舞台女優のお稽古に付き合う
自室で経営や人とのコミュニケーションの取り方、色々な職業の業務内容について書かれた様々な書籍を乱読していた。
少しの知識があれば、困った事が起きた際に誰にどのような手順を踏んで相談・依頼すればいいのかを知る事が出来る。そう教わった為に、気が向くまま本屋で気になった本を手に取っては購入するようにしている。
さすがに疲れた。買ってはテーブルに積み置き、気付けば美少女メイドが本棚に分類して片付けてくれるので、どれを読んでどれを読んでないか自分でもハッキリ把握出来ていない。
根を詰め過ぎても意味がないので、気分転換がてらにコーヒーでも淹れよう。
リビングへと入ると、台本を持った姫子と牡丹がソファーに座っていた。
「また舞台があるのか?」
「ううん、演技の幅を広めなさいって渡されたから、牡丹さんに付き合ってもらってるの」
牡丹はひめにしても夏希にしても、可愛い妹が増えたと喜んでいるので、本読みに限らず一緒に買い物に出掛けたり、映画を見に行ったりと仲良くしている。
ひめは先日の買い物の際に牡丹が選んでひめにプレゼントしたという、ワインレッドのベロア地で膝丈のワンピースを着ている。ワンピースの下はひらひらがいっぱい付いている白いブラウス。ピアノの発表会に出る小学生のような格好だ。おっと、これは決して口にしてはならない。
一方牡丹は黒い光沢のあるドレスシャツに白のロングフレアスカート。胸元に光るプラチナのネックレスが胸のボリュームを強調している。ぱっと見ればピアノの発表会に付いて来たおかあ……、睨まれた。怖ぇ~!!
「優希さんは何をしに来たんですか?」
とても棘がある言い方ですね。
「ちょっとコーヒーが飲みたくなってな」
それじゃあ私が淹れますね、と牡丹が持っていた台本を俺に手渡す。タイトルは特にないようだ。
「よし、じゃあコーヒーが入るまで俺が付き合うよ」
そう言ってからひめの隣に座り台本にざっと目を通すと、男と女のやり取りが複数パターン書かれていた。ちょうどいいな。
「お願い。今7ページ目なの。私からセリフ言っていい?」
頷いて7ページを開く。おっとコレは……。
「ねぇ、あの女のどこがいいの? 私の方がカワイイでしょ?」
寝取り系ですか? 普段のひめとのギャップで、一瞬フリーズし掛けたが何とか自分のセリフを口にする事が出来た。
「だってあいつの方がおっぱいデカいじゃん」
クズ! 圧倒的クズ!! 練習用であれもっといい展開書けよ。でも何か口にした事があるような気がする……。
「おっぱいは大きさじゃないんだよ。私の方が若いし、吸い付くような肌触りだよ?」
ほら、触ってみ? とひめが慎ましい胸を張ってアピールする。
「でもあいつ金持ってるしさ、言ったら何でも買ってくれんだよ」
やっぱりクズだ。寝取りっ娘の胸を見ながら他の女の話をするクズ。
「じゃああの女を財布にしてさ、私達2人で楽しめばいいじゃん」
男もクズなら女もクズか。いや、寝取りっ娘は何とかクズを振り向かせようと必死なのかも知れない。
「でもなぁ~、あいつのおっぱい最高なんだよな~」
牡丹がコーヒーを淹れ終わり、こちらへ持って歩いて来る。ひめ、ちょっと中断しないか?
「はいどうぞ。ひめちゃんもここに置いておくわね。
男と女やり取りですし、そのまま優希さんが付き合ってあげてくれますか? 私はこっちに座って見学させてもらいますから」
そう言って牡丹が対面のソファーへ腰掛ける。自分にも淹れたコーヒーを口に含み、こちらを見つめている。
礼を言って俺もコーヒーに口を付け、どうしようかと迷う。
偶然とはいえ、台本の本命彼女像が非常に牡丹に似ている。そしてセリフは別として、寝取りっ娘像もひめに近い。
このまま続けるのは気まずいんだけど……。
「最高なのはおっぱいだけでしょ? 若いから私の方が締まりはいいと思うけど」
続けるの!? ひめってば絶対分かった上で続けるつもりだよなぁ!!?
ここで止める方が不自然だ。あくまでひめが言ったのは台本に書かれたセリフであり、そういった類いのプレイではない。
よし、俺も続けよう。
「でもちょっと甘えれば何でもしてくれるし、冷たくしたら捨てられた子犬みたいな顔でさらに尽くそうとするしさ、たまんねぇよな~」
どんなお芝居だよ、これ絶対クズが殺された後の回想シーンだろ!?
おっと牡丹さんの目つきが変わったぞ、ちょっと鋭くなったぞ!? 大丈夫か……?
「そこまでしないと愛情が受けられないっていうのも可哀想だと思うけど。
フッフ~ン、それに比べてボクってカワイイじゃないですか~。一緒にいたら絶対に癒されると思うよ?」
続けるんだ~。うわ、牡丹が腕組みした。背中をソファーにもたれさせて脚まで組んだ。
「う~ん、でもあいついい女なんだよ。料理も上手いし綺麗だし。年上の魅力がムンムンしているしな」
にへらと牡丹の表情が和らぐ。チョロい。
ちなみに今のは俺のアドリブだ。本当のセリフはとても読み上げられない。この作家最低だな。
俺のアドリブを受けて、ひめが台本通りにセリフを言えなくなってしまった。さぁどうするひめよ。あ、これはこれで楽しいな。
「つ、つべこべ言わず抱いてよ! めちゃくちゃにしてよ!!」
お前がめちゃくちゃだよ! 突然パニクり過ぎだろ。牡丹が目を丸くして驚いている。
「だから俺には愛する彼女がいて……!?」
アドリブに対応出来ずに混乱してか、ひめが台本を放り投げて俺の膝の上に跨って来た。
「私だって尽くすんだからっ!」
「ちょっと人の彼氏に何する気!?」
あんたが何をする気か聞きたいよ!?
牡丹は俺とひめの間に身体を割り込ませて、大きくて魅力的な胸で俺の顔を埋めさせる。
まぁあれか、『弟』設定ではないから遊びに付き合うみたいな感覚かな。
「ちょっと何するのよ、優希は私と付き合うの!」
「優希さんは私とお付き合いしているのよ。ほら見て、このネックレス。
優希さんがプレゼントしてくれたのよ? とっても素敵でしょう?」
本当に俺がプレゼントしたネックレスだ。
「私達は婚約しているの、あなたでは私達の仲を切り裂く事なんで出来ないのよ。諦めなさい」
「え……!? うぐっ、う~、うううえへぇ~ん!!」
突如ひめが泣き出す。泣きながら俺の胸をポカポカと叩き、声にならない声を上げる。目からはポロポロと涙が零れている。
その姿を見て、ひめがこのエチュードにすっかり入り込んでいた事を知った。
ひめを優しく包み込むように抱きしめ、背中を優しくポンポンする。
「ひめ、役にのめり込んでたな。すごいな、やっぱり女優さんだな」
「そうね、私もびっくりしたわ」
グズグズと鼻を鳴らしていたひめが、少し落ち着きを取り戻す。俺と牡丹を交互に見つめ、すーっと深呼吸をする。
「ふぅ~……。
ごめんなさい。お芝居なのに……」
「いや、すごいぞ。この台本は正直どうかと思うけどさ、演技の幅が広がったのは確かだ。ひめのあんな姿見た事ないもん」
「台本は酷いけど、ひめちゃんの演技はすごかったわ。本当の自分を忘れるくらい演技に入り込んでいたって事ね」
ハンカチで涙を拭い、少し冷めたコーヒーに口を付けて、ひめがやっとクーリングタイムを終えたと思われたが……。
俺の服をくいくいっと引っ張り、ひめが無言のまま俺を上目使いで見つめる。
「ん? どうしたんだ?」
「優希さん、察してあげて下さいな。パニックになっていたとはいえめちゃくちゃに抱いてくれって叫んじゃったから、ねっ?」
う~! と顔を真っ赤にして俯くひめ。でも俺の服からは手を離さない。
「さぁさ、行きましょうか。もちろん私だけ仲間外れなんて、しないわよね?」
コクコクとひめが牡丹に頷く。いいから早くして、そう訴えるかのような目つき。
「ほら、優希さん。ひめちゃん抱っこしてあげて。自分では歩けないみたいだから」
そのままひめをお姫様抱っこで自室へと連れて行き、3人でプレイの続きを楽しんだ。
いつもありがとうございます。
『すぺしゃるえくすぴありえんすな日常:「お断り屋」ピンクサイド』というタイトルで別サイトでの投稿を始めました。
本日この回と同じタイミングで第3話を投稿しておりますので、18歳以上の方のみ覗いてみて下さいませ。
誤字修正致しました。




