リアル・ラグナロク プロローグ【戦姫の目覚め】
私の欲望が詰まった作品です。
暖かく見守ってください。
見上げた空は紅く染まっていた。
とても綺麗で、どうしようもなく怖かった。
前を向けば、俺に剣を向ける青年が一人。
視界がぼやけてうまく表情が読めない。
ただわかるのは、彼は俺を殺したいらしい。
聴覚もうまく働いていないが、青年が声を荒げて俺に何かを訴えているのがわかる。
そして俺は視線を青年の足下に移す。
そこには青年の仲間であろう少女が、体を赤く染めて倒れている。
それに気づいた俺は、回りを見渡す。
視界が次第に鮮明になる。
「こ……れは……」
まるで地獄のような光景。
崩壊する建物―――
燃えさかる大地―――
血まみれで倒れている人々―――
そしてこの紅い空が、目の前に広がる光景の残酷さを助長させる。
何が起こったのか理解できない。
俺はこの場で何が起こったのかを知るために、足を前へ踏み出そうとした。
だが足は動かない。
現状に足が竦んだとか、踏み出す勇気がないとかそういうものではない。
体の自由が利かない。
驚きの声を上げようにも、声が出なくなっている。
頭は酷く混乱して、鮮明になっていた視界も再びぼやけていく。
俺は何故ここにいる?
目の前の光景は何があった?
この青年は何者だ?
理解が追いつかず、次第に意識まで遠のいていく。
そして、意識が完全に落ちる瞬間、青年は俺の元へ駆け出し叫びながら剣を振りかざす。
「裏切り者ぉぉぉ!!!」
青年の最後の言葉だけは嫌になるくらい鮮明に聞こえた。
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「うっ……くっ……あれ?」
目を覚ますと見慣れた天井があった。
カーテンの隙間からは朝日が差し込み、部屋は空調で少し寒い。
俺は起き上がる。
どうやら俺は自分の部屋の床で倒れていたようだ。
ここまで聞けば普通の、よくあるような話だ。
だが俺は酷く混乱した。
「帰って……これたのか……!?」
混乱するのも無理はない。
何故なら俺は今までゲームの中にいたからだ。
××××××××××
事の発端は三年前。
俺は世間では有名な魔術師であり、【紅闇の女皇】と呼ばれていた。
両親は小さい頃に亡くなり、政府から依頼を受けて金を稼ぎ、一人で生きてきた。
だが当時十五歳だった俺はそんな毎日に嫌気がさしてネット世界に依存した。
当時『Re.Ragnarok』というPC専用のオンラインMMORPGが流行っていた。
名称が長いので世間では略称として、『リアル』と呼ばれていた。
初めは『Re.R』だったが次第に『リ・アール』となり最終的に『リアル』に落ち着いた。
物語は、プレイヤーが神々の使いとなって繰り返される神々の黄昏、つまり最終戦争を生き抜き、存在する五つの世界のボスを倒して、最終戦争を止める。
まぁ、よくある設定だ。
俺はあまりゲームなどはしない方だが、リアルにはどっぷりとハマっていた。
そんなリアルのプレイヤーの人数がちょうど十万人を超えようとするとき、運営側は記念としてあるイベントの告知をした。
その内容は、
「現在三つ目のエリア『フレイヤのおもちゃ箱』までをクリアしたプレイヤーの中から抽選で百名をイベント限定エリア『オーディンの闘技場』へ招待する」
というものだった。
しかも、クリア報酬がキャラ作成した初期段階でも第三エリアまで戦い抜けるほどステータスが向上する超レア武器『グングニル』だった。
俺はすぐさま抽選に応募した。
報酬にはあまり興味が無かった。
俺はリアルのゲーム設定が好きで、『オーディンの闘技場』の方に惹かれた。
するとPCからピコンッ!という音とともに煌びやかなウィンドウが表示された。そこには……
「この度は限定イベント『オーディンの闘技場』に抽選して頂きまことにありがとうございます!あなたの抽選の結果は…当選おめでとうございます!あなたは限定イベント『オーディンの闘技場』への参加権限を獲得しました!」
どうやら当選したらしい。
俺は喜びの表現のため小さくガッツポーズを決める。
そして、この通知の下には……
「最終確認です。本当に参加なされますか?」
…………そりゃ、参加したいから応募したんだろ?
はい/いいえ
俺は迷うこと無くカーソルを『はい』へと移動しクリックする。
それが現実世界との別れとなった。
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そして目覚めたときには死と隣り合わせの世界にいた。
イベントの告知などまったく関係なく、GMからは「命を懸けてクリアしろ」と言われ、五つ存在するエリアを初めから、今度は命懸けでクリアすることになった。
最初は何かのドッキリ、またはイベントの設定かと思ったが、時間が経つ内に現実を受け止めるようになった。
最初は魔術を使用しながらソロでプレイしようと考えたが、すぐに魔術が扱えないことに気づく。
俺は仲間を作り、【紅闇の女皇】としての経験を生かして前線で戦い抜く。
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そして確か四つ目のエリア『ロキの封鎖世界』までクリアしたはずだ。
あれ?なんだか記憶が曖昧だな……クリアしたあと、どうなったんだ?
うまく思い出せない。
とても大切なことを忘れてしまった気がする……
混乱が収まらない。
思い出せないこともそうだが、なにより……
「なんで三年も経ってんのにこんなに綺麗なんだよ……?」
部屋は三年前とほぼ変わっていなかった。
三年もゲーム世界に捕らわれていたんだぞ?
つまり現実世界で俺は行方不明だったはずだ。
家宅捜索とか入らないのか?
確かに俺はほとんど他人と関わることなく生きてきたが、知り合いがいないわけじゃない。
政府の関係者などが俺を訪ねてこなかったのか?
俺は現状の理解が出来ず、重い腰を上げようとする。
すると、
「おっ?あれ?」
体に違和感があったのだ。
その理由はすぐわかった。
俺は部屋にある姿見を見て唖然とする。
「おいおい……なんで縮んでるんだよ……!?」
身長が三年前の状態に戻っていたのだ。
リアル内ではゲーム世界にも関わらず、体の成長は現実のものと変わらなかった。
第四エリア時は、俺の身長は百七十以上はあったはずだ。
でも今は、三年前と同じ百六十ほどに戻っていたのだ。
「まさか、ゲーム世界の成長はゲーム世界だけのものってことなのか?」
俺は混乱が収まらず部屋の中を調べ回った。
キッチン、浴室、クローゼット、見て回ったが何も変わっていなかった。
おかしい……
誰かが来ていれば部屋は立ち入った痕跡があるはずだ。
誰も立ち入っていないなら、ここまで清潔なはずがない。
埃が積もったり、もっと荒れているはずだ。
なのに、変わっていないなんて事あるのか?
俺が状況の整理をしているとどこからかバイブ音が聞こえてくる。
部屋の中心にある机の上の携帯端末、スマホだ。
このスマホもだ。
三年も放置していたのに……バッテリーってそんなにもつものか?
俺は端末を手に取り電源を入れる。
そこには、政府からの依頼がメールとして大量に届いていた。
数は……二十七件……
あまりに少ない。
三年間分にしてはあまりにも少なすぎる。
「嘘だろッ!?どういうことだよ!?」
すると、俺はようやく事態の異常性に気づく。
端末の画面に表示された時刻は…
2021年7月17日
俺がゲーム世界に捕らわれてから一週間しか経っていなかった。
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「………というわけで、ようやく現実に戻ってこれたわけだ」
「そうだったんだ…それはビックリだよね……」
「確かに心臓が止まっちゃうんじゃないかってぐらい驚いたけど、数少ない知り合いに助けてもらったりして、ここまで生きてこれたよ」
あれから二年が経った……
俺はこの二年でゲーム世界とほぼ同じぐらいの体格に成長した。
現実世界も二年で大きく変わった。
この世界では魔術と呼ばれる力が存在している。
そして異世界の存在も確認されており、この世界と異世界の行き来も可能となっている。
俺が今いるこの場所は異世界に造られた日本との中立地帯“常世島”と呼ばれる海上に複数のメガフロートと魔術により空に浮遊する三つのメガフロートで構成された人工島だ。
そして世界はこの二年で魔術以外の超常的な力の存在を確認した。
一つは超能力、もう一つ寵愛《ソムニウム》というものだ。
この二つは魔術と違い努力や研鑽で身につけることのできるものではない。
詳細は未だ解明されていなく、発現条件も不明である。
判明していることは、この二つには先天的なものと後天的なものが存在するということだ。
生まれつき力を保有している者と、何らかの理由で後天的に手に入れる者が存在する。
一説では魔力が関係しているのではないか?というものらしい。
結局、百名の人間が『Re.Ragnarok』の世界に捕らわれ、その内九十三名のプレイヤーが命を落とした。
後にこの出来事は『リアル・ラグナロク』と呼ばれるようになる。
……といっても、世間には詳細が明らかにされていない。
現実世界では一週間しか経っておらず、世界規模でいえば九十三名の人間が死んでも、その全ての死が『リアル・ラグナロク』によるものという考えに辿り着く人はそうそういない。
「そうなんだ……頑張ったんだね……」
綺麗な金髪を腰まで伸ばした美女が聖母のような慈愛に満ちた微笑みを俺に向ける。
そして、その美女の向かいに座っているのが……
「まぁね……でも大丈夫だよ。このくらいのアクシデント……」
肩まである黒髪を後ろで小さく結んだ中性的な容姿の少年。
「“世界最強”なら乗り越えられる」
これは世界最強の魔術師【紅闇の女皇】文野真姫の物語。
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これは数多の異能力が……
異世界から来訪者『魔族』が存在する世界。
そして異世界に造られた人工島“常世島”の四人の英雄『戦姫』『天使』『道化』『鬼』の物語である。
誤字、脱字なんかは目を瞑って下さい!
拙い文章だったと思いますが、読んでくれてありがとうございます!