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クラス丸ごと奴隷召喚 ~至高の黄金球使い~  作者: 濃縮原液
第4章 奴隷オークション
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09 水樹の心

 レンセは芹を百六十万エフで落札した。


 他の男達はすでにレンセと競り合うことをあきらめていたが、やはり黒髪の奴隷は珍しいらしく、出せる金額までは勝負に出る。


 だがやはり百万を大きく超える金額を出すレンセを見て、男達は完全に戦意を喪失させた。


 そしてオークションは終了となる。



「では別室で奴隷の引き渡しとなります。その前に落札料金を頂きますが構いませんね」


「ええもちろん」


 レンセは金貨を入れた袋を開ける。中には四千万エフ、四千枚もの金貨が入っていた。


「これは……これほどの資金をお持ちでしたとは。御見それいたしました。四人の奴隷に五百万エフ以上もの金額を支払われる方も稀ですが、資金はそれ以上に余裕があったようですね。これならもっと多くの奴隷も落札出来たのでは?」


「……僕は奴隷商をやってるわけじゃないからね。それより早く四人に会わせて欲しいな」


「失礼致しました。お客様が落札された奴隷は全てフィメール商会からの出品となっております。引き渡しはそちらでお願い致します」


 そうしてレンセは舞台の奥へと案内される。奴隷の受け渡しは一人ずつ違う部屋で行われるとのことだった。


 ここでレンセは見覚えのある顔に遭遇する。


 グラリエン帝国に来た初日に会った、芹達を出品した奴隷商の男である。


「本当に全員お買い上げ頂けるとは。この上なく嬉しく存じます。それも高い金額で落札して頂き、お陰様で当商会の株も――」


「悪いけど少し黙ってくれないかな。僕はこうして資金も持っていた。でもそちらの顔を立て、穏便に済ます為に二週間も大人しく待っていたんだ。本来すぐに済ませられたものを待たせた意識だけは持ってて欲しいかな」


「それは――大変失礼いたしました。ではすぐにご案内致します。立会いの方は――」


「いらない」


「失礼。ではどうぞお入りください」


 そうしてレンセは小部屋へと入る。


 中には水樹が立っていた。



 水樹の顔には不安の色が浮かんでいる。単純に助けを喜ぶ者の顔ではなかった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 水樹は傭兵達に掴まった後、飛空艇の中で芹を非難していた。


 なぜ、レンセに彩亜を助けるように言ったのかと。彩亜はレンセを刺した一番の主犯のはずなのにと。


 水樹達は傭兵に掴まる前、カルイラという強敵から彩亜に命を救われていた。だがそれでも水樹は納得できない。自分達はともかく、レンセに彩亜を助ける理由などないはずではないかと。


 だがここで、水樹達は芹の考えを聞かされた。


 なぜ死んだはずのレンセが生きて、再び要塞に戻って来たのかと。


 レンセの力でも絶対に助からぬあの状況で、だがレンセは生きていた。それはレンセ以外の誰かが何かしたからじゃないのかと。そしてあの時動けた者は、彩亜以外に一体誰がいたのかと。


 そこまで聞き、彩亜の方に向かった時のレンセの顔を思い出して、水樹は芹の言う通りなのだと頭ではなく心で理解する。


 そして同時に、あの時何も出来なかった自分が助けてもらえないのは、当然だったのだと水樹は思う。


 むしろレンセにとってみれば、彩亜以外はレンセを見殺しにした復讐対象。助けられるどころか、復讐されてしかるべき相手なのではないかと。



 その水樹の思いは、こうしてレンセに奴隷として買われた今も続いている。



 会場にレンセを見つけた時は反射的に喜んでいた水樹も、時間が経つにつれレンセの目的に疑問を感じる。


 自分はレンセに助けられたのか? それとも復讐する為に、さらなる絶望を味あわせる為にこうして奴隷として買われたのか?


 水樹にはどちらか判別することが出来ない。



 だから水樹は、ただ自分の思いだけを正直に言った。


「レンセ君! あの時、わたしは何も出来なかった。レンセ君を助けたいって心ではずっと思ってたけど、そんなこと、今言っても何にもならないって分かってる! でも信じて欲しい。わたしに恨みがあるなら、せっ……性奴隷として、ひどいことしてもいい。でもお願いだから捨てないで! こんな誰も知らない世界で、どんな奴に買われるかも分からない奴隷として売られるのはもう嫌なの! だからお願い! 一生懸命尽くすから、どうか見捨てることだけはしないで下さい」


 水樹は一気にそうまくしたて、そしてそのまま泣き崩れる。


 同時に水樹は、己の浅ましさに心が引き裂かれる思いを感じた。生贄にされるレンセを見捨てた自分が、そのレンセに見捨てることだけはしないで下さいなどと。良くもそんな恥知らずなことが言えたものだと。



 一方予想もしていなかったことをまくしたてられ、レンセはしばし止まってしまった。だがすぐに気を取り直す。


 そして水樹にとっては、まだ救われてなどいないのだとレンセは気付いた。レンセは泣き崩れる水樹の肩に優しく手を置く。


「見捨てるも何も、僕は初めから水樹を奴隷にするつもりもないよ。僕は水樹達を助けに来たんだ。僕を生贄に指名したわけでもない水樹に恨みもない。それよりも、僕は水樹達が捕まってるのを知ってて今日まで何もしなかった。水樹達が辛い思いをしてるはずだと分かった上で、自分達の安全を優先して放置していたんだ。だから僕の方こそごめん。二週間も待たせて、すごく辛い思いをさせちゃったね」


「ううん。助けてもらえるだけで……わたしは」


 レンセの言葉に、水樹は大粒の涙を流す。


 そもそも水樹達が捕まったのもレンセのせいではない。あの空中会戦の中、外に出る決断をした時も、レンセが助けてくれるかも知れないなどとは芹も一言も言わなかった。


 水樹達は自分の意志で、自分達自身の力で逃げ出すつもりであの戦場へと飛び出したのだ。


 その結果奴隷として捕まった過程において、水樹にはレンセを非難する理由など全くない。


 それにレンセの言う自分達の安全の中には、芹や自分達も含まれていることも水樹は理解出来ていた。


 レンセの力なら、きっと奴隷商の元から力づくで水樹達を助けることも出来ただろう。だがそれをやれば、全員がお尋ね者となってしまう。逃亡奴隷となる水樹達が、次に捕まればどうなるかなど考えるまでもないだろう。


 その危険を回避するために助けが遅れたことを、非難する気持ちなど水樹には微塵も沸かなかった。


 それ以前に本来助ける理由もない自分達を助けに来たと言うレンセに、水樹には感謝の思いしかない。


 自分は生贄にされるレンセを見捨てることしか出来なかったのに、そんな自分をレンセは見捨てなかった。


 その事実だけが、水樹の心には強く刻まれていた。


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