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08 終結

 レンセはぎゅっと彩亜を抱きしめながら、ゆっくりと速度を落とし地上へと降り立った。


 着地点は荒野になっていたが、少し離れた所に小さな森が見える。


「彩亜は森で隠れて待っていて」


 レンセは再び空中要塞に目を向けた。


 まだ、助けるべき人間が残っている。


 それは彩亜にも分かっていた。


「……芹も甲板の上に出てる」


「うん知ってる。彩亜の居る所を教えてくれたのは芹だから」


「芹が……」


「うん。芹は自力で脱出するって言ってたけど助けに行きたい」


「うん」


 芹はレンセと先に会えていた。それなのに彩亜の居場所をレンセに教え、芹はレンセの助けを借りなかった。


 芹が自身を犠牲にしたから、レンセは彩亜の元に間に合いこうして彩亜は生きている。


 彩亜にとっても、芹は絶対に助かって欲しい人間だった。


「……芹を助けてあげて」


「うん」


 レンセは再び要塞へと浮上しようとする。


 だが。


「駄目じゃ」


 地上へと降りてきたトキナがレンセを止める。


「トキナさん!」


「……誰?」


 トキナは大きなダメージを受けていた。


 ボコラムの召喚獣との戦いに続きトキナはカルイラと連戦している。


「あの猫女、本当に魔族クラスの力がある。接近戦では妾より上じゃ。主でも激戦を強いられるじゃろう。それに――」


 トキナが上を向くのに合わせ、レンセと彩亜も要塞の方へと意識を向ける。


「シュダーディが動き始めた」


 創世神教会の切り札。剣聖キルリールの魔力が消えていた。


 そして要塞の周囲をシュダーディの《百万の鉄(ミリオンアイアン)》が覆い出す。


「終わりじゃ。教会側にも切り札はあったのじゃろう。じゃがシュダーディを倒すにはどうやら足りなかったようじゃ」


 戦いは終結を迎えようとしていた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「マジかよ。……剣聖様やられちまってんじゃねぇかよぉ!」


 対魔族機関の機関員、エミリス・イグリットは戦場を駆けていた。


 ボコラムに狙われるのを避けるためである。


 だがしばらくして剣聖の魔力が消えたのを察知し、同時に《百万の鉄(ミリオンアイアン)》が戦場を覆い始めるのを肌で感じる。


「ちきしょう。シュダーディが本気出したらもう勝てねぇ。撤退するっきゃないぜこりゃ。カルイラの姉御もちゃんと逃げてくれっといいけどよぉ」


 エミリスは飛空艇の一隻へと向けて駆けて行く。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「シュダーディ様が勝ったか。まあ当然の結果だが」


 戦場の異変を感じつつ、ボコラムは疲れた顔でつぶやく。


 代わる代わる新たな敵から攻撃を受け、ボコラムは怒る以上に疲弊していた。


 《百万の鉄(ミリオンアイアン)》が戦場を覆い始めるのを眺め、戦いが終わることに心から安堵する。


「あの剣聖が死んだなら教会ももう怖くねえ。最大の障害がついに消えたってわけだ。だが京極 トキナ……奴についてはシュダーディ様に報告しねえとな。要塞ごとニムルスに引き返すのはありえねえが、人を送って向こうで何が起きたのか調べねえといけねえか」


 ボコラムは召喚獣を戦場に散らせつつ、すでに戦いの後について考え始めていた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 対魔族機関・機関長、カルイラ・イブリンガーは要塞の端に一人立っている。


 剣聖の魔力が消えたのに驚いた一瞬の隙をつかれ、トキナには逃げられてしまっていた。


「……あの二人の魔族は一体なんだったのでしょうか」


 カルイラはレンセとトキナの正体について考える。


 魔族であるところから、カルイラは二人をイルハダル構成員だと思っていた。


 だからトキナに逃げられても、落ちた彩亜とレンセを含め全員要塞に戻ってくるはず。その後改めて倒してしまえば問題はないとカルイラは踏んでいた。


 だがその三人。誰一人として一向に戻ってくる気配がない。


「異世界人の方はイルハダルから逃げると言っていましたが。……あの二人の魔族は彼女らを連れ戻しに来た構成員ではなかった……?」


 カルイラはレンセ達の正体について考察しようとしていた。だがここで戦場の異変にカルイラも気付く。


「シュダーディが動き出しましたか。つまり……やはりキルリール様は敗れたということ。剣聖は我らの切り札だった。それさえ通じないというのなら。どうやってあのシュダーディを止めるというのか」


 カルイラは剣聖の勝利を信じていた。いや、創世神教会側の誰もが剣聖の勝利を信じていた。


 シュダーディの力は強大である。


 この世界全てにおいてもシュダーディの力は最強だった。


 特にシュダーディは多人数相手の戦いに強い。そのためどれだけの兵力を集めようと数でシュダーディを倒すのは不可能だと言われていた。


 その世界において、唯一シュダーディを倒せると目されていたのが剣聖キルリールだったのである。


 創世神教会の有する単騎の最高戦力。


 彼が一対一で戦えば、シュダーディも倒せるはずだとされていた。


 いや、そうでなければ、それで勝てなければシュダーディを倒す手段はこの世界に存在しないことになってしまう。


 だからこの戦いにおいて、教会側は全員が剣聖の勝利に懸けていたのだ。


 だがその願いは叶わなかった。


 カルイラは数瞬の間思いにふける。だがすぐに気を取り直してカルイラは行動を開始した。


 懐から銃を取り出し上空に発煙弾を打ち上げる。全軍撤退の合図である。


「例え希望が潰えたとしても、我々にあきらめることは許されない。一度本部へと戻り、今後の方策を考えなければなりません」


 カルイラは厳しい表情で戦場を覆いつつある鉄球の群れを眺めていた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「……剣聖は、やはり強かったの」


 シュダーディは戦場全体に《百万の鉄(ミリオンアイアン)》を展開させつつ戦いの余韻に浸っていた。


 謁見の間に剣聖の姿は見えない。


 代わりに直径が三メートルもある巨大な鉄の球が転がっていた。


 元は無数の鉄球だったものである。それがとてつもない圧力でくっつきあい、一つの巨大な塊と化していた。


 剣聖と呼ばれていた最強の剣士は、この鉄の塊の中にいる。だがとてつもない圧力に押しつぶされ、原型を留めてはいないだろう。


 鉄球の下に広がる血溜まりだけが、ここで戦闘が行われたことを示唆している。


「教会の襲撃は想定外じゃったが剣聖を倒せたのは僥倖じゃ。後は予定通り本拠地に戻り神の塔を攻略するのみ。くくっ。このワシにもはや敵はおらぬ。神の塔を攻略し、ワシがこの世界の新たな神となる日もいよいよ近いというわけじゃな」


 戦場を見下ろすシュダーディの顔には、愉悦の表情が浮かんでいた。


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