04 オリハルコンマント
レンセが黄金球を展開させると共に、アークデビルも戦闘態勢へと移行する。
アークデビルは二足歩行する人型の魔物だ。ただし腕は四本あり、さらに背中には大きな翼、頭からは牛のような角が生えていた。
正に悪魔といった様相である。そのアークデビルは初撃からブレスを放ってきた。
レンセは持ち前の感知能力のよりこれを避ける。
アークデビルのブレスによる攻撃範囲は狭かった。息というよりレーザー光線のような軌跡である。
そのためレッドアリゲーターのブレスよりも避けるのはたやすい。
だがその効果にレンセは恐怖を覚えた。
レンセはまだ黄金球を完全に扱い切れてはいない。そのため一つの黄金球がブレスの直撃を受けていた。
その一つが、石へと変わり地面に転がり落ちている。
「石化のブレス……」
石になった黄金球は反応こそにぶいがまだ操作が出来た。石化したのは表面だけで中はオリハルコンのままだと判断出来る。
ただし、これをレンセ自身が受けるのは絶対にまずいと直感した。
例え表面だけだろうと、生身で石化を受けてどうなるかなどレンセは想像もしたくない。
「……力を見るのは無理そうだね」
レンセは方針を転換する。
ニムルス地下迷宮の魔物ではなく、イルハダルが使役している魔物。その実力をレンセは知りたいと考えていた。
だがそんな余裕はないとレンセは思い直す。むしろイルハダルはそれだけ危険な魔物を所持しているのだと判断した。
レンセは方針を転換し、転生してから初めてその全力を出す。
「七番を除く黄金球全弾。連続突撃!」
レンセは石化した七番を除く十一個の黄金球をアークデビルへと撃ち放つ。
アークデビルは素早かった。飛翔することにより立体的に黄金球を避けようとする。
ニムルス地下迷宮の魔物とは一線を画す敏捷性により、アークデビルは二つの黄金球を避けるのに成功した。
だがそこまでである。
続く三個目の黄金球の直撃を受けた後、残り八個の黄金球をアークデビルは連続で受ける。さらに旋回して戻って来た最初の二つもアークデビルに直撃した。
黄金球はその名の通り球形である。武器の種類としては鈍器であって刃物ではない。
だがその圧倒的な速さと力により、黄金球はアークデビルの翼を突き抜ける。
アークデビルの防御力も高く体まで貫通はしない。だがその際もアークデビルの皮膚と肉を容赦なくえぐり取っていた。
黄金球には一個一個に強い回転がかけられており、触れるだけで相手の肉を削り取るのだ。
その黄金球十一個を連続で何度もくらい続け、アークデビルは悲鳴のような叫びを上げて地面に落下した。
だがアークデビルの闘志は残っている。アークデビルは顔をレンセ本体へと向け石化のブレスを放とうとしていた。
だがレンセに顔を向けたアークデビルの視界に映った物は、オリハルコンナイフをアークデビルの喉元に突き立てようと眼前に迫るレンセの姿であった。
レンセはアークデビルの首にナイフを突き立て、そのまま首から上を切り飛ばす。
「……危険な魔物だったね」
レンセは一人つぶやいた。
結果としては圧勝である。だが石化のブレスは実際危険で黄金球の一つがダメージを受けた。その黄金球もアークデビルを倒した時点で石化が解け始めてはいたが。
そして倒されたアークデビルは光と消え、ドロップアイテムが現れる。
「……迷宮の魔物じゃなくてもアイテム落とすんだ」
レンセはドロップアイテムを少し引いた目で見ていた。だが出てきたアイテムを《鑑定》してそんな疑問も頭から吹き飛ぶ。
「オリハルコンマント……」
相変わらずのソロクリア報酬である。ただし今回は追加のきんのたまではなかった。
金色に輝く大きなマント。背中だけでなく全身を覆い隠せる物だ。鑑定結果は防具と出ている。薄い為に物理防御はほぼないが、魔法に対して高い耐性を持つ防具であった。
ただしそれは、レンセ以外の者が装備した場合の話である。
レンセの《オリハルコン操作》を使えば、このマントはさらに別の効果も発揮する。
レンセはオリハルコンマントに身を包んで飛翔した。
「これはすごく……いいかも知れない」
飛翔感に確かな手応え感じる。レンセはこれまでにも飛行移動を試してはいた。だがそれは黄金球の上に乗るような物であり不安定。戦闘には耐えない代物だった。アークデビルとの戦闘時に地面に降りたのもそのためである。
だが今回手にしたオリハルコンマント。その効果はレンセの満足に足る物だった。
マント全体を操っても普通ならレンセはマントと接する部分に引っ張られる形で飛ぶことになる。だが実際にはそうはならない。
オリハルコンマントの特殊能力でもあるのか、レンセはマントを操作することにより自分の体そのものを《オリハルコン操作》で動かすように空を飛ぶことが出来たのだ。
ここに来てレンセは戦闘にも耐えうる飛行能力を手に入れることとなる。
「少なくともこれで、空中要塞には問題なく戻れる。というか密林ももう問題じゃなくなったね」
レンセが迷宮に潜った一番の目的は地図だった。これは密林の中で遭難しない為の物である。
だが高レベルな飛行能力を手に入れた今、密林を抜けること、そして街を探すことはレンセにとってもはや障害にもならない。
やろうと思えばこのままずっと飛翔し、神の塔に向かうイルハダルの要塞を追いかけることさえ可能なほどだ。
密林の脱出手段を得るという最低限の目的はこの時点で達成されることとなる。
レンセは目的をその次の段階へと移行した。
イルハダルに対抗、もしくはみんなを助けて逃げられるだけの助力を得る。
もちろん助力がなくとも、レンセ自身が途轍もなく強くはなっている。LV82のアークデビルに圧勝し、ボコラムとも戦えそうだという感触をレンセは掴んでいた。
だが――シュダーディである。
奴があまりにも強すぎる。その認識はレンセが魔族となった今でも変わらない。
まだ、力が必要だ。
レンセは目の前の扉に手をかける。
イルハダルに反旗を翻して封印された被召喚者の魔族。
まずはその魔族が使えるか見極める必要がある。
レンセは期待と不安を抱きつつアークデビルが守っていた部屋の中へと入って行った。




