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06 混戦

 創世神教会・対魔族機関・機関員、エミリス・イグリット。


 勝気な兎人少女はアイテムボックスから新たな魔法銃を取り出しつつ戦場を移動していた。


「シュダーディの相手はもう剣聖様に任せるしかねえ。戦闘タイプじゃねぇあたしがいても足手まといにしかならねえし」


 オレンジ色の髪の上に生えるウサ耳とEカップの豊かな胸を揺らしながらエミリスは戦場を見回す。


「カルイラの姉御は問題ねえ。つうか姉御も剣聖も《使徒化》の真っ最中だかんな。使徒化出来ねえあたしに出番はねえ。あたしはあたしなりにその辺の雑魚でも狩って――」


 その時エミリスの目にトキナが映った。


 トキナは三十体を超すボコラムの召喚獣に囲まれ窮地に立たされている。


「魔族同士の仲間割れか……でも」


 エミリスはトキナの姿を見てすぐに決断した。


「どう見てもまだ少女じゃねぇか! あんな可愛い子に魔物けしかけるなんざボコラムはマジでゲス野郎だな! よし決めた。あたしゃあの少女に味方すんぜ! ボコラムのくそが敵なのは間違いねぇしよ!」


 エミリスは人目に付きにくい場所へと移動し戦闘態勢に移行する。


 甲板上にはコンテナのような物が多数置かれており、それが隠れる場所を生み出していた。


「ヒャッハー! あたしのユニークスキル《アイテムボックス》は携帯武器庫だぜぇ! 異世界兵装でボコラムのくそ召喚獣をミンチにしてやんよぉ!」


 エミリスはスキルを発動させ目の前にブローニングM2重機関銃を出現させる。M2は第一次世界大戦末期に開発された地球のヘビーマシンガンだ。


「この世界にゃ二丁とねえ異世界のレア武装。貫通力重視の特注魔法弾仕様でお見舞いしてやるぜぇ!」


 エミリスは毎秒十発もの速度で魔法弾を連射し始める。


 その威力は凄まじく二分もかからずに召喚獣五体を撃ち落とした。だが。


「ヒャッハー! 弾切れだぁ!」


 百十発の魔法弾帯はすぐに弾切れとなる。


 魔素弾や転移弾ほど高価ではないが、徹甲魔法弾も一発ずつに魔法を込める高価なアーティファクトなのだ。


 また重機関銃は地面に設置して扱うため長く使えばいい的でもあった。


「退散すんぜー」


 エミリスは地面近くにアイテムボックスの境界面を開き対空銃架ごとM2重機関銃を回収。すぐにその場を後にした。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「一体なんだってんだよ本当によぉ!」


 ボコラムは怨嗟の声をあげていた。


 トキナとボコラムの実力に大きな差はない。三十体の召喚獣によりむしろボコラムがトキナを押していた。


 というのに新たな邪魔がまた入る。


 側面からの突然の銃撃。ボコラムは射撃点を確認するがコンテナが邪魔して銃撃者の姿は見えない。


 ボコラムは地上タイプを向かわせるか一瞬迷う。


 だが今はトキナを排除するのが先だと思い再びトキナに目を向けた。だがこの隙にトキナもボコラムの視界から消えている。


「くそがぁぁ……どいつもこいつも俺の邪魔ばかりしやがってぇ」


 怒りに我を忘れそうになりつつもボコラムは再び召喚獣を分散させた。



 創世神教会とイルハダルの通常戦力は五分と五分。ボコラムの召喚獣分イルハダルに多少の分がある。


 だがその召喚獣の数も既に八十体近くに減っていた。


 通常兵力も双方に百名近くの死者が出ている。


 混然とした状態のまま、戦況は消耗戦の様相を呈し始めていた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 レンセは戦場を飛びつつ感知能力を全開にしている。だがあまりにもノイズが多く生徒達の魔力を見分けられずにいた。


 エミリスがシュダーディに放った魔素弾による影響もある。


 妨害魔素の濃度はシュダーディの近くが最も濃い。だが拡散しつつある魔素が戦場全体で魔力感知を困難にしているのだ。


 《魔力隠蔽》をまだ覚えていない彩亜が格上のカルイラに《死撃》を放てたのもこの影響だが、これがレンセの感知を妨害している。


 だがレンセの感知能力の練度は高く、ある程度まで近づけば生徒の魔力を識別出来た。



 そしてレンセは芹達四人の魔力を拾う。



 レンセは真っ直ぐ芹達の元へと飛翔した。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 レンセは少し姿が変わっている。金色と化した髪色に魔族特有の真っ赤な目。


 それを見た芹達四人はレンセの変化に驚きを覚える。


 だが芹はすぐに気を取り直しレンセが近づく前に声を上げた。


「彩亜は向こうだ! 強い敵に追われている! 私達は自力で脱出してみせる! 優先順位を誤るな!」


 二人の視線がぶつかる。


 レンセは芹達も助けたいと思っている。目を見るだけで、その思いは芹にも伝わっていた。


 だがその上で、今は彩亜を助けろと芹はその目で訴える。


 レンセと芹は、互いの意志を言葉以上に目で受け取りあっていた。


 そしてレンセは彩亜のいる方へと向きを変える。



 すぐにレンセは彩亜の魔力を感知した。それと同時に、彩亜を追うカルイラの強大な魔力も。


 レンセは全力で彩亜を追う。


 だがレンセの目に飛び込んできたのは、巨大な竜巻に飲み込まれ、要塞の外へと飛ばされる彩亜の姿であった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「新手の魔族ですか」


 レンセの強大な魔力にカルイラも気付く。


 空中要塞の外へと弾き飛ばした彩亜は落ちて死ぬのみ。カルイラは次の目標をレンセに定めようとした。だが――


 カルイラが戦闘態勢に入るより早く、十二個の黄金球がカルイラを強襲する。


「球体……でも鉄球ではない。数こそ少ないですが威力はシュダーディの《鉄の嵐(アイアンストーム)》より――」


 カルイラは黄金球の直撃を受け吹き飛ばされた。


 《使徒化》しているカルイラはレンセの黄金球を受けても即死はしない。


 だが芹達の攻撃を無傷で防いだカルイラもレンセの黄金球からは大きなダメージを受けていた。


 カルイラは全身に風を纏わせ空中で方向転換する。



 同格の敵と対するために、カルイラは戦場に降り立って初めてその魔力を全開にした。カルイラの目が青く輝く。



 だが体勢を整えたカルイラの目に映ったものは、カルイラを無視して要塞の外に飛び出すレンセの姿であった。


「透明になる異世界人を助けるつもりですね。でもさせません。落下中の異世界人ごと切り刻んで」


 カルイラはレンセと彩亜に狙いを定める。


 だが、ここでカルイラは横から攻撃を受けた。



 トキナである。


 トキナはボコラムの前から消えた後レンセの後を追っていたのだ。


「全く……こんな危険な奴に背を向けるなどレンセは何を考えておるのじゃ。いや違うか。……きちんと優先順位を分かっておる。なればこそ、ここでレンセの邪魔をさせるわけにはいかぬの。何者か知らぬが全力で足止めをさせてもらうぞ」


 彩亜の元へと全力で飛翔するレンセを横目に、トキナとカルイラの戦闘が始まろうとしていた。


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