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友達の彼女の告白を断ったら、お断り屋にスカウトされました!  作者: なつのさんち


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舞台女優とお疲れ様デート

 先日貰った裏営業の報酬の使い道を考えている。

 こういったお金はパッと使うに限る。銀行に全額入金するわけにもいかないしな。誰かにいらぬ詮索をされても困るし。


 という事で、このタイミングで姫子ひめをデートに誘う事にした。

 いつも嫁達とデートに行く時は向こうが勝手にプランを立てて俺を連れ回す形が多いので、今回初めて自分でプランを立てる。


 ひめは何をしたら喜ぶか、どんな事をしたいと思っているんだろうか。

 そんな事を考えていると、付き合いたてのカップルのようなウキウキとした気分になって来た。

 この気持ちのまま、ひめの部屋をノックする。


「どうぞ」


 部屋の中からのひめの返事を得て、ドアを開ける。

 床にチョコンとお姉さん座りして、何やら本を読んでいる様子のひめ。


「ちょっといいか?」


「うん、入って」


 読んでいるのはどうやら台本らしい。

 表紙に『そんな裏設定知らないよ!? ~悪役令嬢を育て直して正統派ヒロインにしてみせる!!~』と印字されている。

 どんな裏設定があるんだよ、めっちゃ気になるじゃんか。


「それ、ひめが出る舞台の台本なのか?」


「うん、もうすぐ公演なの」


 舞台の世界までも転生や異世界のブームが来ているらしい。


「そうか、ひめはどんな役なんだ?」


「転生した主人公の家に勤めるメイドの役。途中で正体がどらg」


「ストップ! その舞台、見に行くからネタバレ禁止で」


 ひめの活躍をこの目で見たい。


「来てくれるの?」


「ああ、行くよ。で、舞台公演が終わった次の日あたりに2人きりでデートしよう」


 パァ~、とひめの顔が笑顔になる。

 基本的に無表情でいるひめの、その笑顔を見るとキュンとしてしまう。

 思わず抱き締めてしまった。


「だから頑張ってな。応援しているから」


「うん」



 そんなやり取りから数日後。

 どうやらひめは俺以外に舞台に出演する事を言っていないようだ。


「ひめちゃん、最近スペックスへの出勤日数が減ってるけど、本業が忙しいの?」


 紗雪さゆきの問い掛けに対し、コクリと頷くだけで返事をするひめ。


「そう、女優として色々とお稽古しないとダメなのね」


 紗雪は1人で自己完結している。

 実は今日から舞台公演が始まるなど、俺以外は誰も知らない。



「はい、旦那様。私はこの目で見ておりました。流水の如く美しい流れで魔力を下半身へと循環させ、身体強化魔法フィジカルブーストを掛けて走り出されました。

 そもそも身体強化魔法を使わなければ、2歳のリュー坊ちゃまが4歳のベル坊ちゃまに追いつけるような距離ではありませんでした」


 舞台上に立つ、金髪のカツラを被ったメイド服姿のひめ。

 良く通る声で長文をスラスラと話し、身振り手振りを使って主人公の両親へと状況を説明している。

 すげぇ、立派に女優しているじゃないか! 思わず拍手してしまいそうになる。

 この日は舞台の楽日らくび。数日に渡る公演の最後を飾るこの日、ひめの演技にも磨きが掛かっているかのように見えた。


 主人公が修行で良い成果を出せば褒めて抱き締めて、ダメだったら頭を撫でて励まして抱き締めて。

 何あのお姉さん!? どこで出会えるんですか!!? って感じだった。

 畜生、主演代わりやがれ!!



 舞台終わり当日は役者さん同士で打ち上げもあるだろうと思い、デートの約束はその次の日としていた。

 俺もその日は丸々オフに指定しており、朝からひめと2人で出掛ける。

 ただ、2人で揃ってスペックスビルを出ると誰がついて来るか分かったもんではないので、ひめに先にささっと出てもらい、しばらくしてから俺が出て、指定した場所で待ち合わせをする事になっている。


「ごめん、お待たせ。三姉妹を振り切るのに時間が掛かった」


「大丈夫、ボクも今来たとこ」


 いやいや、俺よりも30分前に出たんだから30分くらいは待ってるはずだろう、というツッコミはなしだ。

 ひめは白地のフリル付きブラウスに花柄膝丈のスカート、白いニーソックスという装い。

 ひめは小柄だが脚が長くすらっとしているので、とても似合っている。


「どこか行きたいところあるか?」


 そう問い掛けて、ひめの手を取る。手を繋ぎ、歩き始める。


「どこでもいい」


 そうですか、では行きましょうか。


 目的地に向けて移動中、お芝居の話で盛り上がる。


「前世でやってたゲームの世界に転生するって発想がすごいよな、最初に思い付いた人天才だろ」


「そうだね、ボクはそういう小説を読まないからびっくりしたよ」


 瑠璃るりなんかはそういった話は大好物だろうけど、ひめは舞台の仕事が来るまでそっち方面の知識がなかったそうな。


 そう言えば、ひめの一人称はボクでいいんだろうか。

 聞くのは無粋なような気がするが、とっても気になるので聞いてみる。


「ひめはさ、俺に近付く為の役作りでボクって言ってたのか? 時々私って言って慌てて言い直したりしてたけど」


「あれはその時やってた舞台の一人称がボクだったから、色々と混ざっちゃってて。

 本当は自分の事は私って言うんけど、お芝居と普段とがこんがらがってどうしてもそうなっちゃうんだ」


 そうなっちゃうらしい。


「じゃあもう私で良くないか? 変に作る必要はないだろ。ひめには自然体でいてほしいしな」


 と、着いた着いた。

 最近の映画館はネットで予約が入れられて、着いたら発券機でチケットを発行するだけでいいから楽だよな。

 今日は年相応の、自然な感じのデートにしたかったので映画館を選んだ。

 それもありきたりな恋愛物。


「初デートと言えば映画だろうと思ってな、評判良いみたいだからこれにしたんだ」


 ちなみに夏希なつきが出ていないのは確認済だ。


「誰かとデートするなんて、初めて……」


 俺もこんな感じの初々しいデートは初めてだな、クルージングだの高級ホテルでディナーだの遊園地をファストパス無双だの、初々しいとは言えないし。


 定番のポップコーン(塩バターとキャラメルのハーフ&ハーフ)を購入。

 俺はアイスコーヒー、ひめはアイスラテを頼みスクリーンがちょうど見やすい位置にあるカップルシートへと向かう。

 映画館で映画を見る時、割と空調のせいで寒い思いをする事があるのでひざ掛けを2枚借りておいた。


「こんな席あるんだね、知らなかったよ」


 そうだろうそうだろう、ネットで見てこれだ! と思ったんだ。

 ひめがシートの左側に座ろうとしたのをやんわりと止め、俺は真ん中にどかりと腰を下ろす。


「優希……?」


 膝をポンポンと叩き、ひめを定位置へとお誘いする。

 少し戸惑うように周囲を見回していたひめだが、すぐに俺の膝へと乗って来た。

 周囲には、具体的に言うと横一列、前後一列ずつ、計三列には俺とひめを除いて誰も座っていない。

 さて、それは何故か。

 ずばり、俺がネットで三列全て予約して押えておいたからである!

 道子みちこさんご夫妻からの裏営業の報酬をパァ~っと使わせて頂いた。それでもまだまだ残っているが。

 どこか成金みたいなやり方で少し躊躇ったものの、ひめとの2人の空間を演出する為ならば出し惜しみするべきではないだろうと思い切ってみた次第である。

 もちろんこの事はひめには内緒だ。


「周りに誰もいない、よね?」


「そうだな、いないな。でもいても気にする必要ないよ。映画を楽しもう」


 ひざ掛けを取ってひめの膝に被せる。

 ひめのお腹をぎゅっと抱き締め、シートにもたれる。


「今日の服、可愛いな。とっても似合ってるぞ」


 耳元で囁く。ビクッ、っとひめが反応し、小声でありがとうと呟いた。


『騙されないで!!』


 スクリーンにそう叫ぶ結城ゆうきエミルの姿が映し出される。

 何でこのタイミングなんだよ……、さすがに映画のCMまではチェックしてなかったわ……。


「大丈夫、私は騙されてもいい」


 いや、そういう問題じゃないが。



 イチャイチャしながら映画を見終わり、シネコンの中にある喫茶店へ入った。

 あのシーンが良かった、どう思った、自分ならどうするかなど話しながらケーキを食べる。


「女優としては自分ならこう演技するとか思いながら見るもんなのか?」


 ひめもスペックスに潜入する為だったとはいえ、今も立派に舞台女優をしている。

 演じる立場としては、人の演技を見て思うところもあるんじゃないだろうかと思いそんな事を聞いてみた。


「分かんない」


 う~ん。そうか、分かんないか。


「最初はお兄ちゃんにスペックスへと潜入してほしいって頼まれて、その為には芸能事務所に入らないといけないからって、形だけ女優としてのお仕事をしてた。

 けど、もうその必要はなくなったんだよね」


 そうだな、ひめのお兄さんである基夫もとおさんと、瑠璃はもう和解している。

 ひめが女優として活動し続ける理由はなくなってしまった。


「けど、今回の舞台は結構重要な役を貰って、自分なりに頑張って演技に打ち込んだんだ」


「何か心境の変化があったのか?」


 コクリと頷くひめ。

 俺と夏希のリプレイの際や、エキストラアクトレスとして俺とお客様アクトレスのプレイに参加した際の演技は、割と気の入り切っていない感じだったように思う。

 しかし、昨日見た舞台上のひめはそれとは全く違う印象で、立派に舞台女優として輝いていた。


「結城エミルの存在、優希の幼馴染としてじゃない夏希ちゃんの姿を見て、私も負けたくないと思った」


 へぇ、夏希にライバル心を燃やしているのか。


 同じ事務所に所属する女優、結城エミル。

 俺を笑顔にする為に芸能界へと入り、結城エミルとして世間の注目を浴びている夏希。

 芸能界に入った時期的にはひめの方が先輩に当たる。

 夏希の何がそこまでひめの心を焚き付けたのだろうか。


「優希がもし希瑠きる紗丹さたんとして芸能界での活動を本格的にするようになったら、すぐに結城エミルとの共演の話が来ると思う。それが、悔しい」


 滅多に見せない、焦りのような色を持った表情。

 俺が実際に活動を本格化させるかどうかは別として、ひめはエミルに負けたくないと思っているって事だろうか。

 ならば、俺は純粋に応援したい。


「夏希ちゃんと優希が映画館デートした時に、スクリーンから邪魔出来るような女優になりたい」


 あ、やっぱりあれ気にしてたんだ……。



 その後、同じシネコンの中にあるボーリング場でボーリングをしながらイチャイチャし、カラオケを歌いながらイチャイチャした。

 全国にチェーン展開しているイタリアンの店で夕食を摂った後、シネコンを出た。

 ひめの肩を抱き、またも囁く。


「この後、もう少し2人きりでいたいんだけど、……いいか?」


 そしてコクリと頷くひめ。

 この時は、誰の邪魔も入らなかった。


100話達成!

記念に、という事ではないのですがまたも新連載を始めました。

『そんな裏設定知らないよ!? ~悪役令嬢を育て直して正統派ヒロインにしてみせる!!~』

1話目がこの100話目と同時に投稿されるよう予約済みです。2話目がこの後23時に投稿予約済みです。

よろしければ覗いてみて下さいませ。



現在上記作品は完結済みです。

お読み頂いた読者様、ありがとうございました。

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