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03 脱出

 要塞の至る所で戦いが続く中、生徒達は各自の部屋へと押し込められていた。


 その部屋の中にも戦いの衝撃は伝わってくる。生徒達もあきらかな異変を感じとっていた。


 そんな中芹は、確信に近い予感を感じている。


 レンセが生きていたとしても、助けを呼ぶにはあまりに早すぎる。だが芹はレンセが来ているのではないかと頭ではなく心で感じた。


 この異変自体は別の物でも、それに乗じてレンセが来ているのではないか。


 それはただの希望的観測かも知れない。だがここは出るべきだと芹は思った。



 生徒達の部屋は中から鍵はかけられても外から閉じ込められる構造にはなっていない。つまりイルハダルは、生徒達を閉じ込める事態を想定していなかったということだ。


 そのため現在は、廊下の先に見張りの者が立っている。


 つまり、それだけ想定外のことが現在起きていると言う事なのだ。


 元々芹は、自分がレンセに助けてもらえるなどとは考えていない。だからこの場にレンセが来ていようと来ていまいと、やる事自体に変わりはなかった。



 自力でここを脱出する。


 その決意を持って、芹は自分の部屋を出た。



「おい貴様! 部屋を出るなと言うのが分からないのか! 今外は危険なんだ!」


 黒いローブに身を包んだイルハダル構成員が芹に叫ぶ。


 そしてこの構成員――雑魚ではなかった。


 実力では芹より格上の相手である。


 大人しく一度部屋に戻り、戦況がより激しくなるのを待つべきかと芹は思った。


 だがその時芹は、本能的に彩亜の部屋を確認する。


 彩亜の部屋の扉が音もなく閉じるのが目に入った。イルハダルの構成員からは見えない角度での出来事だ。


(私が騒ぎを起こしたのに乗じて出て来たか)


 彩亜がいればなんとかなると芹は確信する。



「外で何が起きているのか知らないが、この機に抜け出させてもらうぞ。私には一生貴様らの犬になる気などないのだからな」


 芹は男の注意を引きつつゆっくり近づく。


「馬鹿が、相手は創世神教会。外に出れば殺されるぞ。それにこの世界には黒目黒髪はほとんどいない。仮にここから抜け出せたとしても、迫害されるか珍しい奴隷として売られるのが関の山だ。大人しく部屋に戻れ馬鹿者め」


 男の言う事は事実だろうと芹は思う。


 だが奴隷と言うなら今だって同じだ。


 このまま希望のない未来に甘んじるくらいなら、危険を冒してでも外に出るのが芹の意志だった。だから芹は一歩も引かない。


「例え苦難の道だろうと、希望がないより遥かにマシだ。どかぬなら攻撃させてもらうぞ。私は貴様らを殺すのに躊躇などありはしないのだからな」


「馬鹿が。上級構成員の俺に勝てるとでも思っているのか。俺はニムルス地下迷宮を二十五階層まで下りたこともあるんだ。十階層を攻略したばかりの貴様らに――」


 そう言いかけた所で、男の首から突然大量の血が溢れ出す。


「《死撃》……格上の相手にも効いてくれて良かった」


 彩亜であった。


 首を切り裂かれた男はそのまま地面に崩れ落ちる。


 崩れ落ちた男の隣に、《不可視化(インビジブル)》を解いた彩亜が姿を現した。


「相変わらずすごい能力だな彩亜」


 格上さえ一撃で倒す彩亜の能力に芹は軽い恐怖を覚える。だがすぐ気を取り直して芹は彩亜に話しかけた。


「レンセは来てると思うか?」


「……分からない」


 彩亜にとっても、これは早すぎる変化である。これにレンセが関わっているのかいないのか、彩亜にも知るすべはない。


「……でも」


 彩亜は決意を込めて言葉を続ける。


「わたしは……ここを出る。外に出たらレンセを探す。そしてもし……レンセが生きてなかったら。……その時は全ての仇をこの手で殺す」


 彩亜の目に、芹は先程よりも強い恐怖を感じた。外に出るという決意は同じでも、胸に秘める思いは別物なのだと芹は思う。


 だが芹は、恐怖をこらえて言うべきことを彩亜に言った。


「彩亜。私はお前を止めない。ここから出てどうするかもお前の自由だ。だが最後まで希望は捨てるな。ここにもレンセは来ているかも知れない。だから、無謀な真似だけは絶対にするな」


「うん……」


 彩亜は小さくうなずいた。その後いつもの無表情で芹に尋ねる。


「それで……芹はどうするの?」


 芹は一度後ろを振り返り質問に答えた。


「外に出たい者が他にもいるかも知れない。私はそれを連れて出ようと思う。だが――」


「わたしは……一緒には行かない」


 彩亜は冷たくそう答えた。その答えに、芹も反論することなくうなずく。


「ああ、その方が良いだろうな。生徒の中にはお前を悪く思っている者もいる。お前一人を別行動させるのは本意ではないのだが」


「……大丈夫。わたしの能力なら一人の方が安全」


「だな。こちらのことも彩亜が気にすることはない。レンセに会えたら私達は自力で逃げたと伝えてくれ。レンセに助けてもらえる義理などありはしないが、レンセなら……私達まで助けようとするかも知れないからな」


「……分かった」


 そうして彩亜は姿を消した。



「さてと、一体何人が外に出たいと言うか……」


 芹は引き返して生徒達の部屋を回る。


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