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01 再び迷宮へ

 レンセは魔族へと生まれ変わった。


 その目は真っ赤に染まり、奥から不気味な光を発している。シュダーディやボコラムと同じ瞳へと変貌していた。


 さらに髪の色も変わっている。こちらは金髪になっていた。レンセが手に持つオリハルコンナイフと同じ色である。


 だが今のレンセは自分に起きた変化などどうでも良かった。



 レンセは空を見上げる。


 レンセ達のいた空中要塞は、地上からではわずかな点にしか見えない。


 レンセはすぐにでもあの場に戻りたい衝動にかられる。



 今ならそれは可能だろう。


 下腹から出ていた出血も、魔族へと生まれ変わった際に止まっている。


 手に持つオリハルコンと魔族化した膨大な魔力があれば、要塞まで飛んでいくのは可能なはずだ。


 だがそれは無意味な行為である。



 レンセは今膨大な力を感じている。魔族への転生によりレンセのステータスは根底から別物へと変わっていた。


 だが……魔族は向こうにもいるのだ。しかも最低で二人もいる。


 シュダーディとボコラム。この二人は魔族だとレンセ達は聞いていた。


 要塞にいた十日余りで得られた情報は少ない。


 だがその中で魔族というのが後天的に『成る』物であること、そしてレンセ達はその魔族化への適性が高いためこの世界に召喚されたことを聞いていた。


 魔族になると不老長寿の力を得る。その時点から老いることがなくなるのだ。それに加え、不死身ではないが強い身体能力も手に入る。


 だがこれらは全てシュダーディとボコラムも持っているものだ。


 魔族になっただけでイルハダルに打ち勝つことは出来ない。



 レンセは逸る思いを必死で抑え、これからどうするべきかを考える。



 奇しくもレンセは要塞を脱出出来た。


 周りは見渡す限りのジャングルである。だがこれは神の塔がある山岳地帯に比べればマシだ。


 遭難の危険は多くとも飢えて死ぬことはないだろう。レンセは通常スキルの一つ《鑑定》により、森の植物が食べられる物かも判別出来る。


 現在地も訓練用の迷宮からそれほど離れた場所ではなかった。


 ここからサバイバルしつつ近くの街を探すことは可能だろう。


 だがレンセは別のことを考えていた。



 レンセ達が訓練の為に入っていた、ニムルス地下迷宮と呼ばれるダンジョン。


 その最下層はかつて、イルハダルが拠点として使っていたと聞いている。今は物置だと言っていたので物資も残っているはずだ。その中には恐らく周辺の地図などもあるだろう。


 加えてその最下層には、かつてイルハダルに反抗した魔族が封印されていると聞く。レンセ達の前に召喚された被召喚者の生き残りだ。


 どんな人物かも分からないが、上手くいけばイルハダルと戦うための助力を得られるかも知れない。


 情報と助力。


 この二つを求めて、レンセは密林をさまようのではなくダンジョンを潜る選択をする。



 レンセは感知能力を全開にして周囲の魔力を探った。


 密林内にいる様々な生き物の魔力を感じる。だがその中で、魔力が全く読めない地点が存在した。


 そこがレンセ達の潜っていたニムルス地下迷宮である。


 この世界にある迷宮は中が異界と化していた。ニムルス地下迷宮の中には草原のフロアなども存在したのだ。


 外界とは全く別の空間と化している。


 当然外から中の魔力を探ることも出来ず、それゆえレンセは魔力の空白地点となる迷宮の場所を感知出来たのだ。


 レンセはすぐに地下迷宮の入口を発見し、そのまま中へと潜っていった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 地下一階へと降り立つ。


 この一階層を攻略したのは十日ほど前のことである。だが遠い昔のようにレンセは感じた。


 あの時は他の生徒達と一緒になっての攻略だ。一人で迷宮の中へと入るのは初めての経験である。


 だがレンセは恐怖も感慨も感じてはいなかった。


 レンセは感知能力を全開にし第一層全ての構造を把握する。


 レンセはこの世界に来てからずっと感知能力を鍛えていた。そこに魔族化した膨大な魔力を乗せることで、レンセは階層一つを丸ごと把握するという離れ業をやってのける。


 魔力をソナーのように飛ばすことで、レンセはダンジョンの大まかな地形さえも把握していた。


「…………」


 レンセは魔物の位置を確認しつつ手に持つオリハルコンナイフを眺めた。


 《オリハルコン操作》のスキルを使ってナイフを浮かび上がらせる。


「……飛べ」


 レンセは短くそうつぶやいた。


 瞬間、オリハルコンナイフは信じられない速度で飛翔する。感知範囲内にいる魔物が次々と消えて行くのをレンセは感じた。


 そうして五分もしない内に一階層の魔物は全て消え、レンセの手元にオリハルコンナイフが戻ってくる。



 入口から一歩も動くことさえなく、レンセはフロア上全ての敵を排除したのだ。



 今までのレンセから考えればこれは途轍もないことである。


 だが今のレンセはそれをはしゃいで喜んだりはしなかった。ただ冷静に、今の自分の強さを確認する。


 レンセは第一階層全ての魔物を排除した。オリハルコンナイフを通じて経験値のような物が大量に入ってくるのが分かる。


 十階層のボスを倒した時点でレンセのLVは16になっていた。だがそれでも一つくらいLVが上がっても良さそうな量の経験値である。


 しかしレンセのLVが上がることはなかった。レンセは違和感を覚える。


「……そういえば、まだステータスを確認していなかったね」


 レンセは独り言のようにつぶやき、頭で念じてステータスを表示させた。



国松くにまつ 煉施レンセ】 LV:16 種族:魔族 職能:オリハルコンマスター

HP:10500

MP:12000

攻撃:9500

防御:10500

魔力:12000

魔耐:11000

敏捷:10500

ユニークスキル:《オリハルコン操作》

スキル:《言語理解》《全能力値超強化》《魔力精密操作》《魔力感知》《気配感知》《高速演算》《並列思考》《鑑定》


 能力値が途轍もないことになっている。根本的に別の存在へと変わってしまったのだとレンセは理解した。


「これが魔族化……」


 レンセは自身の体に起きた変化を正しく理解する。


 シュダーディやボコラムと同じ存在に生まれ変わったのだと素直に受け入れられた。


 人間でなくなったことへの忌避感などはない。ただこれで……シュダーディやボコラムを倒せるようになったのか? それだけがレンセの関心事項だった。


 レンセは自身の体の変化を確認しながら、クラスメイト達と共に攻略した迷宮をたった一人で踏破していく。


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