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第弐心―セカンドハーツ―  作者: ただっち
第1話:心結絆の人生転機
4/18

03

絆は、何が起こったのか……突然のことで、分からなかった。

驚いた彼が、持っていたスマホと鞄を地面に落ちる音と、電車の音だけが辺りを支配していたような、そんな感覚に陥ったのち、はっと我に帰るが、目の前の光景は変わらない。

クラスメートの女子が、素顔を隠した筋肉質の男たちに拐われそうになっている。


「だ、だ、誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」

と、彼女は必死に叫んでいるーーーそして、絆を見ていた。

だけど、彼は助けにいくことができなかった。

さんざん偉そうに、人間について言っていたーーー思っていた彼は、なにもできなかった。

辺りに助けを求めようとも、誰もいなかった。

ちょうど、駅から出発したばかりの駅のホームには、人がいなかった。

不運は重なるーーーその言葉の通り、彼はまさしく窮地に立っていた。

「……」

「……」

男たちはなにかを話しているようだった。

そして、絆を見ていた。

心結絆は、そんな彼らの心が見えていた。

「あいつも拐ったほうがいいのか?命令ってこの女拐うだけだったはずだけどな」

「目撃者は消さなきゃ行けねーよなー」

絆は理解した。

こいつらは、なにか目的があって琴木尊を拐うのだと。

そして、絆はそれを目撃してしまった故に、自身もピンチに陥っていることに。

絆は逃げようとした。

拐われようとしている女子を見捨ててーーーだけど、それは自らの心が腐り果てたことを意味する。

巨悪を見過ごし、強者にひれ伏し、権力にすがる、そんな大人と同じようにーーー。

だが、彼はそんな心を否定していた。

さんざん他人の心が醜いと、汚いと、穢れてるとーーーそんな偉そうなことを言っていたくせに、都合のいいときだけ逃げようだなんて、くずの極みだ。


「こ、こ……琴木さんを離せ!」

無謀にも、彼は自信の正義を信じて、屈強な男たちへと向かっていくーーークラスメートである彼女を救うために。

だが、絆の身体能力ではそれは不可能だった。

笑われながも、彼は必死に彼女を助けようとした。

蹴られようとも殴られようともーーーだが、やがて強力なパンチをお腹に受けてしまい、彼はその場でもがいた。

もがき苦しんだ末に、彼はその場に放置され、琴木尊は誘拐され、ワゴン車は逃走してしまった。

彼の正しいことは行動には移せた。

だが、彼はその正しさを押し通すことは敵わなかった。

その結果が、これだ。

心結絆の能力ーーーそれを始めから使っていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。

だけど、彼は使わなかった。

それは、先程の琴木尊との会話で出てきてしまった、心根小学校の出来事に起因していた。

彼の能力によって、廃校に追い込まれることになり、多大な被害を被ってしまった心根小学校ーーー能力のせいで、トラウマになってしまった小学生たちの顔……それを見てしまった彼もまた、その光景がトラウマだった。

故に能力を使うことを躊躇ってしまったのだ。

相手の心を破壊する能力ーーーそれさえ使っていれば、こんなことにはならなかったかもしれない、そう思うと絆は涙を流していた。

そして、何度も何度も地面を殴り付けていた。

その華奢な拳から血が滲むまでーーー。



心結絆は、とりあえず事情を警察に説明した。

落としていたスマホを拾い上げ、110番にかけ、駅前で女子高生が拐われたと……ワゴン車に乗せられ、国道の方へと向かったと。

絆は、そう説明した後に、スマホを切り、落としたときに散らばってしまった鞄の中身を広い集め、そして彼は駅前から移動した。

駅の近場にある公園へと来た彼は、水道水で血が滲むまで殴った拳の血を洗い流していた。

絆は、誘拐現場には、彼の血が残ったままの状態にしておいた。

消そうと思えば消せるが、警察が来たときに物的証拠として、ここで何かあったと言う風に、すぐに捜査ができるようにと、彼なりの工作である。

「痛い……」

冷たい水が、彼の拳の傷によく染みる。

だが、そんな痛みよりもーーー彼は自信に怒っていた。

「なんで、あの時すぐ動けなかったんだよ……なんで……なんで、こんなことに……くそっ!」

冷水から拳を取り出した絆は、そのまま頭から冷水を浴びた。

1度煮え繰り返った頭を、クールダウンさせないことには思考がまともに動いてくれないからだ。

バシャバシャッと、水しぶきが飛び交い、そして、蛇口を閉め、絆は「ふぅ……」と、一呼吸置いていた。

鞄の中から、体育の時に使ったタオルを取り出して、近くのベンチに座りながら、頭をふく。

その状態のままで、彼は琴木尊を助け出す方法と、場所をどのように見つけるかーーーそれを考えていた。

「……琴木さん……もしかして、あいつらから逃げるために転校してきたのか?」

絆が始めて琴木と出会ったとき、彼女の歩き方には違和感があると感じていた。

まるで、物音を立てないように、静かに歩いていたーーーつまり、なにかを刺激しないことを日常的に刷り込まれていたのかもしれないーーーそう言う風な印象を受けていた。

もしも、あそこで彼女の心を読んでいれば、今回のことも予期できたかもしれない。

彼女が、あそこで絆と一緒に帰ろうと言っていたのは、一人になりたくなかったからだ。

一人になれば、誰にも見られることなく誘拐される。

二人でいれば、誘拐されても助けを呼んでくれる。

つまりは、琴木尊は初対面であまり話したこともない、心結絆に助けを求めていたのだ。

絆は改めてその事実を真摯に受け止める。

絆なら、絶対にできない【他人を信じる】ということを、彼女はやったのだーーー普通ならば見ず知らずの人にはできない。

ましてや、初対面に近い相手には絶対にできないことを。

「琴木さん……こんな俺を信じてくれたんだ。本当にバカだよな……今日会ったばかりの、ましてや消ゴムを貸したくらいの浅い付き合いなのに……こんな俺を信じてくれたんだ……こんな俺を……本当に眩しすぎて、高嶺の花だぜーーー」

絆は、頭を拭き終えるーーーその目は、決意のこもった鋭い目付きになっていた。

そして彼は、公園を後にしたのだったーーー。



心結絆は、先程の犯人たちの心を読んでいた。

壊す能力は使わなかっただけで、読む能力は使っていた。

よって、次にどこに向かったのかーーーそれは、映像のような形で彼には見えていた。

そこに行けば、琴木尊は居るだろう……そう思った彼は、歩いて向かう。

この辺の地理には、彼は詳しいーーーなんせ、地元民だ。

ワゴン車にて国道の方へと向かったーーーそれは、確かだ。

「だけど、その国道にでて、また直ぐに住宅街の方へと曲がっただろうーーーじゃないと、あそこへは行けないからな……」

心結絆は、住宅街の裏路地を通って、見えた景色の場所に行く。

そして、到着した。

あの看板、あの老朽化した、建物ーーーかつて大病院だった、【心根総合病院(ここねそうごうびょういん)】。

今では、幽霊が出ると噂されるほどの廃病院となってしまっている。

こうなってしまったのは、絆の能力ーーーではなく、単純に行政的に赤字続きであったための倒産によるものと、国道の方に大きな医療センターが建設されることになったため、不要とされたのだ。

故に今では、不良の溜まり場であったり、肝試しの名所になったりと、いいように使われてしまっている。

「……よし、ここだなーーー」

絆は、廃墟の駐車場に止まっているワゴン車を見て確信していた。

先程、琴木尊を拐った車と、車種も、ナンバーが一致している。

「とりあえず、警察にも連絡しとくか……」

そう思って、スマホを取り出したその時、画面に映ったのは、自身の後ろでバットを降り下ろそうとしている人間だった。

「‼」

絆はとっさに横に飛んだ。

緊急回避行動ーーーその結果が実を結んで、絆の身体にはバットが当たることはなかった。

だが、絆が落としたスマホには見事に命中していた。

画面は見事に叩き割れていたーーーそして、その画面の上には金属製のバットが鎮座しているのだった。

そのバットを持っている男ーーーそれは、先程絆を痛め付け、みぞおちを殴った男だった。

覆面をしているため、顔は完全に見えないが、にやにやと笑っているのだけは、伺えたのだったーーー。

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