04 謁見
レンセは畳んだ制服を黒ローブ、イルハダルのメンバーの一人へと渡して部屋を出た。
部屋の外も、壁、床、天井……全てが鉄で出来ている。どうやら最初の部屋だけが鉄に覆われていたわけではないようだ。
鉄で出来た廊下は青白く発光する不思議な石で照らされており、ファンタジーな異世界と言うより、SFじみた印象を与えていた。
その廊下でレンセは新しい服をもらう。
イルハダルのメンバーが着ているのと同じ物だ。その黒いローブだけをレンセは裸の上から被った。
「今から貴様らをシュダーディ様の元へと連れて行く」
ボコラムと数人の男に連れられ、レンセ達は長い階段を上る。
二階分ほど階段を登ったところで、レンセ達は大きな扉の前へと到着した。
ここがイルハダルの指導者、アバカル・シュダーディの部屋だとレンセは直感する。その扉をボコラムが開け、続いてレンセ達も中へと入った。
部屋の中は、どことなく王の間を思わせる。
周りが銀色に輝く鉄で出来ているのは同様だが屋根の形がドーム状になっていた。また床には青いカーペットが敷かれており、この場所が他とは違うことを感じさせる。
その部屋の奥、質素だが高級感のある椅子の上にアバカル・シュダーディは鎮座していた。
シュダーディは他の者とは違い装飾のついた灰色のローブをまとっている。同色の長い髪に、同じく灰色の長いあごひげが特徴的な初老の男。だが色味の少ない姿の中、両の目だけが不気味に赤く光っている。
「ふむ。二十六……七人か。今回は多くの異世界人を召喚出来たなボコラムよ」
「はっ。ありがたきお言葉痛み入ります」
そう言ってボコラムは頭を下げる。
生徒達も、全員が頭を下げさせられた。その生徒達の様子を見てシュダーディが優しく声をかける。
「これでは顔が見えぬでの。皆の者、顔を上げよ」
生徒達はひざまずいたまま顔だけを上げる。
生徒の顔は一様に恐怖で引きつっていた。先程のショックから立ち直れていない者が多いのだ。
「……覇気のない顔じゃ」
「はっ! こちらの力を少し見せましたゆえ、萎縮しておるようです」
「なるほどの……ん」
ここでシュダーディの視線が一人の少年を捉える。レンセであった。
「貴様は目が死んでおらぬな。……名はなんと言う?」
「……国松 煉施です」
名前を答えながら、レンセはやられたと思った。よりにもよって敵のトップに、顔色で目を付けられるとは思ってもいなかったのだ。
「ふむ。せっかくじゃ国松 煉施よ。貴様にいくつか質問を許そう。ワシに聞きたいことはないか? ワシの気分次第では、二、三個の質問には答えてやるぞ?」
試されている。レンセはそう感じた。
既に危険人物として認識されているのかと、レンセは自分の顔に冷や汗が垂れるのを感じた。
だが同時に、これはチャンスだとレンセは思う。
現状では何をするにも情報が足りない。それを向こうから聞いていいと言っているのだ。多少のリスクを負ってでも、ここは質問すべきだとレンセは思った。
まずは、場所。
ここが一体どんな所かを知る必要がある。近くに街はあるのか? この建物の立地は平地か山か。それによって、ここから逃げる際に必要な物が見えてくる。
ただし、直接この場所がどこか聞くような真似はしない。それではここから逃げ出したいと言っているようなものである。
だからレンセはこう質問した。
「質問して良ければ、神の塔について知りたいです。僕達が今どんな所にいるか分からないですが、いずれはここを出て、その塔のある場所に移動することになるのでしょうか? それとも神の塔が近ければ、ここを拠点にその塔に登ることになるのでしょうか?」
レンセ達は神の塔を攻略するために呼ばれたと聞いている。だからその塔について質問するのは自然だとレンセは判断した。
「なるほどの。確かにお前達にはいずれ神の塔を攻略してもらうことになる。その塔について知りたいと思うのは当然じゃ。ならば……今から見せてやろう」
……見せる?
シュダーディの言葉にレンセは言葉に出来ない不安を覚える。
そのレンセの不安は的中した。
シュダーディが見せてやろうと言うのと同時に、ドーム状につながる壁と天井が浮かび上がる。
そうして出来た隙間から見えた物は、どこまでも続く青い空。その中で……視界の下に雲が見える。
つまりレンセ達のいるこの場所は――
――雲の上だった。
街が近いかどうかとか、始めからそんな次元の話ではなかったのだ。
目の前に広がる光景に、生徒達の全員が圧倒される。
同時に自分達はここから逃げられないのだと、全員が本能的に理解した。