ハイプレイヤー選抜総選挙
総選挙!
「ハイスペックス、ほう……」
賢一さんが顎に手を当て俺の発言の先を促す。一番無難かつ収益が大きいであろうプランだ。
「現在人気の高いプレイヤーの予約が非常に取り辛く、常連客である高ランクアクトレスであってもお目当てのプレイヤーの予約は運が良くなければ取れない状況です。
そこで、高ランクプレイヤーを旧トプステへと移籍させ、招待状を受けたアクトレスしか指名出来ない状況を作ります。
これを題して、ハイスペックス……、スペックスの高級別館扱いとします」
賢一さんが大きく頷く。しかし、お隣に座っておられる花江さんの表情は険しい。
「優希君、高ランクプレイヤーの定義はどうするのかしら……?」
想定していたランクはAのみだ。この際Sランクを作ってもいいかな、と個人的には思っているが、そもそもランク制度はスペックスのみならず全てのお断り屋での共通制度の為、根回しが必要なので今回の会議では提案を見送る事にする。
「あくまでランクはAのみに搾ります」
「ダメよっ!」
ダンッ! とローテーブルを叩いて花江さんが俺を非難するかのように叫ぶ。突然どうされました……?
「優希君、あなたのランクは何になったかしら?」
俺のランク? 俺のランクはCから変動していない。俺は詳しく把握していないが、恐らくプレイヤー登録からの日数規定があるのではないかと思っている。
「僕のランクはCですが……」
はぁ……、とため息をつき、そして再び口を開く花江さん。
「紗雪、スペックス所属プレイヤー全体で今現在一番予約を取りにくいとされている人物は誰?」
「希瑠紗丹ね」
「牡丹、スペックスで一番収益を上げているプレイヤーは誰かしら?」
「紗丹君ですね」
「瑠璃、紗丹君の予約を勝ち取っているアクトレスの平均ランクは?」
「紗た……、ほぼAランクアクトレスですね」
「という事だそうだけど、優希君はこの事実をどう思うかしら?」
ここで俺に回答の順番が戻って来た。
この事実、宮坂三姉妹の答えた内容から考えるに、現在スペックスで一番人気があり、予約が困難で、そして誰よりも収益を上げているプレイヤーは……、俺だ。
そして、常連客優先の高級別館であるハイスペックスをオープンするにしても、その店に俺がいない、なんて状況をお客様であるアクトレス達がどう思うのか……。
「ね、だから言ったでしょ? お義理ちゃんがいないハイスペックスなんて有り得ないんだよ」
確かに三姉妹からそのような事は言われたが、しかし事実俺はCランクプレイヤーであり、人気があると言ってもアクトレスに対して公表出来るデータがないのだ。
人気があるプレイヤーだから、といってハイスペックスへ移籍する事は可能であるが、その根拠を問われると答えようがないし、自分が贔屓にしているプレイヤーが何故ハイスペックスにいないのかというクレームも出て来る可能性がある。
収益金額を公表するのは下策だろうし、予約数は完全に出勤日数に依存する。それでは公正な根拠を示す事が出来ない。
「人気投票……」
ポツリと夏希が呟きを漏らす。人気投票?
「人気投票すればいいんじゃない? アクトレスがスペックスでプレイするたびに投票権を与えて、自分の推すプレイヤーに投票してもらうのよ。
そして選抜された上位プレイヤーがハイスペックスに移籍するようにすればいいんじゃないかな?」
「夏希ちゃん天才なんじゃない!? プレイするたびに投票権を得る、ってのが非常にビジネスの匂いがするわ!!」
瑠璃が食いついた。
「なるほど……、それも目当てのプレイヤーとプレイする事が投票となる、っていうルールではなく、あくまで投票権を得るというのがポイントですね。
フリーマッチングするたびに投票権を得られるし、もしかしたらそのフリーマッチングで出会ったプレイヤーが新たなお気に入りプレイヤーになる可能性まである。
ホント、なっちゃん天才ね……」
牡丹も夏希の提案を評価しているようだ。芸能界という人気第一の世界に身を置いている夏希だからこそお断り屋に持ち込める概念、いやシステムなのかも知れない。
そしてこのシステムであれば余計なゴミは出ない。
「でもAランクアクトレスしか通えないのに、わざわざBランク以下のアクトレスが自分の推しプレイヤーに投票するの?
もし選抜されてしまったら、自分は予約すら出来なくなるかも知れないのに」
おっと、姫子に言われないと見落としていたかも知れない。なかなか冷静な意見だ。
「そうだな、投票システム自体はとても素晴らしいプランだと思う。しかし、ひめちゃんが言うようにAランク以下のアクトレスの感情がどこに向かうのか、しっかりと想定する必要がありそうだな」
賢一さんもひめの懸念を肯定し、もっとプランを練る必要があると判断された。
「でも投票システム自体はすごく魅力的よ。お祭りみたいで楽しいし、自分が投票したプレイヤーが選抜という名の階段を登ってステージを上がる姿は、アクトレスとしては是非見たい光景だわ」
う~ん、花江さんはそう仰るが、やはりAランク以下のアクトレスの方が断然人数が多い訳だし、ちょっとこれはすんなりと行かないような気がするな。
「移籍ではなくて、ハイスペックスに出勤出来る、程度に留めるのがいいかもしれないわね。選抜される人数にもよるけれど、決まった曜日にこのプレイヤーがハイスペックスに出勤する、とあらかじめ決めておくとか、そもそもプレイという枠組みを外して違うイベントを開催するとか」
「瑠璃ちゃん、違うイベントって?」
牡丹の問い掛けに対し、瑠璃が頬に手を当てながら考える。
「そうね~、公開プレイをして……。
そうよっ! ハイスペックスはプレイヤーもアクトレスも共に高ランクもしくは経験が豊富なはずだから、ライブでプレイする事も出来るはずよ!
で、プレイ出来るのはあくまでAランクのアクトレスだけど、Aランク未満のアクトレスはそのライブを眺める観客になるの。そうすれば、私もいつか選抜プレイヤーとあのステージでプレイするのよっ!! という事で常連客になって下さるだろうし、何よりAランクアクトレスは羨望の眼差しを集める事でカタルシスを得る事になるわ!!」
何だかどんどん構想が広がって行く。そして、広がるたびにお金の匂いがぷんぷんとして来る。
パンパンッ、と手を叩いて賢一さんが場を静める。
「よし、その方向でもっとプランを練るんだ。そして旧トプステの内装を変える必要があるのかまで考えて事業計画案を立てるように。
優希、お前は自分の意見だけでなくアクトレス目線、そして経営者としての意見も合わせて俯瞰で考えるように。お前の周りには相談相手が一杯いるようだ。
俺としては、羨ましい限りだよ」
はぁ、ありがとうございます。でもこの意見を纏め上げるのは、非常に骨が折れそうです……。
「この投票システムを、ハイプレイヤー選抜総選挙と名付けましょう!」
紗雪が勢い良く立ち上がり、そう叫んだ。
こうしてアクトレス達が札束で殴り合う、魔のシステムが産声を上げたのだった……。
誤字修正致しました。




