた服に着替えてリビングへ戻る。
姫子はまだ起きそうにないので、ひめの部屋へお姫様抱っこで連れて行き、ベッドに寝かせる。そっと唇にキスをすると、ふわっと寝顔が綻んだ。出会った頃に比べて表情が豊かになったもんだ。
瑠璃はもうしばらくそっとしておこう。もちろん、はだけたタオルケットはしっかり掛け直してやる。
ダイニングで朝食を頂き、ぼちぼちアパートへ向かう事にした。紗雪はすでにメイド服から私服へと着替え、大学へ向かう準備が整ったようだ。
「じゃあ行こうか、お義兄ちゃん」
その声に反応してか、瑠璃がむくっと身体を起こす。
「おはよう、瑠璃」
瑠璃はぼーっと部屋を見回し、まだ自分がどんな格好をしているのかも分かっていない様子。
タオルケットを肩から掛けてやり、頭をポンポンと撫でてやると目を細める。
「おはようございます、アナタ……」
「うん、おはよう。作詞作業がなかなか進まないからアパートの方で続きをするわ。昼には戻るから」
「えっ……」
不安そうに俺を見上げる瑠璃。
いつも気を張っている社長然とした表情でも、正妻としてハーレムを回そうとするエロい表情でもない、恋人と離れたくないといったようなその表情を見て、思わず抱き締める。
「大丈夫、俺が帰って来るのはここだから。お互いちょっと仕事を詰め込み過ぎたな。
一段落したら、みんなでどこか旅行でも行きたいな」
俺の首筋に顔を擦り付ける瑠璃。まるで自分の匂いをマーキングする猫のような仕草。
「分かりました。アナタの妻はここで待っておりますので……」
「うん、行ってきます」
チュッと口付けをし、髪を撫でて瑠璃から離れる。相変わらず置いて行かれた猫みたいな顔を見せる。
いつもとのギャップで保護欲が掻き立てられるがグッと抑え、小さく手を振ってから玄関へ向かう。
「あんな雰囲気の後では2人だからってイチャイチャする気になれないよ」
エレベーターに乗り込むといつも抱き着いて来るさゆだが、あの瑠璃の表情を見せられてしまいそんな気分ではなくなったと唇を尖らせている。
そんなさゆの腰を抱き寄せて身体を密着させる。
「それはそれ、これはこれ」
さゆとキスを交わしながら、もし夏希がオフだったらアパートに呼ぼうかなと考えていた。
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