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クラス丸ごと奴隷召喚 ~至高の黄金球使い~  作者: 濃縮原液
第1章 囚われの空中要塞
13/56

13 執行者

 イルハダルのメンバー二人が生徒達の中へと割って入り、レンセを要塞の端へと連れて行く。


 レンセは抵抗しなかった。


 もちろん頭では様々な思考が巡っている。


 だが今のこの状況で、危機を脱する術をレンセは導き出せずにいたのだ。他の生徒を犠牲にする方法はもちろん思いついていたが、レンセはその手段を取れるような性格ではなかった。


 逆に生徒が誰も生贄にならない方法を考えようとしてしまい、結果として方策を出せないままとなってしまっていたのだ。


 だがそれ以上に、レンセには生贄に指名されたショックがあった。


 剛に嫌われているとは思っていたが、死ぬと分かっている生贄に躊躇なく選んでくるとは思わなかった。さらに賛同者も多数出る。


 そのことも、レンセの思考を鈍らせていた。


 今考えることではないと分かっていても、レンセはなぜ自分が生贄に選ばれてしまったか考えてしまう。


 思い当たる節はいくつかある。


 レンセは複数の生徒達から嫉妬を集めていた。


 剛を含む彩亜に気がある生徒に加え、芹とも仲良くなっていたため芹に気がある男子の嫉妬も集めている。


 さらにレンセは生徒達の指揮も行なっていた。


 オリハルコンが手元にないためレンセの戦闘能力は低い。そのレンセが戦わずに指揮を執るのは合理的な役割分担である。


 だが力のないレンセが指示を出すのに納得いかない生徒も多かった。ナイトが認めていたため反抗はせずとも、彼らの心には不満が渦巻いていたのだ。


 これら全てはレンセの能力が高かったための結果であり、なるべくしてなったことである。


 だが、もっと違う行動を取っていれば、違う結果もあったのではないのか。


 その後悔がレンセの思考をさらに鈍らせる。


 そうして思考が定まりきらないまま、レンセはされるがままにイルハダルのメンバーに連れられ、要塞の端へとぼうっと立つ。



 そんなレンセを、他の生徒達も黙って見ていた。


 誰もイルハダルのメンバーに逆らえない。



 生徒達は迷宮の十階層を攻略するまで力をつけたが、まだ初心者レベルにすぎないのだ。


 そして初心者レベルとは言え力をつけた生徒達は、逆に自分達とイルハダルメンバーの力の差を正しく理解する。


 戦っても勝ち目はない。


 生徒達がもっともそう感じるタイミングに合わせて、儀式の日程は設定されているのだ。そのための十階層をクリアしたこの日なのである。



 そうして誰一人抵抗することなく、レンセは一人要塞の端へと立たされる。



 だがここで芹は疑問に思った。


 ここで必ず抵抗するはずの人間が何もしていない。


 芹はその抵抗するはずの人物、西堀にしぼり 彩亜さいあの顔を見る。



 彩亜の顔には表情がなかった。



 普段のポーカーフェイスではない。もっと違う次元の、芹が思わずぞっとするような顔がそこにはあった。


 彩亜の心の中には様々な感情が渦巻いている。それら全てが混じりあい、ぐちゃぐちゃに溶け合った上での無表情だった。



 彩亜が何を考えているのか本当に分からない。



 芹は彩亜の顔に思わず恐怖を感じた。だが今は彩亜の表情を気にしている場合ではないと芹は思い直す。


 そうする間にも儀式は続いていた。


「では、殺し方についてじゃが。どうしようかの? なにせ主らの大事な仲間じゃ。ワシが決めるわけにもいかぬじゃろうて。殺し方はお主たち自身が決めてよいぞ。何かよい意見はないかの」


 シュダーディは嫌らしい笑みを浮かべて問いかける。


 仲間を殺す方法についてさえ、シュダーディは生徒達自身に決めさせるのだ。


 生徒自身に殺し方を決めさせれば、決して残虐な方法にはならないだろう。空中要塞の甲板という地形上、ここから突き落とすというのが一番ありそうな方法である。


 だがそれで十分だとシュダーディは考えていた。


 むしろここで無駄に残虐な方法を取れば、生徒から余計な恨みを買うだけである。


 逆に殺し方まで生徒自身に決めさせれば、自ら殺したという意識をより強く持たせることが出来る。


 だからシュダーディは、絶望にまみれる生徒達を嬉しそうな顔で眺めていた。



 ボコラムも満面の笑みである。


 ボコラムはレンセのことが気に入らなかった。


 リーダーとして指揮を取り生徒達の人望を集めるレンセ。それを危険と思う以上にボコラムはレンセに嫉妬していたのだ。


 しかもレンセの側には彩亜と芹という二人の美少女までついている。


 ボコラムは裏で剛と話しながらレンセの陰口を互いに言い合っていた。


 そのレンセをついに殺すことができる。しかも仲間であるはずのクラスメイトに生贄に指名されての死であるのだ。


 レンセは思考の迷路の中、死んだような目をして立っていた。


 そこに普段のレンセの面影はない。



 ……勝った。



 ボコラムは心の底からそう思う。そしてこの勝利を派手に飾るべき男の顔を見た。


 錦山(にしきやま つよしだ。 


 最後は剛のスキル《爆炎魔法》によってレンセを花火のように散らせる予定である。


 その主役となるべき剛はここに来て少しビビっていた。


 いざ殺すとなると踏ん切りがつかない剛である。だがボコラムの視線に気づいて心を固める。


 どちらにせよ、ここで誰かは犠牲になるのだ。


 だからここでレンセが死ぬのは仕方がない。そう自分に言い訳して剛は止め刺す役に名乗り出ようとする。


 だが――


 剛より先に名乗り出る者の姿があった。



「私が……やる」



 彩亜である。


 一番有り得ない人物が放ったその言葉に、その場にいる全員が言葉を失った。


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