年明けライブ!!
年明けとい言いつつ時期がずれてしまいました……。
「「「「「希瑠紗丹! 希瑠紗丹! キルサタン!」」」」」
一部のオーディエンスから発せられた希瑠紗丹コールが会場全体へと波及したのを見て、あぁ、最初から仕組まれていたのかと気付いた。
ここからは見えないが、恐らくどこかに宮坂三姉妹がいるはずだ。そして、会場にいるかどうかは別にしても、高畑社長も噛んでいるんだろう。
今そんな事を思っても仕方ない、俺はすでにステージに立たされてしまった。
『コラ希瑠紗丹! 結城エミルちゅわんとの関係を言ってみぃやボケェ!!』
「「「「「ぐるぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!!!!」」」」」
こんな雰囲気で、何を答えようにも会場の熱気が俺を許してくれるような気が一切しないんだが。
『え~っと、結城エミルは僕の幼馴染でして……』
マイクを向けられているので、俺には質問に答える以外の選択肢がない。
『幼馴染ぃ!? お前もしかしてエミルちゅわんと一緒にお風呂入った事あるとか言わへんよなぁ!!?』
『あります』
「「「「「ぐるぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!!!!」」」」」
どないせぇっちゅうねん。
『お前ら落ち着け! よぉし分かった、お前がエミルちゅわんに相応しい男かどうか、俺らが判断したるわ』
会場にいる、約2万人いるらしい観客達が手を叩く。まるで俺に対して圧力を掛けるかのような会場からのクラップ。これでは公開処刑だ。
『何でもええ、ここで歌ってみろ。歌声聞いたら、お前がどんな人間か俺らには分かる。
のぉお前ら!!』
「「「「「うおぉぉぉ~~~~~!!!!!」」」」」
ホンマかいな。
『よし紗丹、何でもええから歌とうてみぃ。その歌声によっては俺らも後から演奏でついてったるさかい』
とりあえず俺が歌い始めて、後からバンドによる演奏が付いて来るってイメージでいいんだろうか。ヴォーカルに頷いてみせて、咳払いをする。
『おいおいおい、こいつやる気やど! このオーディエンスを前にして歌う気やどこいつ!!』
「「「「「うおぉぉぉ~~~~~!!!!!」」」」」
用意されたスタンドマイクを前にして、首を回しつつ夏希の方を見る。
こちらを見ながら手を振っている姿を確認し、覚悟を決める。
『いつでもええぞ~』
ヴォーカルからゴーが出た。よし、いっちょやったるか。
騒がしいオーディエンスを見やり、右足で2回ステージを踏み鳴らす。
ドンドン!
すかさず両手を頭の上で叩く。
チャ!
繰り返す。
ドンドンチャ! ドンドンチャ!
『Bo……』
『ストーップ! ストップストップ!! お前何歌おうとしとんねんボケェ!!!』
頭を叩かれる。はぁ、ツッコミが入って助かった……。
このまま歌い続けないといけない可能性もあったので、ボケだと分かってもらえて良かった。
『お前なぁ、普通この場で歌え言われたら俺らの歌を歌うやろうが!』
『いや、何でもええ言わはりましたやん』
『俺らの歌や!! 分かるやろ普通!
まぁええわ、おもろかったし。よし、次はホンマに歌えよ』
その言葉に頷き、さて何を歌おうかと考える。このバンドの歌は全部好きだし、ノリのいい曲にしようかな。
『お前を愛す アイスみたいに溶かす とか言って抱き締めて せめてお前と一体と化す』
歌い出すとほぼ同時に演奏が始まる。
ヤバい、全身に寒気が走って胸は締め付けられそうなほどの感覚。
ギターが、ベースが、ドラムが、オーディエンスのクラップが、俺の心を搔き乱す。
俺がこのバンドをバックに、こんな大きなステージで歌っているという事実。
快感、そんな言葉では言い表せないほどの衝動と熱量。いつかの青葉さんのように、飛んで歌って跳ねて、シャウトする。
『老いて行く この世界の全てを 置いて行く 全てこの世界を 俺とお前 もう誰も止められない』
『Woah! Woah!!』
本域のコーラス、何て贅沢な……。オーディエンスがタオルを振り回し、素人である俺の歌声にメイクサムノイズしてくれている。
俺はこの夜を、ステージから見るこの光景を、一生忘れる事はないだろう……。
『お前なかなかやるやんけ! 流石あの社長がプッシュするだけあるな!!』
あの社長がプッシュ? 一体何の話だ。
『よっしゃ分かった! お前に曲作ったるわ!!』
「「「「「うおぉぉぉ~~~~~!!!!!」」」」」
え、待って!? ホンマに何の話やねん!!? 俺何も聞いてへんぞ!!
「「「「「希瑠紗丹!!! キルサタン!!! Kill Satan!!!」」」」」
会場全体が足を踏み鳴らし、俺の名前を叫ぶ。止めて~~~!!!
ヴォーカルの殺魔さんがマイクを通さず、俺に耳打ちする。
「同じ高畑芸能事務所の後輩の為や、滅茶苦茶ええデビュー曲作ったるさかい期待して待っとけ」
はぁ!? あんたらいつの間に事務所移籍したんスか!!?
『サンキュー希瑠紗丹! サンキューエミルちゅわん!! サンキュー for All !!!』
「「「「「うおぉぉぉ~~~~~!!!!!」」」」」
クソボケあのオッサン!! 覚えとけよ!!!!
あぁぁぁ!!! イライラして来た、俺の出番はもう終わりって感じの雰囲気やけど、もうどうにでもなれ!!!
『エミルぅぅぅ! 上がって来んか~~~い!!!』
「「「「「うおぉぉぉ~~~~~!!!!!」」」」」
夏希も巻き込んでまえ、あいつも道ずれや!
スタッフに連れられて、ステージに立たされる夏希。さすがにこの展開は予想出来ていなかったようで、めっちゃキョロキョロしている。
『ええ機会や、お前も歌わせてもらえ』
『いやいやいやいや、うち歌えへんって!』
『お前らぁ! エミルちゅわんの歌声聞きたいかぁ!!?』
殺魔さんのコールにクラップでレスポンスするオーディエンス。
「「「「「エミル! エミル! エミル! エミル!」」」」」
殺魔さんに歩み寄り夏希の持ち歌を教えると、バンドによりイントロが演奏される。
『え!? ええっ!? マジでうちが歌うん!!?』
びっくりした表情の中に、少しだけ嬉しいという感情が読み取れる夏希の顔。歌いたいんやったら歌えばええやん。
『外の雨音を目覚ましに アナタの瞼がそろりと開く 目と目が合った瞬間 ニコリとほほ笑み二度寝する』
あ、しまった、これデュエット曲やった! 殺魔さんが俺を見て頷く。何か自分で自分の首を絞めた気がするが、これもノリや。いてまえ!!
『あとで起こして~ もう少しあとで起こして~ 味噌汁の匂いで起こして~』
歌いながら思い出す。今日はライブDVDの撮影日!!? しまった、忘れてた……。
ニヤニヤしている高畑社長の顔を思い浮かべ、その怒りをマイクにぶつけてシャウトしまくり、次の日は全く声が出ないまま過ごしたのだった。
活動報告にてクリスマスSSに関するアンケートの結果を発表しております。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1008214/blogkey/1942946/
お断り屋本編で歌っているシーンの歌詞を全て差し替えております。
ダサいのは作者の力不足です。
今後ともよろしくお願い致します。




