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クラス丸ごと奴隷召喚 ~至高の黄金球使い~  作者: 濃縮原液
第5章 エピオ領内遭遇戦
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09 参戦勧告

 ヘミウェイ・イグリットと彼女の率いる数名の兵士はゆっくりとビリーバラの屋敷に到着した。


 十分な時間を使いレンセ達は魔導庫へと隠れ潜んでいる。


 そして、ヘミウェイとビリーバラの会談が始まった。


「お久しぶりですわねエピオ卿。息災そうで何よりですわぁ。ところで、わたくしがこんな辺境まで何をしに来たかはお分かりになりますかしら」


「近々起こると噂されている戦争についてのお話ですかな? イグリット卿」


 二人の間には火花が散っていた。ヘミウェイは強硬派魔族の筆頭のような存在である。穏健派の魔族を率いるビリーバラとは以前から仲が悪かった。


「ええ、あの煩わしい教会の信徒共との戦争です。奴らはイルハダル討伐を口実に我が国への侵略を企てておりますわぁ。これは我が国において絶対に許容することの出来ない事象。奴らが一歩でも我が国に踏み込んで来るのなら全力でこれを排除する必要がありますわぁ」


「いっそのこと、イルハダルとの関係を切ってしまうという選択肢はないですかな?」


「ありえませんわねぇ。イルハダルの問題はただの口実に過ぎませんわぁ。奴らの目的はわたくし達魔族の完全排除にあるのですもの。エピオ卿とて、奴らの教義を知らないわけではないでしょう? 奴らは魔族を人とは思っていない。生ける屍。わたくし達のことをそんな風に思っている奴らに譲歩するものなど一つ足りとてありはしないのですわぁ」


「わたしの考えとしては、教会がそのような考え方をするようになったのにもイルハダルの影響があると思うのですがね。だが確かに、戦争の回避が既に難しいのも確かでしょう。イルハダルと手を切るにしても、やるならもっと早くにやっておくべきでした。少なくとも、イルハダルが剣聖キルリールを殺してしまう前に、ね」


「そういうことですわぁ。幸い、イルハダルは我が国への支援を約束してくれています。彼らは寡兵かへいではありますけれど、その力はもちろん知っていますわよねぇ。彼らに任せておけば国境の北側、レミシスに対する備えは万全ですわぁ。しかるにわたくし達は南でグラリエンと戦うのが主題となります。すなわち主戦場はここ、エピオ領ということになりますわね。ここまで言えば、わたくしがここへ来た目的もお分かりになられるでしょう」


「我が領内における特殊戦力、魔族の戦闘参加要請……ですか」


「そうですわぁ。もっともこれは当然の話ですけれど。戦場はこのエピオ領になるのですから。むしろわたくし達がエピオ領に救援を送ると考えて頂きたいですわぁ。わたくしの領地などは北部ですから本来なら対レミシスに兵力を集中させたいですもの。でも此度の戦争では南に兵力を集中させることになるはずですわぁ。もちろん貴族会議の結果次第ではありますけど。ただその前に、貴方の意見を聞いておきたかったのですわぁ」


「返事は貴族会議の時に、というわけにはいかないですかな?」


 ビリーバラの返答に、一瞬ヘミウェイの動きが止まる。


「もちろん、結論は会議の時で構いませんわぁ。でも考えることかしら? そもそもこの戦争、わたくし達ザンジェビアの方が勝ちますわ。敵は聖国と帝国の連合軍。一見すると分が悪いようにも見えるでしょうけど。でも帝国はともかく聖国はもはや恐れるに足りませんわぁ」


「そうですかな」


「そうですわよぉ。聖国最大の英雄、キルリールは既にこの世になく、奴らの特殊戦力はたった十人の使徒のみですわ。しかもキルリールは奴らの中でも最強。頂点を失った使徒共など物の数には入りませんわぁ。そして何より、彼らはイルハダルが殲滅すると約束を得ています」


 ヘミウェイはビリーバラの様子を注意深く観察しながら話を続ける。


「つまりわたくし達は、残るグラリエンさえ倒せばよいのですわぁ。グラリエンは強大な傭兵組織こそ持ってはいますが、使徒も魔族もいない烏合の衆。対する我らが公国は三桁を超す魔族の力がありますわ。あなたの治めるエピオ領だけでも百人を超す魔族がいますでしょう。これで何を恐れる必要がありましょうか」


 ヘミウェイは自信を込めて己の考えを力説する。だがそれに対するビリーバラの答えは冷静だった。


「イグリット卿。貴殿は魔族の力を過信しすぎているのですよ。我がエピオ領にいる百を超す魔族。それが一体何になるというのか。親を殺され子供の姿のまま魔族化した者、娘を殺され魔族化した年寄り、我が領内にいる魔族の実態はそういう者達の集まりなのです」


「魔族化し、ある者は仇を討つことに成功、ある者は失敗、そしてそのどちらにせよ、後に対魔族機関から追われる身となってしまった。そういった者達が世界中から逃げ延び、集まって来た結果が、我が領内の百数十の魔族なのですよ。世界から迫害を受けた我々がやっとで掴んだ安住の地。私達は、ただこの地においてひっそりと暮らしていきたいだけなのです」


 ビリーバラは悲しげな表情で語った。だがその言葉に納得がいかない様子でヘミウェイが返す。


「それでも魔族と言えるのかしら。あなた達は魔族になった日のことを、魔族化した時のあの痛みを、長い時の中で忘れ去ってしまっているのですわ。あなただって、魔族化した時には世界の全てを呪ったはず。それだけの強い意志があったからこそ、わたくしたちは魔族への転生を果たせたはずですわ」


「それがその時の思いを捨て、幸せそうに生きる人間の真似事などと、わたくしには理解出来ませんわ。あなた達はもはや魔族ですらない。教会の連中が言うよに、ただの動く死体に過ぎませんわ。そんな存在になり果てるのなら、教会が主張するように土に還ってしまえばいい。あなた達のようなただの生ける屍に、魔族としての矜持を期待したわたくしが愚かでしたわ」


 ヘミウェイは激昂していた。そのまま部屋を出ようとするヘミウェイをビリーバラが呼び止める。


「結論は、貴族会議の時で宜しいですかな」


 その言葉に、ヘミウェイは振り返らずにこう答えた。


「そうですわね。わが国では貴族会議の結論がもっとも重視される。それは確かな事実ですわ。でもわたくしは貴方の考え方に愛想が尽きましたわ。いくら長命な魔族でも、ただ保身のまま生きる貴方に何の価値もありはしない。今日あなたと話してみて、改めてその事実を深く認識しましたわ」


 そう言って、ヘミウェイは部屋を後にした。


突然ですが次回更新は未定となります。

中途半端な所で恐縮ですが、どうかご了承ください。

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