複数の企画を同時進行でやっつける
スペックスの受付カウンター。
ロビーのソファーに座り、先輩プレイヤーと情報交換中。話題は、後輩プレイヤーについて。
「まぁまぁやる気が出て来たみたいでさ、結構頑張ってプレイに集中するようになったんだよ。
ごめんな、最初から俺がちゃんと教えてやってれば良かったんだけど」
「そればっかりはタイミングじゃない? 青葉君も彼を誘ってから少しずつ忙しくなって来た訳だしね。
全く研修を受けてなくてもトッププレイヤーとして大活躍している例もあるんだし」
そう言って、ニヤニヤと俺の顔を見る信弥さん。そのニヤニヤだけは慣れない。何者なんだい? って聞かないだけマシかな……。
「先崎君がやる気になったんなら、他のプレイヤーも負けてられないなぁって雰囲気になるんじゃないかな。
何だかんだ言ってもプレイヤー同士仲良いから、上手い具合に相乗効果で店全体もいよいよハイプレイヤー総選挙だって空気になるでしょ」
瑠璃の口から、それぞれプレイヤー達にハイプレイヤー総選挙なるイベントを開催すると伝えられた。元々そういうイベントがあるから、と先日に先崎君達を旧トプステにて臨時研修を受けさせたんだし、噂レベルで大きなイベントがあるらしいと知っていたと思う。
男という生き物は、格付けやステータスが好きだ。あなたは全体の何位ですよ、と教えられて、それが上位であればあるほど喜ぶ。そして誇る。
実に分かりやすくやりがいを感じられる、そんなイベントになるだろう。
「信弥と紗丹は当然上位にランキングされるだろうな。2人のプレイにエキストラで参加してた時の事が懐かしいよ」
この3人の中で一番プレイヤー歴が長いのは青葉さんだ。だからといって先輩風を吹かせたり、物知り顔でアドバイスをして来たりという事をしない為、後輩プレイヤー達からの信頼が厚い。
加えて、最近人気が出て来て実入りもいいもんだから、後輩を引き連れて夜の街へと繰り出す事もあるとかないとか。通称青葉会というらしい。
「今では青葉さんがエキストラ引き連れてプレイしてるんですから、俺も上位に入るぜって胸張ってもらわないと」
青葉さんはポカルCM出演をキッカケにぐんぐんと指名が増えて行き、今ではエキストラで他のプレイヤーを盛り立てるなんて事はしなくなっている。先崎君達にも言ったけど、そのチャンスを活かしたのはあくまで青葉さんの実力だと思う。
いつチャンスが巡って来るか分からない。来たチャンスを掴み取り、活かせるように準備をしていたからこそ青葉さんは人気プレイヤーになったのだ。
「総選挙で選ばれた上位10人がハイスペックスへと出勤出来るようになるんだよな。さすがに10人には入る自信ないな」
「10人って本当に狭き門だね。売り上げ金額でもなくお相手を務めたお客様の人数でもなく、単純な得票数ってのが怖いところだよね」
信弥さんは気付いたようだ。総選挙とは名ばかりで、イベントの本質は推しプレイヤーへ投票したい女達による札束での殴り合いであるという事実に。
「人気がある奴は例え店に出てなくても票が入るんだもんな。本人とプレイしなくても投票は出来る。まぁだからこその事前対策として研修を受けさせた訳だが。
そのお蔭で先崎もやる気になったんだし、いい方向に転がってってるんじゃないか?」
「そうですね、そう思いたいです」
「おや? 紗丹が考えたイベントだろう? そんな自信なさ気に言わなくてもいいじゃないか」
はっきり言って不安でしかない。
いくら俺が出したアイディアだって言っても、ハイスペックスの開店準備とリアルダンジョンの準備に映画撮影の打ち合わせにと、正直上手く行っているのかどうかの把握がし切れていない。
今回のプレイヤーへの総選挙イベントの告知だって、本当にこのタイミングで良かったのかどうかも分からない。
ただ、総選挙を一番に終わらせないと俺自身身動きが取れなくなってしまうという恐れから、見切り発車したに過ぎない。
映画撮影がクランクインしてしまうと、瑠璃や牡丹がどれだけ日帰り撮影、長時間の撮影禁止と言ったとしても、走り出したモノは止められない訳で。
そして俳優なんて初めての経験である俺がセリフや演技で上手く行かず、その分クルーに迷惑を掛けて時間が延びるって可能性も大きいのだ。
「ハイプレイヤー総選挙を終わらせて、ハイスペックスを営業させる。でも、そこに必ずお義兄ちゃんがいる必要はないんだよ。
だって、俳優デビュー初主演映画の撮影をしてるんだもの。アクトレスはどう思うか分かる?
私の推しプレイヤーが! 主演映画の!! 撮影をしているのよ!!! 私が育てたっ!!!! ってなると思わない?」
紗雪はそう豪語していたが、はっきり言ってそれでいいのかどうか判断が付かない。
でも、限られた時間の中で3つも4つも大きな企画が進行しているのだから、同じ役員として経営者目線で考えているのであろう紗雪の提案に乗る事にした。
瑠璃からも牡丹からも異論は出なかったし、そうでもしないと同時進行なんて無理なのだ。
「映画の撮影? そんなの知らないわ、今すぐ紗丹君を連れて来て!!」
そんなアクトレスが殺到したら、素直に頭を下げて割引クーポンでも詫び石でも配ろう。それに、必ずしも俺がハイプレイヤーに選ばれると決まった訳ではない。
うん、そう思う事にしよう。
現状、各企画の優先順位としては次の通りだ。
1、ハイプレイヤー総選挙の準備・開催
2、ハイスペックスの開店準備・運営システムの決定
3、映画撮影の打ち合わせ・台本を読んで覚える・演技指導を受ける・その他衣装などの打ち合わせ
4、リアル迷宮の企画
総選挙は、始まってしまえば俺がいなくてもイベント自体は進んで行く。
ハイスペックスの開店準備に関しては、店内のレイアウトなどすでに詳細を詰めており、それを元に瑠璃が業者との打ち合わせなどをしてくれているので、俺が口を出す必要はない。
映画関係についてはクランクインが決まっていないので、打ち合わせに呼ばれれば行く程度だ。
リアルダンジョンは高畑社長がマネージメントを引き受けて下さったので、紗雪が花蓮さんとやり取りをして宮坂三姉妹と俺で方向性を詰めて行く。開催場所や提携して下さる会社などは賢一さんが動いてくれている。
これ以上強力な助っ人はいないと言っていい。
従って、今はとにかくハイプレイヤー総選挙の準備が一番大事で最優先。
よし、頭の中で整理をしてみると、何とかやって行けているのを実感する事が出来た。
「え、高畑社長……?」
少し安心して信弥さん、青葉さんと何気ない会話を楽しんでいる所へ、着信を告げるスマホ。ディスプレイには高畑社長であると表示されている。
もう嫌な予感しかない。
「もしもし、希瑠紗丹です」
『あ、出た出た。ナイスタイミングだねぇ、芸能界で生きる者はタイミングを上手く掴むのも大事なんだよ』
いや、俺は芸能界で生きて行くつもりはないんですが。そんな事より用件を話せ。
『12.5歩がね、曲が出来たから収録するぞってさ』
……、曲が出来た? 新曲出すの?
『君のデビュー曲だよ、ステージで約束しただろう?』
年明けライブのアレかぁ!?
相手を瞬殺出来る歩数を示し、いつでも殺れるぞという彼らからの警告の意味が込められたバンド名、『12.5歩』。
そのヴォーカルである殺魔さんにステージ上で耳打ちされた言葉。
「同じ高畑芸能事務所の後輩の為や、滅茶苦茶ええデビュー曲作ったるさかい期待して待っとけ」
無ぅ理ぃ!!
電書版お断り屋1話が各電子書店様にて公開されております。
1話の表紙は女社長、宮坂瑠璃が飾っております。
表紙だけでも、表紙だけでも見てみて下さい……。




