05
東雲は砂糖袋に入っていた砂糖を全て食べ干すと、そそくさと動物たちの元へと向かった。
というのも、どうやら東雲の休憩時間が終わってしまったようで、看護師が東雲を呼びに来たからなのだ。
「先生、お時間ですよ」という感じで、よく見るドラマのように「分かった、すぐ行く」という返事をしてそそくさと患者達の元へと行くのだ。
「んじゃ、俺たちも長居すると悪いからそろそろ行くか」
と、絆は黒い子猫を膝の上から胸元に抱き抱えるように持ち替え、そのままだっこする。
そして、立ち上がり、近くにある子猫を入れておく仮借家と言う名の檻へと子猫を入れるのだった。
黒い子猫は、最初は嫌がったが、絆の顔を見ると大人しくなり、すぐに檻の奥へと向かう。
「じゃあ、行きましょうか」
琴木は、ブラジャーもとい、白猫シロを再び胸の中に隠し、身支度を整えるのだった。
絆達がどこへ向かうのか……それは、駅より数キロ離れたところにある【心根中学校】であった。
というのも、絆は連日他人の心を読むと言う作業を、駅前で行っていた。
ある時は、コンビニエンスストアで雑誌を立ち読みしながら。
ある時は、駅前のベンチでハンバーガーを食べながら。
ある時は、電車を待つ学生を装いながら……。
だが、そんなこんなで様々な方法を試したのに、事件は終息することなく連続した。
しかしながら、絆はここであることに気がつくのだった。
それは、以前見かけた黒猫を虐めていた中学生たちがここを全く通っていないことだった。
そして、なによりこの周辺の地区のある中学校だけ、この周辺の地区で唯一、虐殺死体が見つかっていないのだ。
とするならば……犯人は、その場所にいる可能性があるーーーと、絆は推察した。
そのため、絆達は心根中学校へと向かうのだった。
もちろん、琴木は絆の能力についてはなにも知らない……まあ、今回は絆は能力で場所を特定したわけではないので、何とも言えないがーーー絆は、琴木には能力の事については伏せたままにしている。
信頼はできるけど、信用はしていないーーー絆にとって琴木は、あくまでもクラスメート……そして、友人でありたいのだ。もしも自分の能力を知ってしまったら、また化け物扱いされてしまうのではないかと、絆は思春期らしくそう思ったりするのだった。
「さて、到着したね」
琴木は心根中学校の正門を指を指す。
現在、どこの学校も休校となってしまっているので、もちろん生徒はいないため、この中学校も門が固く閉ざされていた。
一人もいないこんなところには、長居は無用だと思っていたその時、突如として一人の行動が予想を上回る行動に出たのだった。
「絆くん、ちょっとしゃがんで……よく見えないの」
「え?なにをみるんだい?琴木さ……」
「とぅ!」
絆は琴木の声とほぼ同時に背中に強い圧迫巻を感じた。そして、その圧迫感を確かめようとしたとき、上を見るとちょうど女性ものの下着が布と共に去るところだった。
そして、その下着は柵を飛び越えて、校舎側の地に降り立つ。
「ふぅ、久々に高跳びした……絆くん、今鍵壊す……開けるから待っててね」
なんの悪ぶれもなく、近くの石を拾い上げ、南京錠のかかった鎖をガンガン叩いている琴木に対して、絆はただただ先程の下着の映像がが頭に残ってしまって、顔を真っ赤にしてボーッとしていたのだった。
校内へと侵入した二人。
警備の人や、先生の姿さえもない、無防備過ぎるこの中学校。本当に事件を全員が恐れてしていることなのだろうか……または、もしも死体が発見されたときに、容疑者になりたくなかっただけなのだろうかーーーと、絆は考えてしまう。
いくら動物が連続で殺されたとしても、他の人間にとってはあくまでも殺人ではない事件だ。そんな事件に対して、過敏にまでなりすぎているこの中学校は、おかしいと彼には感じるしかなかった。
この中学校はなにかを知っている……だからこそ、教師や生徒、警備に至るまで、空になっているのかもしれない。
「絆くん。じゃあ、どこから調べる?」
「うーん……とりあえず職員室ーーーたぶん、先生とかが管理してる生徒名簿を見てみよう。おそらく、この前黒猫をいじめていた奴等がいるはずだ」
絆は彼らの顔を鮮明に覚えている。
あの生意気で、世間知らずで、傲慢で、頭の悪そうな奴等の顔を。
彼らが子猫をいじめていたのは、受験のストレスによるものだったーーーだとするならば、該当する生徒は中学3年生ということになる。
だが、なん組の何番のどの席かまでは知り得ない。
しかし、座席さえ分かれば、あとは絆が能力を使うだけで済む話だ。
絆の持つ能力【第弍心】ーーーこの能力にはまだまだ使っていない能力が多々存在する。そんな中でも、今回絆が使用しようとしているのは、残留思念を読み取る力である。
人間は、知らず知らずに物に触れたとき、心の一部をその物に宿している。
思い入れのある品を触ると、その時の感情が思い出されたりするなんて事を経験したことがある人もいるかと思うが、まさしくそれは物に自分の心が宿っていた証拠なのだ。
思い入れの品から、再び自分の心へ思いーーー即ち、思念が舞い戻るわけだ。
その思念を読み取るのが、第弍心というわけだ。
そんなこんなで絆たちは、職員室へと向うのだった。
容疑者となる生徒が、どの組の、どの教室の、どの席にいるのかを特定するために。




