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第弐心―セカンドハーツ―  作者: ただっち
第1話:心結絆の人生転機
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04

絆は間一髪のところでかわした。

代償として、彼のスマホは無惨な姿に代わってしまったがーーー命には変えられないだろう。

あの、スマホ越しにでも地面を抉っていた打撃痕。

それはハンマーで煉瓦を壊すのに等しいほどの破壊力があるものだと、見ただけで分かってしまうほどの威力であった。

いったいどんな力加減で、バットでなぐればコンクリートがこうなるのかーーー是非とも、検証実験をしてほしいものだ。

しかしながら、絆にとってはそんないつものようなふざけた事を考える余裕などなかった。

その理由は、つい先程に受けた暴行による痛みの影響だと言える。

駅前でのあの暴行ーーー琴木尊を、クラスメートの女の子を助けるために複数人から受けてしまった、殴る蹴るの行為。

その中でも一番効いたのは、最後に受けたあの思い拳によるみぞおちに受けた攻撃だ。

恐らく、絆の目の前で、今バットでスマホを叩き割った彼こそが、それを行った人物なのだろう。

スマホを破壊されたあの光景から、あの1度受けていた強力な一撃の痛みが一瞬身体を駆け巡ったのだーーーあの、正しさを全うしようとした結果に受けた、暴行の痛みを。

「おやおや、なんでここが分かっちまったんだろうね?」

覆面をした男は、マスク越しにそう言う。

声は野太い。

威圧感のある風貌に見あった、イメージ通りの声と言う感じなのだろう。

「まあまあ、人を尾行するだなんて、悪い子ちゃんは、お仕置きしちゃうぞ……」

「女の子を拐ったやつに、尾行云々とか言われたくないしーーー」

「うるせぇ!」

と、再びバットを振りかざそうと男は、バットを上へと持ち上げる。

バットの握っている様子からも、相当の力を入れて持っていることが予想されるだろう。

その力から降り下ろされるバットの威力は、少なくとも、華奢な絆の身体なら、簡単に折れてしまうほどの威力だろうーーー。

絆は思考停止しかける。

だが、能力を咄嗟に使い、絆は彼の名前の情報を得ることに成功する。

「やめろ、村上信条(むらかみしんじょう)‼」

名前の情報を手にいれた。

普通ならば、これだけではなんのやくにもたたないだろう。

だが、この状況では意味が変わってくる。

「死ね……って、え?」

ピタリと、男ーーー村上の動きは止まる。

そして、まるで鳩が豆鉄砲でも喰らったかのような、そんな顔を浮かべていた。

「お前ーーーなんで、俺の名前知ってるんだよ……」

村上は、目を丸くしていた。

まるで、知人のように絆は彼の名前を見事に言い当てたーーーその事により、村上には一瞬の隙が生まれたのだった。

初対面で名前を言い当てられるーーーそれは、人間にとっては不気味で恐怖でしかないことである。

人間にとって名前とは、最大の個人情報である。

見知らぬ他人から、突然名前を言い当てられたら、ぎょっとして、思考が1度停止してしまう。

そして、更に詳しく自身の情報を言い当てられたらーーー人間は、完全に思考が停止してしまうーーー故に絆は喋る。

彼の個人情報を。

「村上信条、18歳、A型、身長191cm、体重81.5kg、心根北小学校出身、心根工業高校3年3組所属、元剣道部エース、好きなこと【恋人の自慢話】、嫌いなもの【弱いやつ】、最近秘密にしていること、【恋人と別れたのに、未だに恋人がいる振りをしている】、更に更に中学生時代に、好きな子に向けたポエムが【俺の(ラブ)に火をつけた愛しき……】」

「やめろ‼」


バットをポロッと地面に落として、村上は絆に馬乗りになって彼の口を塞ぐ。

「なんで俺の個人情報をお前が知ってるんだよ‼お前なんなんだよ‼気持ち悪いんだよ、気持ち悪いんだよ、気持ち悪いんだよ‼死ね、死ね、死ね‼」

村上はぐっと口を塞ぐ。

殺す気で、全力でーーー。

その結果絆は、息苦しくて窒息してしまいそうになる。

だが、咄嗟に村上の手を噛む。

手を食いちぎる勢いでーーー流石にワニのようにトンを超えるほどの顎の力は無いにしても、人間の掌を退けるくらいの力は持っている。

まあ、同じ人間同士なのだなら、人間の攻撃は人間に通じるのだろう。

村上は、絆に噛みつかれた掌を抑えて、後ろに倒れ込んでしまうのだった。

絆は村上の掌を噛んだときに口の中に入ってしまった、村上の血をペッと吐き出して、スッと立ち上がる。

そして、今度は逆に村上の上に馬乗りになって、額の部分を指で押さえる。

村上は、一歩も動くことはできない。

人間は、額を押さえられると、起き上がれなくなるのだ。

いや、それをされていても、絆と村上では力の差がありすぎる。本当ならば、村上は絆のこの停止行動には抗えるはずなのだ。

だが、村上にはそれができないーーーまるで、得たいの知れない化け物と遭遇してしまったかのように、ある日森の中で熊さんに出会ってしまったときのように、固まってしまったのだ。

「さあて、村上信条……琴木尊さんはどこにいるのか、教えてもらおうか……」

そう言って絆はにこりと微笑む。

その目は、強者の目ーーー威圧する者の目だった。

「なんなんだお前は‼なんなんだお前は‼」

村上は声を絞り出すように出す。

巨大なモンスターに威嚇するようにーーーだが、絆はそれに怯むことなく「俺?俺は俺だよ。君に名乗るほどでもない……さあて、んじゃあまあ、覗かせて貰うよ……」そう言って絆は、村上信条の心を覗き込むのだった。



心読むと言う行為ーーーこれにはとんでもなく神経を使う……何てことはなく、ほんの数秒ですべてを見終えることが出来る。それも知りたい情報だけを自由にーーー言ってしまえば、心の中をググっているようなものなのだ。

ネットサーフィンならぬ、ハートサーフィンだ。

ただし、それは見られている本人にとっては、恐怖なのだ。

自分の中を除かれているーーーそれを理解したとき、見られている人物、村上信条はなにもできなくなってしまった。

暴力も、喋ることも、動くことさえもーーー壊れてしまった人形のように、ピタリと、停止していた。

「……なるほど、分かった。ありがとう。あの病院の院長室だね……」

そう言うと、絆は村上に、にこりと微笑んだ。

だが、村上にはその笑顔が怖くてしかたがなかった。

言い当てられたーーーそれはつまり、彼が心を読んでいる事が分かったからだ。

心を読む力をもった人間ーーーつまりは、化け物なのだ。

人間は、普通の人間と違う力を持った人間のことを化け物扱いしてくる。

恐怖の対象、駆逐の対象ーーーそれが、化け物に対する人間の処置だった。

だが、それはあくまでも複数人の集団の人間の中ではの話し。

人間は化け物と一対一の状況にあってしまったらーーーもう、成す統べなく、ただただ何も出来ずにいる。

そう、今の村上のように。

彼は自分のしてしまったことを思い返していた。

走馬灯のように。

この化け物に自分は殺されてしまうのだろうーーーそんな風に彼は感じてしまった。

心に思ってしまった。

それを、絆は覗いていた。

それを、絆は利用した。

人間は、自分達と違う力を持つものに恐怖して脅えるーーーならば、異能の力を見せつけるだけで、無気力にしてしまうことも可能なのだ。

わざわざ、心を壊して廃人にせずとも、こうしてトラウマを与えてあげれば、向かってくる勇気さえも最早起こらないーーー心を知り、読むことのできる心結絆だからこそ……人ならざる力を持つ彼だからできる芸当だろう。

「じゃあね、村上信条ーーー」

「……ひっ……」

不気味な悪魔のように見えた絆の笑みに、村上信条はビビってしまい、失禁し、そしてーーー気を失ってしまったのだ。

化け物に殺されるーーーそう思ったのかもしれない。

「あーあ……暴力的な人間ほど、心が脆くて、容易い……」

そんな事を言いながら絆は、琴木尊を助けに病院内へと入っていくのだった。

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