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クラス丸ごと奴隷召喚 ~至高の黄金球使い~  作者: 濃縮原液
第4章 奴隷オークション
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アナザーside1 旅する聖女

 グラリエン帝国とザンジェビア公国の国境近くを二人の少女が歩いていた。


 一人はオレンジ色の髪をした兎人。そしてもう一人は、青紫色の長いウェーブヘアの平人ひらにんの少女である。平人の少女の方は胸がGカップであった。大きい。


「もうすぐザンジェビア公国に入ります。護衛のほど、宜しくお願いしますよエミリス」


「任せとけって! 聖女様のことはあたしがしっかりと守ってやっからよ」


「……わたくしを聖女と呼ぶのはこの先禁止します。シルリアスと呼び捨てにして下さい」


「お、おう。シルリアス……様よぉ。やっぱ呼び捨てとか無理だわ。様付で勘弁してくれ。貴族の令嬢とか言っときゃそれで十分通るだろうしよ」


「分かりました。ではそのようにお願いいたします。でも話し方はすごくフレンドリーなのに、そういう所にはこだわるのですねエミリスは」


「そう言うなってシルリアス様よぉ。あたしだって一応教会の信徒なんだぜ。教皇様の娘な上に《聖女》の職能まで持ってるシルリアス様を呼び捨てになんて出来ねえよ。っつかそんなシルリアス様がわざわざこれから戦争しようって国に行くこたねえのによぉ」


 対魔族機関に所属する少女、エミリス・イグリットはもう一人の少女の護衛をしていた。


 創世神教会の教皇の娘にして、教会において特別な意味のある職能《聖女》を有する少女、シルリアス・オルニル。


 彼女はある目的のために、エミリスと二人で隠密に旅を続けていた。


「諸国会議の結果はまだ出ていませんが、ザンジェビアとの戦争は恐らく回避出来ないでしょう。グラリエンとザンジェビアの国境近くにあるエピオ領は激しい戦に見舞われるはずです。ですが……エピオ領を治める領主、ビリーバラ・エピオは穏健派に属する魔族と聞きます」


「あー、ビリーバラ・エピオねえ。ホントに実在するんすか? エピオ領にはちゃんと普通の猫人の領主がいるっすよね。一応ザンジェビア公国には魔族の領主もいるっちゃ聞きますけど」


「います。公にこそなっていませんが、教会はエピオ家との繋がりを保っています。エピオ家からの資金援助を受ける代わりに、エピオ領にいる魔族には手を出さないという密約があるのです。ザンジェビア公国に魔族の領主が存在するのには、この密約の影響もあったのですよ」


「マジかよ。ザンジェビアって創世神教会の信徒がいねえからああなんだと思ってたけど、教会が裏で認めてたってわけかよ。教義じゃ魔族はゾンビみたく言われてんのに、信じられねえ話だな」


「……それは教義の方が間違えているのです。聖典には魔族に関する直接の記述はないのですよ。長い歴史の中で教義は変質を遂げています。ビリーバラ氏が魔族になった当時には、魔族の教徒も普通に存在していたのですよ。ですがその後の教会の変質により、今では疎遠となってしまってますが」


「うあー。一応あたし対魔族機関の所属なんすけど。それが事実ならホントとんでもない話っすね。カルイラの姉御とかがその事実知ったら卒倒しちまうんじゃないすか?」


「カルイラなら知っていますよ。でも、その上で今の教会が正しいと彼女は考えています。お父様や他の枢機卿達も同様です。そのせいで教会は今の形になっているのですから。そしてザンジェビアとの大戦が始まれば、この流れは決定的な物となります。ビリーバラ氏との密約を破りエピオ領へと進軍すれば、もはや全ての魔族を滅ぼすまで戦いは続くでしょう」


「それをなんとか止めたくて、か。シルリアス様らしいっちゃそうなんだけどよ」


「本来倒すべき敵は、シュダーディと彼の率いるイルハダルのみのはずなのです。彼らは誘拐や略奪など、これまで数多くの罪を犯してきました。それは許される物ではありません。それを支援するザンジェビアとの戦争も避けられはしないでしょう。ですが少しでも犠牲を減らせるのなら、わたくしはその為に出来ることをやりたいのです」


「それでビリーバラ氏を説得……か。でも本当に出来るんすか? シルリアス様のやろうとしていることって、あたしに言わせりゃ降伏勧告に近いもんだぜ。……領民には手を出さないことを条件に、エピオ領を素通りさせろなんてよ」


「軍の通過に伴う損害ももちろん賠償するつもりです。わたしくを支持して下さる貴族からの約束も取りつけてあります。ですが、お父様や枢機卿達を説得するためにも、無害通行権は認めてもらわねばなりません」


「出来なきゃ戦うしかねえってわけか」


「その通りです。難しい交渉になるでしょうが、多くの人命がかかっています。わたくしは自身の存在をかけて、絶対に説得を成功させて見せます」


 こうしてエミリスとシルリアスの二人の少女は、エピオ領へと向けて歩みを進める。


 シルリアスの行動は純粋に彼女の心根から出たものだ。彼女は魔族を完全な悪とは思っていない。そして現在の教会はおかしいとも考えている。


 だからここで魔族との関係を持ち、ゆくゆくは教会が持つ魔族への偏見もなくしたい。そうした思いから、シルリアスはこの旅を続けていた。



 だが、エミリスの事情は少し違う。



 彼女は教義に比較的ルーズな所があり、ついでになぜかシルリアスと仲が良かった。教会の教義に疑問を持つシルリアスと話があったという面もあるかも知れない。


 教会内に同志が少ないシルリアスにとって、エミリスに同行を求めたのは自然な流れだったと言えるだろう。


 そしてエミリスも、仲の良いシルリアスの頼みだからこそこの旅に快く同行している。


 だが、エミリスにはもう一つ思惑があった。



 第三の勢力。それをエミリスは探っている。



 前回のイルハダルとの空中会戦。あの場には、確かに第三の勢力が存在した。エミリス自身も赤髪の魔族がボコラムと戦っていたのを目撃している。


 戦いの後、上司のカルイラはイルハダル以外の魔族について調査を開始していた。もっとも、カルイラ本人は諸国会議に出席するためその調査は部下達に一任されていたが。


 そしてその中の一人がエミリス・イグリットなのである。


(イルハダルと敵対する魔族の勢力。そんなのが本当にあるとしたらビリーバラ・エピオは最有力に怪しい存在だ。もしこれが当たりだったら、戦争に関与しないよう頼むだけじゃなく仲間に引き込むのも可能かも知れねえ。そう都合よく話が進むと思うのは楽観的すぎかも知れねえけどよ)


 それぞれ胸に思惑を秘めながら、二人の少女はザンジェビア公国へと入って行った。


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