乗り気じゃないアクトレスとのプレイ、というプレイ
追記
診断メーカーにてお断り屋に登場するキャラが排出される『お断り屋ガシャ』を作成致しました。
( https://shindanmaker.com/807127 )
いいキャラが出たらツイートしてみて下さいませ。
「何かお飲み物、頼まれますか?」
「え~? 君の分までは払わないけどいい?」
「ええ、構いませんよ」
つれない態度の女に、男は微笑みつつ手を挙げる。オーダーを取りに来たウエイトレスに、女がアイスコーヒーを、男はお冷を頼んだ。
「へぇ~、お冷でいいの。確かに君の分は払わないって言ったけどさ、私が渋ちんだって他の人に思われるのは嫌なんだけど」
男の喫茶代を渋った自分を棚に上げ、配慮が足りないと責める女。
そんな女に対して、男は笑顔で返す。
「いえ、今の僕はお冷で十分なプレイヤーですから。周りのお客様達も、さほど気にされないでしょう。
ですがそう遠くない未来に、予約するのも困難になるような人気プレイヤーになってみせますよ」
ふぅ~ん、と気のない返事。すぐに運ばれて来たアイスコーヒーにガムシロップとミルクを入れてかき混ぜている。
そんな女の反応も気にせず、男は生き生きとした表情で語り続ける。
「最初はただのバイト感覚で始めたプレイヤー業ですが、今では楽しくって仕方ないんですよ。色々な役柄を演じられるし、アクトレスの喜ぶお顔も見る事が出来ます。何より、アクトレスのお求めになったシチュエーションで上手くお断り出来た時の達成感といったら、他に代えがたいものがあります。
日常生活でこのシチュエーションに近い何かがあったのだろう。アクトレスの苦悩や不満を感じ取って、その上でご希望に沿えるようお断りをする。こちらに足をお運び頂き、現実と折り合いを付けて、お帰り頂く。
僕とのプレイが折り合いを付けるきっかけになるんだと思うと、中途半端なご対応は出来ないなと、身が引き締まる思いです」
話し終えたタイミングで、グイッとお冷を煽る男。つられ、女もアイスコーヒーのストローに口を付ける。そして手を挙げ、女がウエイトレスを呼んだ。
「あなたも、アイスコーヒーでいい?」
「よろしいんですか?」
「恥かかせないで。じゃあアイスコーヒーを」
畏まりました、とウエイトレスが一礼して去って行く。
「私もね、最初はそうだったの。まぁ一般的に言う、実らない恋ってヤツね。
でも今は違うわ。純粋にプレイヤーとのやり取りを楽しんでるの。その時の恋とは折り合いが付けられたからかしらね。今や女優気分を楽しむ為に通ってる。
で、今日はお気に入りのプレイヤーへ投票する為にフリーマッチングで君と当たった訳だけど……、気が変わったわ。今日の投票権は君に使う事にする」
そう言い終わったタイミングで、男の分のアイスコーヒーが運ばれて来た。またも一礼し、去って行くウエイトレス。
男の目を見つめて、女が自分のアイスコーヒーを手に持って掲げる。
「君みたいなプレイヤーなら、さっきの言葉も本当になりそうね」
男も運ばれて来たアイスコーヒーを掲げ、女のそれとグラスを交わす。
チリンと、小気味良い音が響いた。
「そんな簡単に行く訳ないっしょ!?」
う~ん、まぁ俺もそう思うけどね。けど、ね。
旧トプステで行われている、対その気のないアクトレスとのプレイ研修。新人やあまり人気のないプレイヤーを数人集め、ハイプレイヤー総選挙の実施期間中に投票権を得る為だけにフリーマッチングに来るアクトレスを想定したプレイを実演した。
俺が新人プレイヤー役で、気のないアクトレスを紗雪を演じた訳だけども。
実際にその気のない人物を用意するという事が難しい事から、誰かがアクトレス役を演じる必要があったんだけど、紗雪はどうしてもプレイを否定する立場にはなり切れない訳で、結果的にこういう流れになるのは必然だと思う。
だってそうじゃないと「あ~、やっぱり無理だよね~」というただの確認になってしまうんだから。
とはいえ、今のプレイの感想が今の一言で片付けられるのは腑に落ちんな。
「え~っと、先崎君だっけ。君はこんな感じのアクトレスのお相手した事ある?」
「なくはないっス」
どっちだよ。はっきりしろよ。プレイヤーデータベースで確認した上でお前を呼んでんだよ、察しろよ。
「その時のシチュエーションとお互いの役柄を教えて。それでもう1回やって見せるから」
「え~、覚えてないっスよ。上手く行かなかった事は忘れる事にしてるんで」
意識低い系だなぁおい。誰だこいつスカウトしたヤツ。
ほら、ウエイトレスさんが睨んでるぞ。ツカツカとハイヒールを鳴らして先崎君に近付いて行く。
「先崎君、あなたは研修も真面目に受けてなかったでしょう。デビュー後のアクトレスからの評価はもちろん、受付カウンターからの評価も良くないわ。
エキストラプイレイヤーとして参加したプレイでも満足に演じ切れてないって、先輩プレイヤーからの苦情もあってここに呼んだの。自覚ないの?」
本域で怒っている様子の牡丹。プリプリする姿ってなかなか見ないけれど、これもこれで絵になってるなぁ。
瑠璃はスペックスのオフィスで片付けないといけない事務仕事を処理中。牡丹は私だけでも、と研修に参加してくれた。
「自覚っスか、あんまないっス」
ボリボリと頭を掻きながら答えるその表情は、不貞腐れているというよりも本当に分かっていない感じ。先崎君って空気読めないタイプなのかね。
相手が何を考えているとかを汲み取れない性格なのかも知れない。
「牡丹、先崎君は何で怒られてるかイマイチ分かってないみたいだ。何がダメなのか理解させるには、一から説明した方がいいかも知れん」
「え? 何で紗丹君は牡丹さんを呼び捨てにしてんの? 俺より年下でしょ?」
やっちまいやがった! みたいな表情のその他の新人プレイヤー達。俺が牡丹を呼び捨てにする理由をその人達は察しているけど、先崎君は察してない。
そういうところやで!!
「俺はスペックスの役員、あぁ~っと……、経営者の1人だからね。
それとまぁ宮坂三姉妹と個人的な繋がりがあるって事に留めといて。
で、先崎君は何がキッカケでプレイヤーになったの?」
その他新人プレイヤー達がヒソヒソしているが、今は気にしないでおこう。そのヒソヒソは大体合ってる。
「キッカケっスか、知り合いに割のいいバイトがあるって聞いたんで応募したっス。
超大物新人プレイヤーが入って、お客さんを捌き切れてないからって結構な人数を募集してたみたいなんで、俺でも受かるんじゃないかって」
超大物新人プレイヤーか、すごく心当たりがあるわ。
「知り合いって、先輩プレイヤーなの?」
「はい、ポカルのCMでギター掻き鳴らしてる人っス」
青葉さん、アンタですか。
こいつに青葉さんが関わってる以上、適正がないからハイさようならって事には出来ないな。何だかんだあの人とは仲良くさせてもらってるし。
どうしようか、青葉さんと信弥さんを巻き込んで、先崎君改造計画でもするか。
いや、今は総選挙へ向けての研修中だ、今は他の新人を交えて一から教えた方がいいだろう。
それでもダメならまた考えるとしよう。
「青葉さんも俺が入った頃はエキストラプイレイヤーとしてプレイに参加してる事が多かったけど、今では指名されてアクトレスのお相手をする方が多いからね。
もちろんCMで顔が売れたってキッカケはあったんだけど、そのキッカケをモノにしたのは青葉さんのプレイヤースキルがあってこそだから。
そのキッカケがいつ来るか分からないけど、少なくともハイプレイヤー総選挙の際はエキストラではなくメインプレイヤーとしてアクトレスのお相手をする機会が増えると思うんだ。
顔を売れるタイミングなんだから、今のうちにプレイヤーとは何なのか、どうしたらアクトレスのお相手が務まるのか、その辺を重点的に考え直そうか」
その他新人プレイヤー達は割といい返事を返す中、はぁ~い、と気があるのかないのか分からない返事をする先崎君。
手を掛けた分だけ答えてくれるなら教え甲斐もあるんだけど、どうなる事やら。
大学生だから学業が本分ってのは当然だけど、仕事に対するモチベーションくらいは見せてほしいもんだ。
「ほどほどにしないと自分の仕事増やすだけよ」
紗雪はそう耳打ちするが、本質的には悪い奴じゃないと思うんだよな~。ただ自分がどうすればアクトレスを喜ばせる事が出来るのか分かってないというか。
顔も背格好もいい方だし、プレイヤースキルさえ育てば人気出そうな気がするんだよなぁ~。
人に仕事を教えるって難しいわ。
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