04 介入開始
「シュダーディの所に突然強い魔力を持つ者が現れおった。一体どうなっておるのじゃ」
空中要塞に向かって上昇しつつトキナは悪態をついていた。だが隣を飛ぶレンセは冷静である。
「戦場では何が起きるか分からなくて当然だよトキナさん。その中で、自分達の目的を忘れないことが一番大事だ」
「うむ。確かに主の言う通りじゃの。……シュダーディは新たな敵と戦闘に入った。創世神教会も本気だったというわけじゃ。こちらにとってこれは悪いことではない。妾は予定通りに敵を攪乱するとしようぞ」
「うん。よろしくお願いするね」
そう言ってレンセとトキナは二手に分かれる。
下側から要塞に取りつくレンセを尻目に、トキナはさらに上昇した。
「妾は五属性の魔法を扱えるが、ここはやはりユニークスキルを使うべきじゃろうの。妾のユニークスキル《黒炎魔法》。まずはボコラムの召喚獣を燃やしてくれようぞ」
トキナは戦場の中から九体の召喚獣に狙いを定める。
戦況はわずかにイルハダルが押していた。だから優勢なイルハダルに攻撃を仕掛けるのは間違いではない。
だがやはり、ボコラムに対する個人的な恨みがトキナの根底にはあっただろう。
トキナはその膨大な魔力を解放し、空中に巨大な黒き炎を出現させる。
その炎が形を変えて、無数の黒き獣が出現した。
「喰らえ、黒獅子」
炎は九体の黒き獅子へと姿を変え、ボコラムの召喚獣へと襲い掛かる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ふ・ざ・け・ん・じゃねぇぞぉお」
ボコラムは怨嗟の声を上げていた。
予想外の苦戦である。
対魔族機関のカルイラはともかく、剣聖キルリールの参戦は既に想定の範囲外だった。
だがここまでなら、創世神教会の攻撃で話がつく。
だがその後のトキナの攻撃。その理不尽さにボコラムは怒りを露わにしていた。
「くそが、トキナ……あれは京極の妹だ。何年も見てねえが間違うわけがねぇ。なんであれが封印部屋から出てやがる! しかもここでか、このタイミングで攻めてくるかよ、ふざけんのも大概にしろよぉぉ!」
創世神教会との戦いが拮抗する中での第三者の介入。ボコラムはいっぱいいっぱいだった。
しかもトキナに至っては、狙ったようにボコラムの召喚獣のみを攻撃している。
九十七体いた召喚獣は、すでに八体が倒されていた。
二体はカルイラによってだが、残り六体はトキナの黒獅子に焼かれている。
返り討ちにした三体を含めて黒獅子は全て消滅していた。だが空中にいるトキナは既に次の魔法を放とうとしている。
「くそが。京極妹に集中しようにも敵には魔族殺しのカルイラもいる。しかもシュダーディ様はさらに強い剣聖と戦闘中。俺は一体どうすりゃいいって言うんだよ」
ボコラムはしばしの間考える、だがすぐに思考を放棄した。
「まあいい。まずは京極の妹が先だ。はん、どうやって出て来たのか知らねぇが、倒した後でじっくり体に聞いてやるよぉ!」
ボコラムは無数の召喚獣をトキナに向ける。飛行タイプを全投入だ。三十体を超す数の魔物がトキナの元へと押し寄せていった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
トキナの戦闘を横目に見つつ、レンセは空中要塞の甲板に降りる。
すぐに敵がレンセの周りを囲んだ。
イルハダルの構成員に創世神教会。どちらも異物であるレンセを敵と判断する。
その両方の戦力を、レンセは一瞬でミンチに変えた。
十二個の黄金球を旋回させ、六人の人間を一瞬で殺す。
レンセはこの時初めて人を殺した。だがレンセの表情に変化はない。
レンセは魔族になっても性格には変化がないように思える。だがその実少し変わっていた。
これは魔族化による影響より、生贄にされ落とされた影響があるかも知れない。そして何より、彩亜に辛い思いをさせてしまったという後悔が、レンセの心の在り様を変えていた。
レンセの心には、今強い優先順位が存在している。
今一番大切なのは、もちろん彩亜を助けることだ。そのためには向かって来る敵を殺すこともレンセは少しもいとわない。
レンセは感知能力を全開にして彩亜の捜索を開始した。
 




