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クラス丸ごと奴隷召喚 ~至高の黄金球使い~  作者: 濃縮原液
第4章 奴隷オークション
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05 掃除屋モッフェル

「こいつはヘレタ・モッフェル。ギャンブル好きの駄目魔族なのにゃー」


 レンセ達は傭兵登録の手続きを終え宿へと帰っていた。レンセが出会った壮年の魔族も一緒である。そしてこの魔族の男、アロの知り合いだった。


「いやホントホント。おじさんエピオ家には頭上がんないんだわぁ。借金がもう凄くって。おじさん魔族だから人付き合いもあまり出来ないしね。その寂しさのせいでついつい賭場へと足が向かって」


「ただの駄目人間にゃー」


 ヘレタ・モッフェル。Aランクのベテラン傭兵である。だがそれはあくまで表の顔、彼は穏健派の魔族達の間では『掃除屋』と呼ばれていた。


 穏健派の魔族には戒律のようなものがある。それは人に危害を加えず、それにより魔族が迫害されるのを防ぐためのものだ。


 だがそれを破る者も一定の数が存在する。モッフェルはそうしたはぐれ魔族を闇に葬る魔族の掃除屋だった。


「でもおじさんそんな強いわけじゃないからね。イルハダルの魔族とはとてもじゃないけど戦えないよ。そこの二人、レンセ君にトキナちゃんだっけ。ぶっちゃけ君らの方がおじさんより強いよ~」


「ちゃんづけはやめよ。妾はこれでも五十年は生きて――」


「じゃあやっぱりちゃん付けだ。おじさんは二百歳超えてるもんね~。魔族で五十はまだひよっこだよ。それに魔族として五十年外で暮らしたわけでもないようだしねえ。二人共魔族としてはまだまだひよっこのはずだ」


「ぐぬぬ……」


「おじさんより強い君らに戦闘で教えることは何もないけど、傭兵や魔族としてならどちらもおじさんは先輩だ。おじさんに出来る範囲ならいろいろ教えてあげちゃうよ~」


 そうしてレンセ達はモッフェルと行動を共にする事となる。


 レンセが殺した三人の傭兵はモッフェルが倒したものとして処理しており、その恩もあってレンセが彼の好意を断ることはなかった。


 普通に賞金首だった三人を倒した報酬はモッフェルががっつり横取りしていたので、アロは「銭ゲバにゃー」などと叫んでいたが。


 ちなみに男達の所持品も報酬として受け取っており、こちらは全てレンセ達が貰っていた。これには芹達が使っていた装備品も含まれている。


「おじさんが貰っちゃった賞金分はとりあえずレクチャーで返すってことで。てわけで依頼を受けちゃいますか。おじさんいると便利だよー。なんたっておじさんAランクだから。おじさんが受けられるギリギリの高難度依頼をバンバンこなして君らのランクも一気に上げちゃおう」


 そうしてレンセ達の傭兵生活は始まるのであった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 草原の中を青い豹のような魔物がかけている。それをレンセの黄金球が追っていた。


 三つの黄金球がぴたりと魔物に併走している。豹型の魔物は左右と上を抑えられ速さで黄金球を振り切るしかない。


 だが、レンセにとって豹型魔物のスピードは全く持って遅かった。


「えい」


 豹型魔物の力を把握したレンセは興味を失った顔で魔物を倒す。三つの黄金球がそれぞれ魔物の体を貫通し、豹型の魔物は息絶えた。


 離れて見ていたモッフェルが思わず感嘆の声を上げる。


「黄金球……本当にすごいな。おじさん昔見たシュダーディのこと思い出しておしっこちびりそうになっちゃうよ」


「モッフェル汚いにゃー」


 傭兵の依頼には様々な種類がある。その中でレンセ達は街の近くに出る魔物の駆除任務を主に引き受けていた。


 だいたいBランクの傭兵パーティーがこなす難易度の依頼である。モッフェルはAランク傭兵だが一匹狼だった。そのため受けられる依頼の難易度は一段下がる。


 今はEランク傭兵となったレンセ達とパーティーを組んでいる。だがEランクの者をパーティーに加えることは、足手まといと見られこそすれ受けられる依頼の難易度は上がらない。


 だがそれでもEランクのレンセ達がBランクの依頼を受けられる時点でモッフェルの存在はありがたかった。


 そしてBランク相当の討伐依頼は、レンセとトキナがいればあまりに余裕であった。


「本当はどちらか一人で十分なんだけどね」


 汗一つかかずにレンセがみんなの元へと戻ってくる。


「妾達は魔族化した時点でこの世界のトップクラスに躍り出てしまっておるからの。敵は同じ魔族か教会の対魔族機関くらいのものじゃ」


 魔族になった時点でこの強さは当然だとレンセとトキナは思っていた。だが。


「君達二人の強さは異常だよ」


 モッフェルの見解は違っていた。


「今レンセ君が倒した豹の魔物も、おじさんはダメージ覚悟でやっとで倒せるレベルの魔物だ。レンセ君達にはピンと来ないかも知れないが、普通の魔族より強い魔物はごろごろしてる。魔族って言うのは、みんながみんなそんなに強いものじゃあないんだよ」


 レンセ達はモッフェルからたくさんのことを学んだ。


 この世界の常識一般について、傭兵の仕事やその暮らしについて。


 そして魔族がどういうもので、穏健派の魔族がどう暮らしているかについて。


 魔族化は、魔族となった物に様々な変化をもたらす。力も強くなりはするが、一番大きな変化は不老化と長寿、これに尽きるというのがモッフェルの見解だった。


「一応だいたいの人は魔族化時にステータスも上がるけどねえ。君達ほど異常な上がり方はしない。君達二人がそれぞれ特別ってのもあるんだろうけど、やっぱり……君らが異世界人というのが一番の原因なんだろうねえ」


 地球人は魔族化しやすいのが特徴だとレンセ達は聞いていた。それは事実だろうとモッフェルも言う。だがそれに加えて、魔族化時の力の上昇が大きいのも地球人の特徴かも知れないとモッフェルは語った。


「この世界の人間がそうそう魔族にならないって言っても、世界にはたくさんの人があふれている。おじさんが知る穏健派の魔族だけでも百人近くはいるからねえ。でも……彼らは総じて弱い。こう見えておじさん、穏健派の魔族の中では実は一番強いんだよ。穏健派の魔族の力なんてそんなものなのさ。対魔族機関の連中に普通に駆られるレベルが大半」


 そしてモッフェルは悲しげな顔でこう言った。


「だからまあ……おじさん達じゃあのシュダーディとは戦えないんだ。瞬殺されて終わるのがオチ。……ビリーバラさんがレンセ君にかける気持ちも分かるよ。今持ってる十一個の黄金球でも強いけど、君が充分なマテリアルをその手にすれば、本当にシュダーディさえ倒せるんじゃないかって思えてくる」


 レンセ達は一週間近くモッフェルと行動を共にしていた。その間に、モッフェルもレンセ達の力に希望を見出すようになる。だが……モッフェルの表情は硬かった。


「イルハダル、魔族……他にもこの世界が抱える問題は、本来君達にはなんの関係もないことだ。前触れもなしにこんな異世界に召喚された。君達は完全にただの被害者なんだからね。本来この世界とはなんの関わりもない君達に、期待をかけるのが間違ってるってことくらいおじさんにだって分かる。でも出来るなら、どうかあのシュダーディを倒して欲しい」


 レンセ達ならイルハダルにも勝てるかも知れない。だが本来、異世界人であるレンセ達にはこの世界の事情は関係ない。そんなレンセ達へと希望を見出すことに、モッフェルは自責の念を感じていた。


 そんなモッフェルに、レンセはこう言葉を返す。


「僕達は元々この世界の人間じゃないから。この世界のことは関係ない。もし世界を救ってくれなんて言われても、僕だって理由なしに引き受けたりなんかはしない。でも……イルハダルは別だよ」


 レンセは意志のこもった瞳で語る。


「要塞では色々なことがあった。そして生贄にされて、僕は僕を生贄に指名した六人のあの時の表情を今でもはっきり覚えている。僕があの六人を心から許せることはきっと一生ないと思う。でも――」


「あの六人だって、こんな世界に飛ばされなければあんなことにはならなかった。全ての一番の原因はイルハダルにある。だからその責任は、ちゃんとイルハダルにとってもらうよ」


 レンセの今一番の目的は、クラスメート達の救出である。


 だがそれら全てのそもそもの原因。それを作ったイルハダルを放置する選択肢などレンセには始めからなかった。


「この世界のためなんかじゃなく、僕自身の問題として。イルハダル、そしてシュダーディは僕が倒すよ。彼らは僕達全員の人生を滅茶苦茶にした。もし地球に帰れても、僕達はもうあの頃の自分には戻れない。彼らは僕達全員に取り返しのつかないことをやったんだ。その責任は、彼らに絶対とってもらうよ」


 レンセは強い意志を持ってそう宣言するのであった。


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