03 穏健派魔族の長
「ビリーバラ・エピオ。聞いたことのある名じゃ。豊富な資金力により教会から唯一討伐を免れておる魔族。……てっきり都市伝説の類かと思っておったのじゃが」
アロはレンセを探しに来るまでのあらましを全て話した。
「そうにゃ。その叔父が黄金魔――レンセに興味があるって言ってるにゃ。可愛い少年と一度会ってみたいって」
「……その人って女?」
「叔父は男にゃ!」
「変態かの?」
「そうにゃっ! や、違うのにゃ! レンセを食べる気はないってちゃんと言ってたにゃ。食べられたりしないから一緒に来て欲しいのにゃ」
その後アロは魔族の事情について説明する。
ビリーバラは穏健派の魔族をまとめる長のような存在であり、イルハダルの存在を疎ましく思っていた。そうした中魔族でありながらイルハダルと戦うレンセの存在を発見する。
そしてビリーバラはレンセに興味を持ち、是非一度会ってみたいというような内容だ。
「それに叔父はオリハルコンを大量に持ってるにゃ。レンセの能力は死ぬほどお金かかるのにゃ。でも叔父がパトロンにつけばいっぱい黄金球を使えるにゃ。叔父が持つオリハルコンマテリアルの量は一万トン。黄金球にしてにゃんと一千万個分の量にゃのにゃ!」
一千万。その言葉にレンセは思わず驚く。
シュダーディを最強足らしめている主力攻撃《百万の鉄》。これは百万個もの鉄球を操る最終兵器のような技である。
レンセはこれに正面から挑むのは不可能だと考えていた。それはレンセの能力的な理由でなく、オリハルコンの価値の高さのせいだ。
レンセはたった一個の黄金球を売ることにより一千万エフ(一エフがだいたい日本円の一円と同じ価値)もの大金を得ていたが、これは逆に黄金球を集める難しさも示していた。
ソロクリア報酬を狙えばドロップアイテムとして集めることは可能だろう。だがそれでシュダーディと同じ百万個の黄金球を集めるのは余りに非現実的だ。
そしてそれを金銭で得ようとするなら十兆エフもの資金が必要。これはドロップ狙い以上に無理な相談である。
だがアロの叔父、ビリーバラ・エピオはそれのさらに十倍、一千万個分ものオリハルコンを持っているという。金銭に換算すれば百兆エフもの大金だ。
ビリーバラはこの異世界において堂々一位の大金持ちであった。
レンセはイルハダルを倒す為に誰かの助力を得る必要があると考えていた。それは武力的な助けを想定してのものだったのだが、ここに来て予想外の助力が得られるかも知れない。
ビリーバラ・エピオ。イルハダルと対する為に絶対に会う必要のある人間だとレンセは確信する。
だが。
「今は無理だよ」
レンセはアロの申し出を退ける。
「にゃ、にゃんで?」
「ビリーバラさんには是非会いたい。僕の方からアロちゃんに案内をお願いしたいくらいだよ。でも今は駄目なんだ。二週間後にここで開催されるオークション。それに僕は出席しなくちゃならない」
「二週間後って……それ奴隷オークションなのにゃ! レンセは性奴隷を買うつもりにゃ? すでに二人も相手いるのに。とんでもない絶倫魔族にゃー! アロもおいしく食べられてエッチな性奴隷にされちゃうにゃー!」
「違うよっ!」
「違うってどこがにゃ? アロはちゃんとおいしいにゃ! むしろレンセを魅了してアロの方がエッチなご主人様に――」
「じゃなくてっ! 助けたい人がいるんだよ!」
「おお……にゃー」
ここに来てアロはレンセの行動を思い出す。アロは遠見の魔道具によりレンセを見ていた。レンセが飛空艇を追ってグラリエンに入ったことをアロは知っている。
「なんだか事情がありそうにゃ。アロに聞かせて欲しいのにゃ」
レンセはこれまでのいきさつをアロに話して聞かせた。話を聞きアロは大粒の涙を流す。
「うっうっ、ひどい話にゃぁ。でもでも、レンセと彩亜が再会出来て良かったにゃぁ。ぐすっ……さっきはレンセのこと絶倫魔族とか言ってごめんなさいなのにゃぁー」
「うん。分かってくれたのなら良かったよ」
「うん。その芹って子も助けてあげるべきなのにゃ。叔父に言ってアロお金もらって来るなのにゃぁ」
「いやお金はいいよ。手持ちの資金で足りる計算だし」
「にゅ。確かにそうなのにゃ」
「それに会う前から借りを作るわけには行かないからね。アロちゃんの叔父が悪い人とは思わないけど、会談には対等の立場で臨みたいから」
「レンセ意外としっかりしてるのにゃぁ」
「まあこの辺はね。ビリーバラさんと利害は一致するはずだけど、穏健派の魔族の為にシュダーディを排除したいビリーバラさんと、クラスのみんなを助けたい僕とで意見が対立することもあるかも知れない。それに芹達のことはビリーバラさんとは関係ないから。自分で対処出来るならそうしたいんだ」
「うん、分かったにゃ。レンセ顔に似合わず男らしいのにゃ」
「……うんありがとう。それで、だからオークションが終わるまでビリーバラさんの所には行けないんだけど」
「アロもレンセのお手伝いするのにゃ!」
「手伝いって?」
「レンセ達は情報も欲してるとアロは見たのにゃ。特にイルハダルと敵対する組織の情報にゃ。その情報を得るのに適した仕事をアロは知ってるにゃ!」
「それって……」
「傭兵にゃ! 今回の戦いにも多数の傭兵が参戦したにゃ。他にも傭兵は世界中の戦いに参加してるにゃ。そしてこの首都エンバランには傭兵ギルドの本部があるにゃ! それに傭兵は稼ぎもいいしにゃ! 仲間の女の子達を落札するにもお金は多い方がいいはずにゃ!」
「……確かに情報は得られそうだね」
「にゃっ! じゃあさっそく登録しに行くのにゃ! アロが案内してやるにゃー!」
こうしてアロによる半ば強引な勧誘により、レンセ達は傭兵ギルドの本部へ向かう。