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02 剣聖キルリール

「なんじゃあの召喚獣の数は」


 ボコラムの魔力はレンセとトキナもとらえていた。当然ボコラムが召喚する魔物の数も感じ取れる。


 その召喚獣の数は既に五十体を超えようとしていた。


「あんなに召喚出来たんだ」


 レンセも驚きの声を上げる。


「複数召喚自体は見たことあるがあんな数は初めてじゃ。ボコラムの奴、普段は本気を出しておらなんだな。妾の予測より、イルハダルの戦力は強いかも知れぬ。この戦、教会側の勝ち目は薄いの」


 この戦いにイルハダルが勝利すること自体は、レンセ達にとって悪い話ではなかった。


 もしこここでイルハダルが壊滅すれば、中の生徒達はイルハダルと共に創世神教会の手に落ちる。


 レンセ以外の生徒は魔族化しているわけではない。そのためすぐ殺されるようなことはないはずだが、どのような扱いを受けるかは分からない。


 だからこの戦いでは最終的にイルハダルが勝つ方がレンセ達にとって都合が良かった。


「じゃがイルハダルが圧勝してしまうのも良くはない。介入は早めにせねばならぬかも知れぬな」


 方針の調整が必要かとトキナは思う。



 だがここで教会が動いた。



 先行して天蓋結界を走っていたカルイラが、単身要塞へと突っ込んだのだ。


 レンセ達の目にも、凄い速さで甲板に降り立つカルイラの姿が見えた。


「あの者だけは別格じゃの。ボコラムのすぐ近くに降りたようじゃ。一気に戦いが始まるぞ。妾達も行動を開始しよう」


「うん」


 教会側にもイルハダルに匹敵する戦力は存在する。


 カルイラは甲板に降り立つと同時に、二体の召喚獣と十人以上のイルハダル構成員を屠っていた。


 それから少し遅れて、十隻の飛空艇が空中要塞へと接舷する。


 そうして本格的な戦闘が開始されるのに合わせ、レンセとトキナは要塞へと向かって飛び立った。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「くそがっ、出鼻をくじかれた」


 ボコラムが悪態をつく。


 ボコラムの召喚獣には飛行の出来るものもいた。それらを使い要塞に接舷される前に飛空艇を何隻か落とすつもりであったのだ。


 だがカルイラ・イブリンガーの強襲を受け、ボコラムの予定は大きく狂う。


「あの猫女、また強くなってやがる」


 ボコラムは分が悪いと判断し、召喚獣を何体かおいて後方に一次退避していた。その後もカルイラの相手はせず、召喚獣は全体に広く送り込んでいる。


 逃げる前にはそばに剛もいたが、それもいつの間にかはぐれてしまっていた。


「剛の野郎、俺についてこれなかったか。強い相手からは逃げろとは言ってあるからな。奴を失うのはよくないんだが、死んだらそれまでだったということか」


 ボコラムは改めて全体の戦況を感知する。


「押されてはいねえ。単純兵力は五分と五分、召喚獣がいる分こっちが押してる。だが取りつかれたのはまずかったな。これじゃシュダーディ様がまともに戦えねえ。いっそ《鉄の嵐(アイアンストーム)》で味方ごと吹き飛ばすよう進言するか。……剛も巻き込まれて死ぬかも知れねえが」


 そうつぶやきボコラムは謁見の間を仰ぎ見た。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「……堅いの」


 謁見の間から外を眺めつつ、シュダーディはそんな感想を漏らす。


 シュダーディは既に《百万の鉄(ミリオンアイアン)》を発動させていた。その鉄の暴威によって、シュダーディは飛空艇艦隊に直接攻撃を仕掛けている。


 だが成果はかんばしくなかった。


 飛空艇には強力な障壁が張り巡らされており、シュダーディの《鉄の嵐(アイアンストーム)》に抗っていたのだ。


「神の塔の非破壊オブジェクトを真似た防御結界。向こうからの攻撃も出来なくなるが、防御としては優秀よの。じゃがそれでも人の手で完全な防御など実現しえぬ。このまま攻撃を続ければ飛空艇が落ちるのも時間の問題というわけじゃが」


 シュダーディは眼下の戦況を確認する。


 戦況は混沌としていた。押し負けてはいないが敵味方が入り乱れている。


 中でもカルイラの存在が際立っていた。彼女を止められる者がいない為、戦場をいいようにかき回されている。


「ふむ。邪魔者くらいは消しておくか」


 シュダーディはカルイラの魔力に狙いを定める。



 だがその瞬間、シュダーディめがけて一発の銃弾が放たれた。



「魔法銃か。こしゃくな」


 シュダーディは待機させていた鉄球を操り自らの周りをガードする。


 シュダーディは《百万の鉄(ミリオンアイアン)》の内1%を予備として近くに伏せていた。1%と言っても一万個である。一発の弾丸を防御するなどシュダーディにとっては造作もない。


 だがシュダーディに向けて放たれた銃弾はただの鉛球ではなかった。鉄球によって弾丸を破壊した瞬間、中から大量の魔素が放たれる。


「妨害魔素じゃと」



 通常より遥かに濃い濃度の魔素は、魔力感知を狂わせる。


 レンセもニムルス地下迷宮の封印部屋では、トキナの実力を正確には図りきれていなかった。


 そのような魔素の性質を利用したのが妨害魔素である。


 地球で言う妨害電波のような物と言えるだろう。シュダーディの魔力感知によるレーダーは大きく精度を落としていた。



「ヒャッハー! 一発喰らわせてやったぜぇ! 対魔族機関を舐めんなよくそ魔族がぁ。ほれもう一発喰らえやぁっ!」


 銃弾を放ったのはオレンジ色の髪をした兎人うさにんの少女。言葉は汚いが顔は美人である。長いストレートヘアの上に垂れたウサ耳がついていた。


 この兎人少女のステータスはシュダーディと比べて遥かに低い。


 だが対魔族機関の者は自分より強い敵との戦いに慣れていた。この少女も圧倒的強さを誇るシュダーディに対して微塵もひるむ様子はない。


 そしてその上で、対魔族機関はこの戦いの為に出来うる限りの準備をしていた。



 二つ目の弾丸がシュダーディに迫る。


 これも高濃度の魔素を込めた魔素弾だろうとシュダーディは思った。


 魔素がさらに濃くなれば魔力感知はよりしにくくなる。シュダーディは煩わしいと思いながら二つ目の弾丸も撃ち落とした。そして兎人の少女を鋭くにらむ。


 格上のシュダーディに殺気を放たれ、対魔族機関の少女と言えど体に恐怖を覚える。


 だが少女の目は生きていた。


「……ハハッ。死を覚悟するのはアンタの方だぜシュダーディさん。二発目の弾丸の正体は転移弾! 教会秘蔵の超高いアーティファクトだってんだ。あたしらはアンタを殺す気でこの場にやって来てるんだぜぇ!」


「転移……秘宝級アーティファクトを弾丸にしたか。貴様らそこまでの準備を」


「対魔族機関の悲願。今日で果たさせてもらうぜぇ! くたばれシュダーディ! これがあたし達の切り札だぁ!」


 弾丸を撃ち落とした地点を中心に、転移魔方陣が展開される。


 そしてその中から、一人の男が飛び出した。


「創世神教会・教皇守護隊総隊長、キルリール・ガイリル。参る」


「剣聖キルリール。教皇直属の貴様まで出てきおるか」


「当然だ。大魔族シュダーディよ。創世神教会は貴様の存在を許しはせぬ。これは教皇聖下きょうこうせいか直々の御命令でもある。今日を貴様の命日にせよとな」


 創世神教会における最強の戦力は、対魔族機関のカルイラではない。


 この教皇守護隊総隊長、キルリール・ガイリルこそが最強だった。そしてこの剣聖キルリールは、世界最強の剣士であるとも言われている。


 その最強の剣士が今、シュダーディのいる謁見の間へと降り立った。


「教会が軍を準備出来ぬと油断したなシュダーディよ。正規軍はすぐ編成出来ずとも、戦力を投入する方法はいくらでもあるのだ。我は聖下の護衛の為にこれまで貴様とまみえる機会はなかった。だがこの我がここに来た以上、貴様の命貰い受けるぞ!」


 キルリールがその膨大な魔力を解放する。


 要塞にいる者全てが感じ取れるほどの強大な魔力が、辺り一面へと広がった。


 だがその魔力にあてられてなお、シュダーディの顔から余裕は消えない。


「くくくっ。今日は良い日になりそうじゃの。剣聖キルリール。貴様は存在そのものが邪魔じゃった。じゃがここで貴様を抹殺すれば、創世神教会も少しは大人しくなるじゃろう」


 世界の頂点に位置する二人の戦いが、今まさに始まろうとしていた。


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