07 オークション開始
「ではこれより、オークションを開始いたします。本日の商品は奴隷四十八名。もちろん良質の奴隷が揃っています。また今回は珍しい奴隷も揃えておりますのでどうぞふるって御落札下さい」
奴隷オークションが開始される。
オークションの会場は普段は劇場として使われている物だ。その劇場のステージに一人ずつ奴隷が紹介されるような形となっている。
「まずは一人目の紹介となります」
一人目の奴隷は兎人の女性だった。美しい顔に整った体系。最初からレベルの高い性奴隷の紹介である。
ちなみにオークションに出される奴隷は全て性奴隷だ。奴隷には家事などをさせる労働奴隷も存在するが、戦闘用の奴隷などは存在しない。
その理由は奴隷の服従方法にあった。
この世界には奴隷に命令を強制させる隷属の首輪のようなものは存在しない。が、代わりに封印の首輪というものが存在する。
奴隷にはすべからくこの封印の首輪が嵌められていた。
封印の首輪は体外に魔力を放出できなくさせる効果がある。HPによるバリアなどは消失しないが、魔力による身体強化も無効化される。
そのため封印の首輪をつけられた者は、地球にいる人間と同程度の戦闘能力しか発揮できなくなってしまうのだ。
この世界にいる人間は一般人でもある程度魔力を扱える。そのため封印により魔力を制限した奴隷であれば力でいう事を聞かせることが可能なわけだ。
だが戦闘能力がなくなるために、戦闘用として奴隷を使役するのは不可能だった。
そのためこの世界においては、日常の雑務をさせるための労働奴隷か、性処理目的の性奴隷しか存在しないわけである。
そして労働奴隷は価値が低く、わざわざオークションに出品されることもない。
そのためこのオークションに出品されている四十八名の奴隷は全てが性奴隷であった。
(トキナさんの首に嵌められてた首輪と同じだ)
そんなことを思いつつ、レンセはこの場にトキナがいなくて良かったと思う。
この場にはレンセ一人だけで来ていた。
元々奴隷オークションは大勢を連れてくるようなところではない。それにたくさんの女性達が性奴隷として競りにかけられるところを、彩亜やトキナ、アロなどの女性陣に見せるのは良くないという思いもある。
男であるモッフェルを連れてくる選択肢はなくもなかったが、芹達が奴隷として衆目の目にさらされる所をわざわざ見せたいとは思わない。
そのためレンセは一人でオークションへと参加している。
オークションは順調に進んでいった。
出される奴隷はどれも綺麗な女性である。年齢や種族などに幅があるが、レンセから見ても美しいと思える女性達であった。
だがレンセが彼女達に心動かされることはない。レンセはただ相場のみを見ていた。
事前に聞いていた通り、五十万エフ前後での落札が多い。
普通に店で売られる労働奴隷はおよそ十万が相場である。五十万の時点で破格の値段とも言える。ただし、値段にはかなりの幅があったが。
安い奴隷は二十万で落札される者がいる一方、最高額は八十万の者もいた。
そうして九人目の奴隷が落札され、十人目の女性が舞台に上がる。
芹と共に要塞を抜け出した少女の一人、高橋 水樹である。
裸ではないが、体系の分かる薄い絹のような布地の服を着せられていた。透けてはいないが、水樹のCカップの胸の先端の形まで分かる服装である。
そんな格好で、泣きはらした顔で水樹は立っていた。
「おお、黒髪か。珍しいな」
「体型はごく一般的だが、若いし顔も悪くない」
水樹が舞台に上がったところで会場が少しどよめく。やはり黒髪の奴隷は高くなりそうだとレンセは感じた。
「珍しい黒髪の性奴隷でございます。年も若く、顔も可愛らしい少女です。奴隷になってからの日も浅く手垢のついてない状態ですよ。では十万からのスタートとなります」
「二十万!」
すぐにレンセは声を上げた。入札額を釣り上げるのは二倍までが礼儀とモッフェルから聞いている。その限界額まで釣り上げる。
「四十万だ」
「八十万!」
四十万までは当然予想の範囲内。レンセはすぐにその倍の八十万で切り返した。八十万は今までいた九人の中での最高額である。
一瞬会場の動きが止まった。
何人かの男がレンセの顔を窺っている。レンセにどれだけ資金の余裕があるか見定めようとしている顔だ。
だがすぐに一人の男が動いた。
「九十万エフだ! 俺は九十出すぞ」
「おお、九十か。最高額が更新されたな。ここ最近でも高い額だ、こりゃもしかすると百万越えも――」
最高額の更新に会場にどようめきが起きようとする。だが
「百八十」
レンセの声で会場は一気に静まり返った。
オークションでの性奴隷の落札額は平均五十万。高くても百万を超えるのは稀である。百五十万を超える額は、少なくともこの年のオークションでは初めてだった。
「百八十! 百八十万エフが出ました! 他にはいらっしゃいませんか?」
司会の男が見渡すが、会場は静まり返っていた。
「では、百八十万エフで八番様の御落札となります」
会場に再びどよめきが走る。
「確かに黒髪は珍しいが……」
「スタイルで言やさっきの八十万の奴の方がな」
「そういう趣味の方ですかね。いやそれ以前にあの子……男?」
「いずれにせよあの額は異常だ。いくら珍しくても性奴隷に百八十万はねえ」
全員がありえないと言った顔つきであった。
恐らく百万を出せば水樹は落札出来たであろう。だが最初にありえない額を出すことで、絶対に落札するという意思をレンセは男達に示す。この後もレンセは同じ調子で落札し続けるつもりだった。
そうして落札された水樹が男に連れられ舞台を後にする。
その水樹は、信じられないと言った顔でレンセを見ていた。唇が細かく振るえており、思わず声を出しそうになっているのが分かる。
だが、水樹はそれを必死で抑えていた。様々な感情の入り混じった目で、ただレンセの顔を一心に見つめながら水樹は舞台の奥へと消えて行く。
(水樹……泣きはらした顔していた)
レンセは胸が痛むのを感じる。だがオークションはまだ終わっていない。感傷に浸るのは後だと思い直し、レンセは再びオークションに集中する。




