02 奴隷召喚
黒ローブ達の代表らしきボコラムは、ナイト達からの質問に丁寧に答えていた。そして驚くべき事実が次々と生徒達に知らされる。
ここはフォニアックと呼ばれる地球とは別の異世界であること。この世界は魔法や魔物などが存在する、いわゆる中世ファンタジー的な世界であること。
そしてこの世界の中心には神の塔と呼ばれる巨大な塔が立っており、その塔を攻略するためにレンセ達は召喚されてきたということだ。
ボコラムがここまで話を進めた所で、一人の生徒がひときわ大きな声をあげた。
「つまり僕達は、この世界に勇者召喚されたってことなんですね!」
声を上げた少年は野崎 小太郎。読書が趣味の少年である。特に異世界物の小説を好んで読んでいた彼は、この状況がまさに異世界召喚物の展開であると興奮していた。
「ってことはあるよね! チート能力! だって僕達わざわざ地球から呼ばれた勇者だもん! ねっ、おじさん。そうでしょそうでしょ!」
興奮する小太郎に対し、ボコラムは冷ややかな態度で返答する。
「確かに貴様らには、我々にはないある種の特性が存在する」
「よっしゃあっ、チートキター!」
小太郎は全身で喜びをあらわにした。
だがボコラムの次の言葉で、小太郎だけでなく生徒全員が地獄の底へと突き落とされる。
「しかし貴様らの待遇は勇者などという物ではない。……奴隷だ」
「――え? 奴隷……?」
小太郎は両手をガッツポーズにしたまま固まっていた。他の生徒達も状況の変化についていけず固まっている。
困惑する生徒達の様子を眺め、ボコラムは笑みを浮かべて語り始めた。
「こんな身寄りもない異世界へと召喚されながら、なぜ自分達の身の安全が保障されると思えるのか。今回の異世界人は本当に……救いようのない馬鹿ばかりだな。都合が良すぎて俺は笑いをこらえるのに苦労したぞ。ククク……ハーハッハッハッ!」
ボコラムはこらえきれずに笑い始めた。
「ハハハッ。よく聞け愚かなガキ共よ! もう一度言うぞ。貴様らは全員我らの奴隷! いや……我らを導いて下さる大魔族、アバカル・シュダーディ様のしもべとなるのだ。シュダーディ様はこの世界で最も偉大なる魔族の頂点。程なく神の塔さえ攻略し、シュダーディ様がこの世界の新たなる神となられる日も近いだろう。我々イルハダルはそのために活動する組織だ。そして貴様らは、神の塔を攻略するための優秀な駒として、こうして我々に召喚されたのだ」
「う、うそだぁっ! 嘘だ嘘だ! そんなの全部でたらめだぁーー!」
小太郎が髪を振り乱して叫んでいた。他の生徒達は話についていけずに茫然としている。
そして生徒達全員が絶望の淵へと沈む中、ボコラムがさらなる絶望へと生徒達を突き落とす。
ボコラムは下卑た笑みを浮かべて、生徒達にこう命令した。
「ではこれより貴様らをこの部屋から出す。だがその前に、貴様らには今着ている服を脱いでもらおう。その後我々の着るこのローブと同じものを羽織ってもらう。これからシュダーディ様のしもべとなる貴様らに、故郷を思い出させるような物など不要だからな。荷物はこちらで処分する。では……全員服を脱げ。その後二列に並び担当の者に荷物を差し出すのだ」
ボコラムの言葉に生徒全員が戦慄した。特に女子の顔が恐怖に震えていく。
多くの人間がひしめくこの中で、女子を含む生徒全員に全裸になれとボコラムは告げていた。
二十八名の生徒達は、みんな肩を震わせ怯えている。
だが一人の女子が声をあげた。
「この中には女の子もたくさんいるんですよ! せめて男女を別にするとか、そういう配慮はないんですか!」
少女の名は池口 渚。クラスの副委員長である。
だが彼女の必死の訴えに対し、ボコラムは冷ややかに答えた。
「だから二列に並べと言っている。男女別がいいならそのように並べ。だがそこまでだ。貴様らが持ち込んだ異物を確実に回収するために、この部屋からは全裸のまま出てもらう。新しい服は外の者から受け取れ。以上だ」
ボコラムは冷たくそう言った。だがその非情な態度に渚がさらに食ってかかる。
「そんなの男子からだって丸見えじゃない! それにあなた達も全員男でしょ! い、いやらしいっ! あんた達、ただ女子高生の裸が見たいだけじゃないの! 変態! 変態変態! このっ――変態犯罪者共!」
叫び声をあげながら、渚はついにボコラムへと掴みかかった。渚はボコラムの頬へと右手で思い切りビンタをぶつけようとする。だが――
――池口 渚の右腕が、宙を舞った。
「初級魔法、《風の刃》だ。丁度いい。貴様らにこの世界の魔法を少し見せてやろう」
「やめろぉぉーーーー!!」
学級委員長のナイトが咄嗟に叫び声をあげる。
だがボコラムはナイトの叫びを無視し再び魔法を詠唱した。ボコラムが掲げる右腕に、緑色の淡い光が収束する。
「この女の死に様を目に焼き付けて、以後は我々の指示に従え。ではいくぞ。切り裂け、《風の刃》」
「――っあ」
手首から先のない右腕を必死に抑え、目を見開いて座り込んでいた池口 渚。その体が、縦真っ二つに両断された。
両断された渚の体から、おびただしい量の血が溢れ出す。
「イ、イヤ……」
「渚ちゃんっ!」
「イヤァァアアアアアアーーーー!!」
壁、床、天井。その全てを鉄に囲まれた部屋の中は、一瞬にして生徒達の絶叫で埋め尽くされた。