04 異世界の物品
「……そんなことがあったのですか。今まで多くの苦難を乗り越えて来たのですね」
シルリアスは共感して涙を流す。エミリスも基本的には同じ反応を示していた。だが。
「ひでえなそりゃ。それあたしなら彩亜って子以外助けてやったりしねえぞ。むしろぶっ殺すべきじゃねえのか」
エミリスはレンセを見捨てたクラスメイト達に対して怒りを露わにしていた。ちょうど休憩しにそばに来ていた水樹がその言葉を聞き真っ青な顔になっている。
「……わたし死ななきゃ駄目なのかな」
「うわ当事者がいた! いやまあ、本人に死ねとは言わねえけどよ。普通なら復讐されてもおかしくねえぜ。それが助けてもらってるんだ。それがどれだけ異常なことかは覚えておいた方がいいとは思うけどよ」
「そ、それくらいわたしだってちゃんと分かってるし。だからレンセ君にはどれだけ感謝してもしたりないって思ってるし……」
「全くじゃの。こうして話せば悪い人間ではないとは思えるが、やったことで言えば殺されても文句の言えぬ立場じゃからの」
「……トキナも似たようなことしたって聞いてるけど」
「ぬおっ。おったのか彩亜」
「うん。……でもトキナも封印解いてもらった瞬間レンセに攻撃しようとしたって。結局攻撃に失敗してレンセに介抱されたって聞いてるけど」
「ぐむ。それは……」
「お前もじゃねぇか! それこそ攻撃失敗した時点で反撃されて殺されてもおかしくねえぞ。なんで封印解いてもらった瞬間相手殺そうとしてんだよ!」
「それは……弁明のしようもないの。レンセにはすまないと思っておるし、倒れた妾を殺すどころか助けてくれて本当に感謝もしておる」
「……ここにいる全員。相手がレンセじゃなかったらだいたいみんな死んでる」
「あたしが言うのもなんだがひでぇパーティーだなこりゃ。まあレンセがお人よしだってえことと、そのお人よしのおかげで生かせてもらってる女共で出来てるパーティーだってことはよーく分かった。でもよ、これ以上はいいんじゃねえのか? シュダーディみてえな化物と戦ってまで残りの連中まで助ける義理はねえだろ」
エミリスが真剣な目でレンセに尋ねる。レンセも真剣にそれに答えた。
「うん。僕が普通じゃないってことはトキナさんにも何度か言われた。復讐するならともかく助ける義理も理由もないって。確かにそういう考え方もあるとは思う。でも僕はみんなのことを知ってるから。水樹達のことだって、水樹達がどんな子か知ってるから僕は助けたかったし、ナイト君達のことも僕は出来れば助けたいって思ってる」
「レンセ君……」
「もちろんこれは僕のわがままだし、みんなを危険に晒すことは極力避けたいって思ってる。僕が異常だってことも一応理解はしてるんだけど――」
「レンセさんは異常なんかじゃありません!」
黙って話を聞いていたシルリアスがここで大きな声を上げる。
「そんなひどい目にあってもなお仲間を助けたいと思う心。わたくしはとても素晴らしいと思います。確かにそんなことが出来る人間は多くはないかも知れません。ですがそれは決して異常などではないとわたくしは声を大にして言えます! わたくしはレンセさんの考えに深く共感いたします!」
声を張り上げるシルリアスを見てその場の女子全員が思った。
(あ、この子レンセと同じ匂いがする)と。
「シルリアス様は頭ん中お花畑だからなあ。同じお花畑同士通じる何かがあったのかも知れねえ」
「……レンセの頭はお花畑じゃない」
しばし微妙な空気が流れる。その流れを断ち切るようにレンセが口を開いた。
「とにかく僕達が異世界から召喚されたってことは分かってもらえたと思うけど、改めて僕からも質問させてもらっていいかな? エミリスさんの武器、あきらかに地球の物が混じってるよね? もしかして、異世界召喚の出来る人が教会にもいるの?」
レンセは期待を込めてエミリスに尋ねた。
レンセ自身は魔族化した時点で地球への帰還にあまり重点はおいていない。でも帰還が可能であればその方法は確保しておきたいと考えていた。
これまではボコラムを捕らえることが必要だと思われていたが、ボコラム以外に同種の能力を持つ者がいれば話は変わる。
だがエミリスの返事はあまり芳しいものではなかった。
「あー、マシンガンとかのことなら残念ながらレンセ達の期待には答えられねえと思うぜ。イルハダルが異世界人の召喚を行っている事実は掴んでたし、あたし達も同種の能力者がいねえか世界中を探し回ってた。マシンガンなんかはその中で見つけた能力者が異世界から召喚した物だぜ。でもそいつも人間は召喚出来ねえ。召喚出来たのはあくまで物だけだ。そいつの能力自体がボコラムみたく生き物を召喚出来るような代物じゃなかったからな」
能力自体がボコラムとは別種の物だという回答だった。
「残念じゃが、結局はボコラムを捕らえるしかないということじゃの。じゃがそれがなくとも妾はボコラムを必ず殺すし、主もイルハダルから仲間を助ける以上ボコラムともぶつかるはずじゃ。やる事は変わらぬという事じゃの」
「期待に応えられなくて悪かったな。でもこれが全部あんたらのいた地球の物で間違いねえなら、使える道具はあるかも知れねえ。一応スキルの鑑定が効くからある程度使えてる道具は多いけどよ。上手く鑑定出来ねえ物もあるし、使い方が分かっても作り方が分からなかったり、作り方の理屈まで分かっても再現出来ねえ物も多いしな。あんたらの知識があれば有効活用出来る物もあるかも知れねえ」
「枢機卿達がそれを認めてくれればという前提付きですけれどね」
「あー、あいつら頭堅えからなあ。魔族どころか異世界人まで世界の癌みてえに思ってっから。カルイラの姉御とかもそういうとこあって頭痛えんだけど。協力出来りゃ互いにメリットあるはずなのによぉ」
「その流れをわたくし達がこれから創るのですよエミリス」
「お、おう。シルリアス様絶好調だな」
「はい。わたしくはレンセさんのような方に出会えてとても感激しています。今は魔族と教会の仲も悪いですが、これを解決できればレンセさん達とも協力関係を築かせていただきたく思います。宝物庫にある異世界の物品も活用出来るようになるかも知れません」
シルリアスは目を輝かせてそんな未来を語る。
そんなシルリアスをレンセ以外のメンバーはお花畑な人だと思いつつ話を聞いていた。
ただしレンセだけは共感した顔で目を輝かせシルリアスと意気投合している。




