09 飛空艇を追って
「飛空艇が離れて行くの」
小さな森に身を隠しつつ、レンセ達は上の状況を注視していた。
レンセは唇を噛みしめている。危険を冒してでも芹達を助けに行きたいのがレンセの本心だ。
「レンセ……」
「気持ちは分かるが今はこらえよ。今の主でもシュダーディにはまだ勝てぬ。行っても無駄死にじゃぞ」
レンセ達の最優先目標は彩亜の救出にあった。最初から、二人以上を助けるのは難しいという認識である。
だがレンセは芹達の姿を目にした。
目にした上で、助けに行けないことにレンセは苛立ちを感じてしまう。
「妾には判別がつけられぬが、仲間の魔力は消えておらぬのじゃろう。なればまだ機会はある。今主が死んでしまえばそれこそ終わりじゃ。じゃから今はこらえてくれ」
レンセは空中要塞を睨みつつ感知能力を全開にしていた。
妨害魔素の効果も消え始めており、レンセは地上からでも芹達の魔力を感じ取れる。
ただし戦場での細かい位置まで分かるわけではない。
イルハダルと創世神教会の勢力が入り乱れる中、芹達がどうなっているのかうかがう術はレンセにもなかった。
だが三隻目の飛空艇が離た時レンセは異変を察知する。
「芹が乗ってる。まゆ達三人も一緒みたいだ」
「……逃げ出したのはその四人だけだと思う。他の子はみんな心が弱ってたから」
「じゃとすると、優先すべきも離れていった四人という事か。他の者が逃げ出しておらぬのなら、そやつらの境遇は変わらぬはずじゃからの。四人を連れておる者が、教会の人間かただの傭兵かが問題じゃが」
「……わたしが見た人。対魔族機関の機関長とかいう人は芹達を殺そうとしてた」
「その話は本当か?」
彩亜の言葉にトキナは驚く。
魔族化した自分達が殺されることはあっても、ただの異世界人である他の生徒が殺されるとはトキナは考えていなかった。
「……異世界人は魔族の温床って言ってた。……だから魔族化する前に殺すって」
「確かに妾達は魔族化への適性が高いからこそ召喚された。じゃが……そこまで教会が攻撃的とは」
自身の認識が甘かったことを痛感させられトキナは頭を抱える。
だがここでレンセが口を開いた。
「でも芹達は殺されていない。教会の人間が芹達をすぐ殺すのなら、今芹達の近くにいるのは教会の人間じゃない可能性がある」
「確かに、レンセの言う通りじゃの。妾の見た感じじゃと、創世神教会の人間は一割にも満たなかったはずじゃ。残りは傭兵などじゃろう。ただの傭兵なら異世界人をすぐ殺す理由はないはずじゃし、そもそも異世界人であること自体に気付かぬ可能性も高い」
「……なら大丈夫?」
「いや、傭兵はならず者が多いからの。安心してよい状況ではないはずじゃ。じゃが相手が教会でないのなら、助け出すことは可能なはずじゃ」
「あの船の後を追おう」
レンセの言葉には強い意志が込められていた。
「うん」
「それがよいじゃろうの。イルハダルの方は今の妾達ではどうにも出来ぬ。緊急度も船の四人の方が高いじゃろうしの」
「じゃあこのまま船の後をつけるよ。二人共疲れてるとは思うけど」
「妾は大丈夫じゃ。ダメージもアイテムで回復しておるしの」
「……わたしは飛べないから。レンセが抱っこしてくれるなら」
「うん。僕なら平気。じゃあ後を追うよ」
そうしてレンセ達は撤退する飛空艇の後を追い始める。




