伊勢海老のエビフライ弁当(2つ目)
リクエスト回ではなく本編です。
ハイプレイヤー総選挙が始まってから出ずっぱりな為、ちょっと休憩させてくれとお願いしてオフィスのソファーでゆっくりと昼ご飯を食べている。
出来れば最上階の自室で横になりたかったけど、瑠璃がここで食べようとやたら誘って来るので仕方なくここに来た。
出された弁当は豪華で、伊勢海老のエビフライ弁当だった。まるで元々ここで食べる予定だったように前もって用意されていたのが少し気がかり。
だが今は何も考えず、ボーッとしながら美味い飯を口に運ぶ。
「お義兄ちゃんもさすがにお疲れみたいね」
「そうですね、そろそろお休みを挟まないと優希さんも参ってしまいそうね」
同じ弁当を食べつつ、紗雪と牡丹が俺を心配そうに見て来る。
一方瑠璃はオフィスにあるデカいテレビをじぃ~っと見つめている。流れている番組はいつか俺も出演した事のある『見てみや!』で、瑠璃はスマホを胸の前で握りしめながら食いつくように見つめている。
せっかくこんな豪華な弁当を用意してあるんだから、食べればいいのに。すんごい美味しかったから残さず綺麗にさらえてしまった。ちょっと物足りない。
「瑠璃、その弁当食べないのか? もし食べないんなら貰ってもいいか?」
「ええ、はい……」
瑠璃から生返事で答える。聞いてたんだろうか? まぁいいや、ちょっといやしい気もするけど、もう1つ頂こう。
蓋を開けて、真っ先にエビフライにかぶりつく。美味い、2匹目でも美味い。これこそ頑張ったご褒美というヤツだ。何も考えず、じっくりとお弁当の味だけを噛み締めて食事を楽しむ。
ここ最近は総選挙の関係でゆっくりと昼食を食べる事がなかったからな、今日くらいいいだろう。
ピリリリリ、「もしもしっ!!」
瑠璃のスマホが鳴り、すぐに電話に出た。ん? この電話を待ってるから胸に抱き締めて待機していたんだろうか。何やら会話をしている。ふむふむ、現在のスペックスの客入りに関して話しているようだ。
『そうですかそうですか、総選挙は順調な滑り出しである、と。どう思われますか夏川さん』
『そうですね、何事も初めての試みというのはやってみないと分からないものですが、やってみて順調だったというのは非常に喜ばしいですね』
「はい、ありがとうございます」
は? 瑠璃は誰と電話してる? テレビと喋ってる訳じゃないよな……?
『私も先日プライベートでスペックスへ行かせて頂きまして、ちょうど紗丹さんの名前が入っている状態のガシャを回す事が出来たのですが、残念ながら別のプレイヤーの名前が出て来て、非常に悔しい思いをしました。
でも、そのプレイヤーの方とのプレイもとっても素敵でして、誰が当たったとしても満足出来るスペックスのサービスは最高だと思います』
「はぁぁぁ!?」
『おや? 瑠璃さんのお近くにはどなたかいらっしゃるんですか?』
「ええ、ちょうど休憩中の紗丹がおります」
「えぇぇぇ!?」
『ずいぶん驚いておられる様子ですが、電話を代わって頂く事は出来ます?』
「はい分かりました。アナタ、宮屋さんです」
宮屋さんです、じゃないだろ!! おい、押し付けんな、分かった分かった、分かったから!!!
「はぁ……、代わりました、希瑠紗丹です」
『ど~も、宮屋ですぅ~、お久しぶりですね~』
「ええ、その節はどうもありがとうございました」
『ほんで、明日このスタジオ来てもらえますかぁ~?』
「ええっ!? そんな事聞いてなかったもんで、ちょっとスケジュールがどうなっているか確認しないと……」
さっきから瑠璃が俺の脇腹をぶすぶすと人差し指で突きながら、顎をしゃくって行け行けと合図して来る。何をしろってんだ!?
「お義兄ちゃん、明日は丸一日空けてあるよ」
紗雪が小声でそう伝えて来るが、やはりこれについても宮坂三姉妹の共謀らしい。俺を生放送のスタジオに放り込もうというつもりか。
何で毎回毎回俺に事前の相談なく勝手に決めてしまうのか。
普通に言ってくれたら……、まぁ当然嫌がるだろうけれども。
『紗丹さん、私です! 橋内です!!
あの生放送をキッカケにアクトレスデビューしたのですが、どうしても紗丹さんの予約が取れず、未だあの日の約束を果たしてもらっていないので、明日ぜひこのスタジオで公開生プレイをお願い致します!!!!!』
画面の向こうで橋内さんがピョンピョン飛んで跳ねてしながら話し掛けている。そんなにしなくても見えてますよ。
しかし公開生プレイって、放送コードギリギリな気がするのは俺の思い過ごしだろうか……。
とは言え、公開生プレイか……。ハイスペックスをオープンさせる際のスペックスとの差別化として、ハイスペックスではリアルタイムのプレイを観客へと公開するというのがサービスの目玉だ。
それがテレビで流されるか店舗内だけの公開に限定するかだけの問題であり、俺は近い将来公開生プレイをする訳だ。
これで逃げていては、この先もやって行けないんじゃないだろうか……。
『さぁ時間がちょっと押して来ましたのでね、もう分かりやすくお誘いさせてもらいますね。
ゴホンッ!!
え~、紗丹君。明日来てくれるかな?』
「お断りします!!」
『いやぁ~分かってらっしゃる! さすがお断り屋のプレイヤーやなぁ。ここはね~? 夏川さん』
『ええ、どうしても「いいともっ!」って言いたくなるところなんですが、やはり彼はプロですね。
自分が言うべき言葉をよくよく理解してプライドを持ってやっているんだぞっていうのがすごく伝わって来ました』
『はい、そういう訳で明日のこの時間はお断り屋、スペックスのプレイヤー希瑠紗丹君がスタジオに来られて生でお断りプレイをしてくれます、どうぞお楽しみにぃ~』
あ、CM入ったと同時に通話が切られた……。
「さぁ、そういう訳ですから明日はテレビ局へ行って頂きますので。橋内さんをお相手として生放送での公開プレイをしてもらいます。
放送の関係上5分未満でのプレイとなると思いますので、ちょっと難しいかも知れませんが」
「無茶振り過ぎるだろう! 5分なんかでそこまで持って行ける訳ないだろう!?」
「まぁまぁ、放送作家さんが台本作っておくって言っておられましたから、優希さんはそれを暗記してもらえれば……」
完全にヤラセじゃないか……。それでいいのかお断り屋。ニヤニヤしてないで紗雪も何とか言え! お前ら三姉妹はどうなってんだ!!
「あ、私のエビフライがない!! 楽しみにして残してたのに!!!」
あ、瑠璃さんごちそうさまでした。美味しかったです、ハイ。あ~、明日も頑張りましょう~。
誤字修正致しました。




