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次の日ーーーやはり、犯人逮捕のニュースでテレビも新聞もSNSも埋め尽くされていたのだった。
その理由が、犯人が高校生だったとか、拐われた女の子が美人だったからとかそういう理由ではなく、やはり犯人の捕まった場所である【心根小学校】に焦点が当てられていたからだ。
かつて、集団自殺未遂のあった小学校ーーーそして、今回の犯人の凶行が、全てその小学校でのことが起因しているとか、そんな感じでテレビのコメンテーターが話をしているのを聞いていた絆は、朝食を食べながら鼻で笑っていた。
「こいつらは、何かのせいにしなきゃ、語れねーのかよ……」
そう思って彼はニュースを見ていた。
昨日、というかあの取り調べの後、絆は桜井の心理を読み解くことが出来ずに終わった。
直後、絆は桜井にあるお願いをしていた。
「琴木さんを、病院まで連れていって貰っていいですか?それと、俺を自宅まで送っていって貰っていいですか?」
と言って、あのあと絆たちは桜井によってそれぞれが向かう場所へと向かう。
絆は、まず琴木尊を病院へと送ることを強要した。
流石に、琴木を桜井と2人きりにさせるわけにはいかなかったために、強要したのだ。
桜井がもしも、何かするようならばいつでも【傀儡の心】で、桜井を停止させればいい話だが……。
まあ、絆は念のための用心として、確実に自分の目で送り届けたことを確認したかったのだ。
そして、確実に病院へと送ってもらったことを確認してから、絆は自宅へと送ってもらったのだ。
帰りの中、桜井と2人きりになった絆だったが、必死になって彼の心を読もうとした。
だが、やはり心を読むことは叶わず、特に会話もなく無言のドライブの末に、自宅まで送り届けてもらった。
「じゃあ、またねーーー」
と、意味深な発言を残して、桜井は夜道へ車を走らせて行ったのだった。
「んじゃあ、学校に行ってきまーす」
と、絆は家を後にした。
通学路をいつものように歩いていた。
駅前から、学校まで。
「おーい、絆くん!」
そんな風に、元気に声をかけられるまでーーー。
「え!琴木さん!?」
そこには、元気に走ってくる琴木尊がいたのだ。
絆は、目を疑った。
なぜなら、普通なら誘拐された次の日にこんな元気に登校してくる女の子の心境が想像出来なかったからだろう。
「はぁ……はぁ……よかった、心結くん。走るのは遅いけど、歩くのは普通なんだね」
「わざわざ、悪口いいに来たのかよ……ってか、琴木さん。もう、大丈夫なの?」
「なにが?」
「なにがって、誘拐されてたんだから、心理的なこととか、身体的な面とか‼」
「そんな大きな声で言わなくても……大丈夫。ん?いや、わりと平気だよ。前にもこんなことあったし……」
「前にも!?」
どんな経験してるんだよ……と、絆は思ってしまった。
いや、それよりも彼女の異常なまでの精神力に驚いている。
そんな語りたくもないようなことを、普通の女の子ならトラウマとなってしまって永遠に向き合いたくないようなことを、この女子は平気で語っている。
絆は、昨日の桜井同様、彼女も不気味に見えてきた。
「ふう……いや、桜井って警察の人から聞いたよ。絆くん、私を助けに来てくれたんでしょ?ありがとう♪」
「……いや、まあ……目の前で拐われたから、助けなきゃって思っただけだけど……」
「それでも、普通の人には出来ないことだよ。そんなに、ボロ雑巾みたいにされても、私を助けにきてくれないでしょ」
「褒めるか貶すか、どっちかにしてくれ」
普通恩人に対して、ボロ雑巾みたいにとか言わないのにな……と、絆は思う。
「それでね、絆くん。もし、良かったらなんだけど……」
「ん?」
「私と友達になってくれない?」
「え?」
唐突な台詞過ぎて、絆は唖然として立ち尽くしていた。
まさか、自分に友達になってくださいと、それも誰もが目を奪われるような女性に言われるなど、前代未聞というか、生涯にあるかないかと言うほどの確率だったからだ。
地球に隕石が降り注いで、アルマゲドンみたいになる確率よりもさらに低い領域の数字だと。
「ね?ね?ね?いいでしょ?」
グイグイと、琴木は顔を唖然としている絆に近づける。
上目遣い……確かに、琴木のように容姿が整っていて、更には可愛らしい人がやるならば、まあ普通の男には通じるだろう。
だけど、もちろん心結絆は、普通の男ではない。
だからこそ、彼の選択肢もーーー。
「いや、いいわ。クラスメートってことで相手するだけで……」
と言うように、あっさりと完結した答えになるのだった。
高嶺の花である【琴木尊】の接近。
それは、心結絆にとっては、自分の領域が犯されてしまいそうで、恐ろしいことだった。
「いや、断る‼」
と、琴木は言う。
きっぱりと。
心結絆の拒否など、彼女にとってはどうでも良かったのかもしれない。
とにかく、心結絆と話したかった。
とにかく、恩人にお礼が言いたかった。
とにかく、心結絆に友達になってほしかった。
自分を助けてくれた、安心できる男性の友達になってほしかった……ただそれだけの話なのだと、心結絆は高嶺の花の心を読むことで理解する。
発言の裏に、なんの闇も、なんの陰謀も存在しなかった。
心結絆……人間恐怖症の心を読める男子高校生は、女子高生からの友達になろうよという勧誘を断ろうとした。
だけど、彼女にはなにを言っても、無駄なのだと分かったとき、彼はとうとう折れた。
「分かったよ。じゃあ、今日から友達な……それでいいのか?」
「うん!やったー!じゃあ、これから毎日学校一緒に行こうね、絆くん♪」
「それはちょっと……」
と、絆は辺りを見回して言う。
何故なら、周りの男子高校生が妬みの心で絆を見ていたからだ。
誰をも魅了する女子高生との登校ーーーそれは、思春期な男子にだからこそ妬ましく思える光景なのかもしれない。
絆はこうして琴木尊と友達になった。
だが、この事から、彼の周りで次々と事件が発生していくことを、心の読める彼でさえも知らなかったのだったーーー。




